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「自然を守る仕事」バックナンバー

0142013.12.03UP自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある-リハビリテーター・吉田勇磯さん-

病気や事故の野生動物を保護し、ケアする仕事

吉田勇磯(よしだゆうき)さん
吉田勇磯(よしだゆうき)さん
1987年8月、生まれも育ちも東京。
高卒後に専門学校で学び、修了後は、釧路にある環境省の事務所で派遣職員として1年間勤めた後、2010年から現在の職場である猛禽類医学研究所(釧路野生生物保護センター内)に就職。研究員・リハビリテーターとして、傷病鳥獣の飼育管理やリハビリ、放鳥地の探索や放鳥後の追跡調査などの業務に携わる。

 事故などに遭って怪我をした野生動物の治療後のケアや野生復帰に向けた訓練などを行うリハビリテーターという職業がある。いわば野生動物を野生に復帰させるためのケアを実践する仕事である。
 中でも、野生状態のものは日本では北海道でしか見られないオオワシ・オジロワシやシマフクロウなどの希少猛禽類を専門に扱っているのが、環境省釧路湿原野生生物保護センターを拠点とする猛禽類医学研究所。環境省からの業務委託によって、施設内にある飼育ケージの中で、怪我をした希少鳥類の飼育・リハビリを行い、最終的に放鳥をめざすのが同研究所の主な仕事。吉田勇磯さんは、2010年から、研究員・リハビリテーターとして勤務し、傷病個体の飼育管理やリハビリ、放鳥地の探索や放鳥後の追跡調査などの業務に携わっている。また、傷病個体だけでなく、環境アセスメントの調査や保護増殖事業のための標識調査など、健康な野生猛禽類の保護・調査なども仕事の大きな比率を占める。
 「リハビリテーターは獣医ではありませんので、治療そのものをすることはありません。その補助をしたり、治療後の飼育と放鳥に向けたリハビリを担当したりするのが主な仕事の内容です。怪我をした鳥が徐々に回復していく過程に携わって、いざ放鳥となったときが、もっともうれしい瞬間ですね」
 吉田さんはそう言って目を細める。

奥行き40mもある大型のフライングケージ内でリハビリ中のオオワシ。(写真提供:猛禽類医学研究所)
奥行き40mもある大型のフライングケージ内でリハビリ中のオオワシ。(写真提供:猛禽類医学研究所)

奥行き40mもある大型のフライングケージ内でリハビリ中のオオワシ。一番高い止まり木にいるのは、今年3月に事故にあって保護された個体。左の写真は保護された当時の様子。車にぶつかったと思われる右半身に麻痺が続いて立つこともできない状態だった。(写真提供:猛禽類医学研究所)

結氷した湖の岸に輸送ケージを置いて、そっと扉を開いて、放鳥。勢いよく飛びだしていくオオワシ。(写真提供:猛禽類医学研究所)
結氷した湖の岸に輸送ケージを置いて、そっと扉を開いて、放鳥。勢いよく飛びだしていくオオワシ。(写真提供:猛禽類医学研究所)

結氷した湖の岸に輸送ケージを置いて、そっと扉を開いて、放鳥。勢いよく飛びだしていくオオワシ。(写真提供:猛禽類医学研究所)

やってみれば、意外と何とかなる ―実習を通じて得た自信

 東京で生まれ育った吉田さんだが、子どもの頃から自然の中で過ごし、遊んでいた。といっても、大都市東京の自然だから、都市公園が主なフィールドだ。学校自体が、蚕糸の森公園というかつて農水省の蚕糸試験場があった跡地を整備した広大な公園の中に一体的に整備されていることもあって、学校帰りにはいつも池などでカエルやカメやコイなどを探して過ごし、家で飼育もしていた。動物が好きで、いつしか将来は獣医になりたいと思うようになっていた。
 高校を卒業して、獣医をめざしたものの、受験に失敗。獣医以外で動物や環境について学べる学校を探して、東京環境工科専門学校に通うことになった。今でも強く印象に残っているのは、1年次のときの黒姫実習。自分たちで食事を作ったり、ビニールシートを広げて野宿をしたりと、それまで経験したこともなかったことに挑戦させられた。わけもわからずこなしていったが、やってみると意外と何とかなるものだと思えたのが大きな自信になった。
 今、北海道で仕事をしていて、調査などでは日没後から朝方まで物音を立てないようにじっと観察していることもある。冬季の北海道は氷点下以下にもなって、そんな中で車中泊することもある。そんなとき、やってみて何とかなったというあの時の経験と自信が、今の仕事にも活きていることを実感するという吉田さんだ。
 もう一つ大きかったのが、特別講座でリハビリテーターの話を聞けたこと。リハビリテーターという仕事があることを知った最初の出会いだった。入学当初は、漠然と自然に関わって、動物にも関われたらいいなと思っていたに過ぎなかったのが、リハビリテーターという仕事を知って、明確な目標ができた気がした。その後はリハビリの現場で実務研修にも通い、リハビリテーターとして仕事をしていくことに対して、より明確なビジョンを描いていけるようになっていった。

冬季の野外調査。(写真提供:猛禽類医学研究所)
冬季の野外調査。(写真提供:猛禽類医学研究所)

冬季の野外調査。雪の上だからこそ残る野生動物の痕跡を求めて歩き回る。一際目を引く薄汚れた木があり、近寄ってみると、根本にはエゾモモンガの小さなフンがたくさん散乱していた。見上げると、キツツキがあけた小さな穴があり、そこを棲家にしているらしかった。(写真提供:猛禽類医学研究所)

北海道東部の野外調査で観察したオオワシたち。凍り始めた岸辺にずらりと並ぶ。(写真提供:猛禽類医学研究所)
北海道東部の野外調査で観察したオオワシたち。凍り始めた岸辺にずらりと並ぶ。(写真提供:猛禽類医学研究所)

北海道東部の野外調査で観察したオオワシたち。凍り始めた岸辺にずらりと並ぶ。(写真提供:猛禽類医学研究所)

救護実習。写真は、2013年7月に帯広市で開催された野生動物救護研究会のフォーラムの一コマ。(写真提供:猛禽類医学研究所)
救護実習。写真は、2013年7月に帯広市で開催された野生動物救護研究会のフォーラムの一コマ。(写真提供:猛禽類医学研究所)

救護実習。写真は、2013年7月に帯広市で開催された野生動物救護研究会のフォーラムの一コマ。立場変わって、交通事故で収容されたノスリのリハビリテーションの症例について発表した。(写真提供:猛禽類医学研究所)

対処療法だけでなく、根本対策のための取り組みもしていきたい

 リハビリテーターの仕事のもっとも難しい点は、物言わない野生動物を相手にしていること。言葉は通じないし、人間側の都合とは関係なく、本能のままに生きる。よかれと思ってやったことが鳥にとってはむしろ迷惑だったりすることもあった。
 「せっかく作った止まり木が、なかなか思うように使ってもらえないことも少なくはありません。太さや位置が鳥にとって望ましくなかったようなんです。利用してもらえなかったり、ひどいときには飛んでいてぶつかってしまい、怪我をさせたりしたこともありました。もっと鳥のことをよく知って、わかってあげたいと痛切に思います」
 一方、治療がうまくいっても野生復帰させられないこともある。交通事故などで翼が欠損するなど致命的な怪我を負った個体は、怪我が治っても野生には放せないから、永久飼育することになる。動物園はどこもすでに飼育個体がいるから、受け入れ先を見つけるのは困難だ。飼育個体の場合、20年以上生きることもあるから、すでに飼育ケージもほぼ満杯になりつつある。

成育異常のシマフクロウ。(写真提供:猛禽類医学研究所)
成育異常のシマフクロウ。(写真提供:猛禽類医学研究所)

成育異常のシマフクロウ。体が小さいまま成長がストップ、野生復帰は困難と判断し、ケージの中で一生を送ることになった。(写真提供:猛禽類医学研究所)

巣立ちに失敗して保護されたオジロワシの幼鳥が、約10ヶ月のリハビリを終えて迎えた放鳥の日。(写真提供:猛禽類医学研究所)
巣立ちに失敗して保護されたオジロワシの幼鳥が、約10ヶ月のリハビリを終えて迎えた放鳥の日。数日後にワシが止まっていたのは、感電する可能性がある電線の上だった。高い場所を好む猛禽類は、電柱や電線を止まり場として利用することも多い。(写真提供:猛禽類医学研究所)

 今現在、吉田さんが携わっている仕事は、飼育やリハビリをしたり調査をしたりと、個体を相手にした内容が主だ。さらに知識を深め、経験を重ねていくと同時に、もう少し分野の違う方向の勉強もして、仕事の幅を広げていきたいという。
 「リハビリテーターの仕事は、どうしても個体相手になってしまいます。でも、野生鳥獣が怪我をしたり事故に遭ったりするのにも原因があるのです。ことにその原因が人為的なものであった場合、事故が起こっている場の方を何とかすることで、怪我や事故が頻発するような状況をなくすことができるはずです。傷病個体の対処も大切ですが、もう少し生態系そのものも含めた根本的な対策にもかかわっていけたらいいなと思っています」
 そのためには、より広く学んで、経験と見解を深めていくことが必要となる。かつて、GISを学んだ経験が今の仕事にも役に立っているという。多少自分の思うこととは違うようなことも、こだわり過ぎずにやってみると、それが後々いい経験値として活きてくることがあるはずだと、貪欲な姿勢を見せる吉田さんだ。


リハビリテーターのための“七つ道具”

肘までカバーする革手袋。(写真提供:猛禽類医学研究所)
肘までカバーする革手袋。(写真提供:猛禽類医学研究所)

①長靴
②双眼鏡
 猛禽類の保護ゲージは規模が大きいので、顔の表情や怪我の部分を詳しく観察するのに欠かせない。特にリハビリ中の個体の場合は、近くに寄ってしまうと人を警戒して鳥本来の動きが見られなくなってしまうため、遠くから観察することも多い。調査の際にも必要な道具だ。
③カメラ
 リハビリ中の状態記録や、調査地での個体識別などのため、写真に記録している。
④フィールドノート
⑤革手袋(ヒジまである長いもの)
 猛禽類を扱うため、鋭いクチバシやツメで怪我をしないように、革手袋をはめる。手の部分(黒い部分)に柔らかいエルクの革、腕の部分(茶色部分)は硬い牛革を使用し、肘までカバーできる長さにしてある。
⑥時計
⑦雨具

一日のスケジュール

飼育ケージ内には、暗視機能を備えたリモートカメラが設置され、研究室のモニター室で確認できる。(写真提供:猛禽類医学研究所)
飼育ケージ内には、暗視機能を備えたリモートカメラが設置され、研究室のモニター室で確認できる。(写真提供:猛禽類医学研究所)
飼育ケージ内には、暗視機能を備えたリモートカメラが設置され、研究室のモニター室で確認できる。モニターには、ケージ内の他、入院室や巣箱の中の様子なども映し出され、人が近づくことなく観察できるため、鳥にストレスを与えずに健康状態やリハビリの進行状況等を確認することができる。(写真提供:猛禽類医学研究所)

7:30 起床
朝食はとらずに家を出る。出社途中の車の中、おにぎりなどを頬張る。
8:30-9:00 出社
作業、飼育、水代え、エサやり、状態観察
エサは1日1回、その日に必要な量をまとめて給餌。ただし、治療中の場合は、分けて与えたり、エサに薬を混ぜて与えたりすることもある。
給餌の時間帯は、ワシは日中、シマフクロウは夕暮れ時。
飼育担当の職員が4名いるが、調査等で出てしまったりして、1-2人でこなすことも少なくはない。治療中の個体などにかかりきりになることもある。
13:00頃 1人で作業していると、昼過ぎまでかかる。昼食を食べながら、飼育日誌を記録。いた場所、様子、エサの量(給餌量と残量)、リハビリの状態(どんな訓練をして、どんな状態だったかなど)。例えば、どのくらいの距離を飛べたか、そのときの体力はどうだったか(息を切らしていたのか、余力があったかなど)を確認し、記録する。
なお、昼食はセンター近くに食堂がないため、コンビニで買って食べている。

午後 デスクワーク(調査データのまとめなど)
止まり木の補修など飼育施設の修理・修繕などがあると一日中作業していることもある。
治療個体がある場合は、状態に合わせて薬の投与など。
夕方、暗くなるとシマフクロウが動き出すため、エサやりや状態確認。
19:00(早ければ) 帰宅
帰宅後は寝るだけだ。翌日が調査のことも多く、朝は早い。例えば、遠方で調査があったりすると、8時頃の開始の場合、5時-6時には家を出て現地に向かう。そんな日は、夕方16時頃まで調査をして戻る。

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このレポートへの感想

昔から動物が大好きで、特に鳥に関してはとても興味があります。今、野生動物と人間の共生について学校の課題研究論文で調べていて、将来野生動物を助けることに携わりたいと思っていたところ、先日齋藤さんの講演を聞き、野生動物を助けたいという気持ちが明確になりました。
そんな私にとって将来に向けて、とても力を与えてくれるレポートでした!本当に頑張ろうと思えました。ありがとうございます。
(2016.06.27)

昔から動物が大好きで、特に鳥に関してはとても興味があります。今、野生動物と人間の共生について学校の課題研究論文で調べていて、将来野生動物を助けることに携わりたいと思っていたところ、先日齋藤さんの講演を聞き、野生動物を助けたいという気持ちが明確になりました。
そんな私にとって将来に向けて、とても力を与えてくれるレポートでした!本当に頑張ろうと思えました。ありがとうございます。
(2016.06.26)

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  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
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