亀山明子さん
1970年5月、東京都東久留米市生まれ。95年3月に現在の東京環境工科専門学校を1期生として卒業後、北海道の知床で公園管理やヒグマ調査、ガイドなどの仕事に就く。2007年に転職、横浜市にある建設コンサルタント会社「ランズ計画研究所」で、ランドスケープ・プランナーとして都市公園などの整備方針や市民参加システムの設計などに従事している。
近年、行政の計画づくりや意思決定の場面で、施策の対象である地域住民の意見や意向を幅広く求める情報交換や意思形成のプロセスが重視されている。いわゆる住民参加の計画づくりだ。
公園づくりでも、新設公園はもちろん既設公園の再整備などにおける整備方針や計画の策定プロセスで、いかに地域の関係団体や住民の意見や意向を反映させるか工夫を凝らすケースが多くなっている。
亀山明子さんの勤め先、ランズ計画研究所は、主に横浜市や神奈川県などの地方自治体が新設または再整備する都市公園や里山公園などの整備方針を定めたり、計画区域内の利用用途を区画するゾーニングや公園施設の設計をしたりといった仕事を請け負っている。
その住民参加の公園づくりの場を設計・運営して、具体的な計画や設計図面に反映させるのが、亀山さんの仕事だ。ワークショップと呼ばれる参加の手法を用いて、関係者それぞれの意見を引き出し、調整していく。
「行政としての立場や考えもありますし、市民同士でもいろんな価値観を持っています。社会的なニーズや設計上の条件など、盛り込まないとならないことも多くあります。それらを調整して計画にまとめ上げていくのが私たちの仕事です。激しく対立している人たちがいて、そこをなんとか収めてまとめたときの方が、むしろ達成感はあります。もめた分、各自の本音が出たわけですから、それを乗り越えてできた計画は確実によいものになりますね」
もともと“橋渡し役”が性に合っていたという亀山さん。インタープリターの仕事でも、自然を知らない人がその魅力やかけがえのなさに気付くきっかけをつくれることに喜びを感じていた。自然と人との架け橋だ。行政と市民の橋渡しをする今の仕事も、土俵が変わっただけで本質はそれほど変わらないという。いろいろな立場や意見の人たちが話し合いながらまとめていく、それこそが自然環境の保全にとっても大事になる。「設計」といういわば畑違いの仕事ではあるものの、これまでの経験が生かせたし、むしろそれまで以上にやりたかったことがどっぷりできている実感もあるという。
武蔵野の面影を色濃く残す東京都東久留米市に育った亀山さん、小さい頃から小鳥やウサギなどの動物を飼っていた。週末には家族で河原のバーベキューや山登りなどに出かけた。野生動物を取り上げたテレビ番組もよく観ていた。いつの頃からか、将来は野生動物に関わる仕事をしたいと思うようになっていったという。
高校を出て、北海道の酪農系短大に進学。自然や野生動物に関わる仕事といっても、当時はそれほど現実的に考えられる職業がなく、獣医になるくらいしかイメージが湧かなかった。短大を卒業したあとも、フリーターをしながら北海道にとどまって、進路に迷いつつも、気ままな生活を満喫していた。
そんなある日、愛読していたアウトドア系の雑誌に、フィールドワークのできるレンジャーを養成する専門学校ができると紹介されているのを読んだ。これこそ自分のやりたかった仕事なんじゃないかと、実家の東京に戻って入学の手続きを進めた。
北海道で野生のヒグマをみたことがきっかけで、クマに興味を持っていた。クマのことを知りたい、クマの調査をしたい、そんな希望を持っていたところ、知床でヒグマ調査をしている人に出会うきっかけがあった。授業の合間を縫って、ヒグマ調査のボランティアに参加した。卒業後、その縁で始めはアルバイトとしてだったが採用してもらえることになった。
専門学校では、フィールドワークの基礎を浅くながらも広く学び、最低限の道具も揃えたから、即戦力として使ってもらえた。それこそ、狩猟論から生物分類や林業実習など幅広く学んだ。これがマネジメントする立場になったときに役立った。特に自然保護の現場では、研究よりも調整が重視される場面も少なくない。さまざまな分野を囓っただけとはいえ知っていることは強みになった。
専門学校で言われた中で印象に残っているのが、「ゼネラリストのスペシャリストになれ」という言葉だ。研究者になりたいなら大学に行けばいい。でも人の生活や社会との軋轢の中で自然を守っている現場の最前線では、人と人や人と自然との調整が重要になり、そのために求められるのがゼネラリストの役割だ。
現在、仕事上では野生動物との直接的な関わりはあまりないが、プライベートでクマと関わるようにしているという。
「仕事にしちゃうと、仕事ゆえのジレンマを覚えることもあるじゃないですか。プライベートで関わった方が好きなことを自由にできますから。『日本クマネットワーク(JBN)』という任意団体があって、今はそこで主に普及啓発の活動をしています。毛皮や頭骨などをひとまとめにした学習教材『ツキノワグマ・トランクキット』を作って、クマの出没している小学校の授業でクマ・レクチャーをしたり、貸出したりしています」
今の仕事をしていて特に感じるのは、何事も極端に偏っていては進まないということ。自然についても、保護一辺倒では難しい。場所によっても違うから、対象となる場所の環境特性を加味して、目をつぶるところも持ちつつ、妥協点を探していく。そうして、皆が納得できるロジックを提示していく。皆が皆100%満足するかというとそうでもないかも知れない。でも、それぞれの言いたいことが50%ずつでも盛り込まれて、それなりに納得できるような落としどころを見つけることができれば、大きな不満はなくなる。
言い換えれば、納得できる幅をどれだけ大きくできるかが、腕のみせどころだ。技術的に解決できる面もあって、自然を守りながら施設を造るための提案もする。白か黒かの二択ではなく、やり方によってはどちらの考えも取り入れられる。当事者ではない第三者としての客観的立場に立てるからこそ、まとめ役を担っていくことができる。
その反面、第三者でしかないがゆえに、“点”としての関わりにとどまらざる得をえない限界もある。行政からの業務は基本的に単年度契約だから、ある年にその仕事を請けても次の年も担当するとは限らない。保全管理計画を作っても、計画ができるまでの関わりでしかなく、その後の管理には多くの場合、関わることができない。こういう公園にしようと計画を作っても、本当に計画通りの公園になっているのかを見守ること、あるいは計画の妥当性について検証することも業務上はできない。
「そこが、淋しい部分ですね。結局、地元で関わっている人が強いということをすごく感じます。行政の担当者も異動があるから何年かするといなくなります。残るのは地域に住んでいる人たちで、よいところも悪いところも引っくるめて、すべてをこうむっていくことになるんです。だからこそ、地域の人たち意見を大事にしたいと、いつも思っています」
・プロッキー:裏写りしないように、油性でなく水性マジックを使っている。
・付箋:大きめのものの方が書き込みやすい。
・ドラフティングテープ:地図や計画図などを壁に張り出すときに使う。どこに貼っても跡が残らないので便利。
・名札:ワークショップに参加する人たち全員につけてもらい、お互いに名前がわかるようにする。
・カメラ&レコーダー:記録をとって、情報共有の素材を取る。
・ポインター(または指し棒):壁に張った地図などの位置を説明するときなどに使っている。
・地図:計画前の現況図など。現在の状況と特徴を説明し、どうしていきたいか、それぞれの思いや考えを話し合う。
7:00-7:30 起床
8:30 家を出る(電車で移動)
9:30 出社
午前中、デスクワーク、ワークショップの準備など。
12:00 昼食。たいていはコンビニ弁当で済ませている。
昼食後、ワークショップ会場に移動。会場は、地域の公民館や役所の会議室など。
会場設営、受付準備など。
15:00 ワークショップ開始。土日か、平日の場合は午後に開催することが多い。
進行、まとめを担当する。ワークショップの所要時間は、だいたい2時間ほど。
片づけ、撤収。
18:00 帰社
道具の片づけ、写真など記録の整理
合間に、夕食(コンビニ弁当で済ませることが多い)
21:00-23:00 終電ギリギリで帰宅の途へ
テレビのスポーツニュースなどを見てくつろぐ。
24:00頃 就寝
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