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「自然を守る仕事」バックナンバー

0012010.02.23UP身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい-インタープリター・工藤朝子さん-

生き物の話を楽しそうに聞く人々

工藤朝子さん
工藤朝子さん。1983年埼玉県生まれ。07年より「北区立自然ふれあい情報館」勤務。

 JR埼京線の赤羽駅から歩いて15分、住宅街の中にある「北区立清水坂公園」は、武蔵野台地の崖地を利用して作られた都市公園だ。高低差のある敷地には広大な芝生広場やローラー滑り台、じゃぶじゃぶ池などが整備されており、一年を通して親子連れを中心とした区民の憩いの場となっている。その一角にある三角屋根の建物が、工藤朝子さんの職場「自然ふれあい情報館」である。地元の自然を紹介したパネルが展示されたにぎやかな館内を抜けると、池の周りに木道が整備された自然観察園が広がっていた。公園の喧噪とは対称的な木々に囲まれた静かなこの空間は、多くの生き物が生息できるように環境を整えた場所だという。

 「ここは区民の皆さんに地元の自然環境への理解を深めてもらうための施設。情報館の裏にある自然観察園には、昆虫だけで130種類以上が生息しています。こんな街中にも意外と生き物はたくさんいるんですよ」
 工藤さんの仕事は、来館者対応や自然観察園のガイド、展示物の企画・作成、環境教室・講座の企画運営、生物調査、自然観察園の管理作業、情報誌の編集と幅広い。
 「やりがいを感じるのは自然観察園でのガイドの仕事。子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで幅広い世代の人たちに生き物の話を伝えられること、そして人々が生き物と楽しそうにふれあう様子を直に見られることがすごく幸せです。私が『教える』のではなく、参加者が『自分で気づく』ようなガイドを心がけています。その方が、一人ひとりの気持ちにしっかり残って吸収しやすいと思うから」

北区立自然ふれあい情報館の外観(東京都北区)
北区立自然ふれあい情報館の外観
(東京都北区)

自然観察園のガイド
自然観察園のガイド

仕事で大切なのは人とのつながり

ムクロジの果実の実験
ムクロジの果実の実験

 田畑や林の多く残る埼玉県西部の田園地帯で育った工藤さん。
 「家族で山登りを楽しんだり、庭に野鳥が巣作りする様子を見守ったり。実家の目の前に圏央道が建設されることになって、どんどん雑木林が切られていく様子を悲しい思いで見ていたこともよく覚えています」
 中学の頃から自然に関わる仕事に就きたいと考えるようになり、高校卒業後に東京環境工科専門学校へ。自分と同じように自然に関心を持つ幅広い年代のクラスメートや、卒業後も進路の相談や生き物の質問に親身になってくれる講師陣と出会えた。
 「卒業後はNPOやコンサル会社などでのアルバイトを経て現在の会社へ就職しました。仕事をする中で感じることは、いろんな人たちに助けられているということ。こういう仕事をしていると生き物だけを見ていればいい、と思われがちですが、それ以上に人との付き合いを大事にしていかないとだめだなと思います。例えば、情報や意見を交換することで知識を深めることができるし、生き物の種類や生態がわからない時や仕事の進め方で悩んだときも、仕事仲間、専門学校の先生、友人、両親などたくさんの人に助けていただいています。人とのつながりが今の私の支えになっているんだなと仕事に就いてからさらに実感しました」

もっと生き物を好きになってもらいたい

「ガイドのとき、プラスチックの透明容器が重宝します」と工藤さん
「ガイドのとき、プラスチックの透明容器が重宝します」と工藤さん

フクジュソウの観察路づくり
フクジュソウの観察路づくり

 ガイドをするとき、ペットボトルなどの透明容器に虫を入れて見せることも多い。虫が逃げないだけでなく、虫に触れるのを嫌がる女の子にも間近でじっくり観察してもらえるからだ。
 「時々、虫をおもちゃで遊ぶかのように扱う子を見かけます。そういうときには、命の大切さを知ってもらうことから子どもたちに伝えていかなければ、と思います。小さなことかもしれませんが、生き物を大事にしよう、身近な環境を大切にしようという思いがなければ、温暖化など地球を取り巻く大きな問題を考えることのできる人に成長しないと思うんです」
 専門学校の頃、夢見ていたのは自然に関わる仕事の中でも「伝える仕事」だった。インタープリターとして働く今、工藤さんはまさにその夢を叶えたことになる。
 「街の中にいても『自然を伝える仕事』はできる、と今の職場に来てから日々実感しています。一人でも多くの人に自分の身近にある自然に対する興味を深めてもらうこと。それが未来の地球や自然環境に対して私ができる一番の貢献だと思っています」

必須アイテム

必須アイテム
必須アイテム

 ガイドの際に持ち歩く手提げの中には野鳥や昆虫の図鑑、デジカメ、メモ帳、救急用品などが入っている。「昆虫の観察や木の実を使った実験などに使うプラスチック製の容器も欠かせません。コンビニでデザートを選ぶときでも、つい『このプラスチック容器は可愛い形だから展示で使えそう』とか考えちゃうんですよ。職業病ですかね(笑)」

1日のスケジュール

07:00  起床。通勤は電車を利用して約1時間。

08:50  出勤後、まずは館内の清掃&チェックを。「生き物へのエサやりや健康状態の確認、展示物の補修をしたり、開館前にやるべきことも多いんです」

09:30  開館。来館者の対応を優先しながら、報告書の作成や展示物の製作、イベントの企画立案などのデスクワークをこなす。自然観察園のガイドは1日4回(各回20分)。「来館者が多い季節にはガイドと生き物たちの生活を写したビデオの上映を繰り返し、来館者対応だけであっという間に時間がたってしまいます」

16:30 閉館後、残っているデスクワークを仕上げる。

19:30 退社。講座の準備・実施に追われたり、展示物を作っているとあっという間に時間が過ぎてしまい、時には22時頃まで残業する日もあるという。「自分の中で『この時間まで!』と目標を立てて仕事をするようにしています」

20:30 帰宅。

25:00 就寝。

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このレポートへの感想

植物や生き物を大事する大切さがとても重要だなと言うことが凄く良く伝わってきました。
これからも頑張って下さい!
(2020.10.29)

半年ほど前に、近くに引っ越しました。
清水坂公園は尾澤氏の監修・設計ですね、
素晴らしいです。
彼は近代造園開祖・伊藤邦衛に師事してますね。
伊藤氏のは作品は
世田谷公園、故郷の浜松中央
公園も有り、この清水坂公園の景観が
何故かしっくりする訳も分かりました。
多くの人達が、憩いを求めて、
ここへ訪れるのは理解出来ます。
(2012.03.21)

そして夢が形になっている姿はとても眩しい!!
人とのつながりを大事にしている気持は、来館する人にも伝わっているでしょうね。
残業も苦じゃないかもしれないけれど、体には気をつけてこれからもお仕事楽しんでがんばってください。
(2010.02.27)

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  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」-インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」 -ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」 -野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」 -森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」 -NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」 -野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」 -造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」 -公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
  26. 026「昆虫を飼育するうえで、どんな場所に棲んでいて、どんな生活をしているか、現地での様子を見るのはすごく大事」 -昆虫飼育員兼インタープリター・腰塚祐介さん-
  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
  28. 028「生きものの魅力とともに、生きものに関わる人たちの思いと熱量を伝えるために」 -番組制作ディレクター・余座まりんさん-
  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」 -ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-
  33. 033「人の社会の中で仕事をする以上、人とかかわることに向き合っていくことを避けては通れない」 -ネイチャーガイド・山部茜さん-
  34. 034「知っている植物が増えて、普段見ていた景色が変わっていくのを実感」 -植物調査員・江口哲平さん-
  35. 035「日本全国の多彩なフィールドの管理経営を担う」 -国家公務員(林野庁治山技術官)・小檜山諒さん-
  36. 036「身近にいる生き物との出会いや触れ合いの機会を提供するための施設管理」 -自然観察の森・解説員 木谷昌史さん-
  37. 037「“里山は学びの原点!” 自然とともにある里山の暮らしにこそ、未来へ受け継ぐヒントがある」 -地域づくりNPOの理事・スタッフ 松川菜々子さん-
  38. 038「一方的な対策提案ではなく、住民自身が自分に合った対策を選択できるように対話を重ねて判断材料を整理する」 -鳥獣被害対策コーディネーター・堀部良太さん-

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