メインコンテンツ ここから

「自然を守る仕事」バックナンバー

0182015.03.31UP木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す-造園業・菊地優太さん-

お寺の山門の脇に立つ大きなケヤキの伐採作業

菊地優太(きくちゆうた)さん
菊地優太(きくちゆうた)さん
1994年1月生まれ。横浜市で育つ。
高校を卒業して入学した東京環境工科専門学校では、自然環境保全学科に学ぶ。入学当時は渋谷にあった校舎が、2年次になって錦糸町に移転するという、ちょうど端境期の学年だった。
2014年3月に卒業して、新卒として今の職場に入社した。

取材に伺った日は、ようやく半分ほど根の掘り出し作業が終わったところ。まだ先は長い。
取材に伺った日は、ようやく半分ほど根の掘り出し作業が終わったところ。まだ先は長い。

伐り出した根っこをクレーンで吊り上げて搬出。
伐り出した根っこをクレーンで吊り上げて搬出。

 世田谷区弦巻にある常在寺は、永正3年(1506年)に創建した日蓮宗の寺院。この日、東急世田谷線の世田谷駅から徒歩約7分に立地するこの寺の山門のすぐ脇に立つ大きなケヤキの木の伐採作業が行われていると聞いて、現地を訪ねた。
 「伐採した木はクレーン車で吊り上げ4トンダンプで搬出しましたが、土の中に残る根っこを取り除く抜根作業がまだ終わっていません。通常は重機を入れて掘り出すのですが、ここは壁に囲まれた狭い敷地に立っているため重機を入れられず、手作業で行っています。もう一週間ほど通い詰めで作業していますが、まだようやく半分ほどが終わったところです。今週中に終わるかどうか…」
 そう話すのは、株式会社山芳園の菊地優太さん。2014年4月に入社してちょうど一年が経つ。

伐採中の様子(菊地さん提供)
伐採中の様子(菊地さん提供)

伐採後、残った根っこを掘り出す作業がある。狭い敷地のため重機を入れられず、手作業で少しずつ掘り出していく。(菊地さん提供)
伐採後、残った根っこを掘り出す作業がある。狭い敷地のため重機を入れられず、手作業で少しずつ掘り出していく。(菊地さん提供)


伐採した木材をチップ化して堆肥にして自然に返す仕事

クレーン掲載トラック(ユニック)の上で作業する菊地さん。今はまだ免許がないから操作はできないが、重機操作やトラックの運転などの仕事もしたいという。
クレーン掲載トラック(ユニック)の上で作業する菊地さん。今はまだ免許がないから操作はできないが、重機操作やトラックの運転などの仕事もしたいという。

 菊地さんの勤める株式会社山芳園は、造園業を営む会社だ。庭の手入れや植栽なども行うが、主たる業務は、伐採。民地の林で相続発生時などに伐採して更地にするといった作業がメインになる。団地や個人宅の木の管理から、高速道路用地の山の木を伐る仕事の請け負いなど、多様な森で作業をする。主に東京都内の仕事が多いが、横須賀や埼玉など近郊の仕事もある。
 さらに特徴的なのが、伐った木を会社に搬送し、チップに砕いて堆肥化して、また自然に返すという点。できた堆肥は、植栽等の際に活用するほか、事業者などに向けて販売もしている。
 「トレーラー1杯分とかそんな単位で依頼に応じて搬送しています。専門学校時代は、自然環境や生態系の保全について主に学んできましたから、木を植えたり緑を増やす仕事をしたいと思っていました。正直、最初は木を伐ることに少し抵抗もありましたし、自分がこんなに木を伐ることになるとは思いもしませんでしたね。ただ、山芳園では伐るだけではなく、伐った材木をチップにしてリサイクルしています。それがまた次の植物に取り込まれていくという、そんな資源循環に与する仕事ができるところに惹かれたんですね」
 山芳園の職員は、菊地さんが所属する工事部の他、重機の操作をするオペ担当や、大型車両の運転をするドライバー、それと事務の4つに分かれている。現場の規模や作業内容等に応じて、工事部の伐り手とオペ担当やドライバーがチームを組んで、現場に赴いている。この日は狭い場所での作業ということもあって、オペ担当と2人だけの現場だったが、大きな現場などでは人数も増える。同じ日に複数の現場仕事を請け負うこともあるから、それぞれ分散して責任ある作業を担当することになる。
 「オペさんも重機の操作だけじゃなく、木を伐る作業もします。工事部で経験を積んでいって、重機の資格を取ってオペ担当になっていくんですね。ドライバーさんもすごいんですよ。4トン車にチップを積んで運んだり、伐った丸太を乗せて運んだりする重要な役割です。自分も大型免許を取って、ゆくゆくはドライバーさんなど他の経験も積んでいきたいと思っています」

小・中・高と環境美化委員として、地域清掃に参加したり全校生徒に呼びかけたりしていた

 子どもの頃から、ごみをはじめとする環境問題に対する関心が高かったという菊地さん。いつしか自然にかかわる仕事をしたいと思うようになっていた。
 「小学生くらいの時から環境美化委員でごみを集めていました。自分のまわりをきれいにしたいという気持ちが強かったんです。中学校でも環境美化委員を続けて、地域清掃にも積極的に参加しました。高校生でも環境美化委員に入って、副委員長として全校生徒に呼びかけたりしていました。それが自然への関心へと育っていったんですね。もっと専門的に学びたいと思って、高校を卒業してすぐに、専門学校の門戸を叩きました」

 専門学校では多くのことを学んだが、なんといっても実習が、今でも大きな力になってくれている。
 「自然の中にみんなで出かけて行きましたけど、それって、まわりの人たちがいてできたことだったと思うんです。仲間たちと協力し合って達成していく喜びも大きかったですね。実習では班に分かれて、班ごとに行動するんですけど、班の仲間の絆は強くて、これまで得られなかった大切なものを学ばせてもらったと思っています」  当時の仲間たちは、それぞれのやりたいことも違って全国各地に散らばっているからなかなか会えないが、それでも連絡は取り合っているという。

たるんだ気持ちでやっていると事故につながりかねない

 伐採作業は危険と隣り合わせの作業でもある。一つ間違えば大きな事故につながりかねない。建造物が近くにある環境で倒さなければならないことも多いから、重機などで引っ張りながら倒すこともある。そんなときには、オペ担当との意思疎通ができないと思った方向に倒れてくれない。
 「一度、自分の中ではあまり倒しちゃいけない方向に倒れちゃったことがありました。そのときは壊しちゃいけないものがあったわけではないんですけど、自分の意図する方向に倒れなかったことが問題なんです。もし家が建っていたり人がいたりしたら大惨事になっていたかもしれないわけです。たるんだ気持ちでやっていると事故につながりますから、日々、緊張感を持って仕事をしています。チェーンソーは特に危険です。下手をすると体の一部がなくなったりもしますから、かなり注意をしながら扱っています」
 入社して1年。仕事の流れもだいぶ理解できるようになって、だんだん仕事が楽しくなってきている。今もまだわからないことばかりだというが、新しいことを学べることの充実も実感する毎日だ。

造園業で使う“七つ道具”

  • 腰道具(剪定バサミ、手鋸)
  • ヘルメット、安全靴、手袋 伐採など危険な作業も多く、緊張の毎日だ。
  • チェーンソー 木を伐るのには欠かせない。
  • 混合ガソリン、チェーンオイル、目立て道具などメンテナンス道具一式 目立てなど日々の道具の手入れも現場で済ませている。
  • ワイヤー 玉掛けしてクレーンで吊り上げるほか、伐採時にねらった方向に倒すため、木を引っ張るのにも使う。
  • クサビ これも、木をねらった方向に倒すために使う道具の一つ。ワイヤーを張らずに、クサビを打ち込むだけで、ねらった方向に倒す。
  • スコップ、ツルハシ

※この他、草刈り業務があるときには草刈機を用意するなど、状況に応じて使う道具も選択している。

七つ道具

七つ道具

一日のスケジュール

6:00 起床
自家用車で出社。
7時前には、前日に積み込んだ荷物を確認して、会社の車で現場に向かう。
8:00 現場で朝礼。チームメンバーのほか、他の業者さんも参加。安全事項とその日のスケジュールについて確認する。
10:00-10:30 休憩
12:00 昼休み お昼は、コンビニ弁当で済ませることが多い。
13:00 作業再開
15:00-15:30 休憩
17:00 撤収。
18:00 帰社。その日の報告書をまとめる。このタイミングで次の日の予定が通達されるので、それに合わせて荷物の積み込みなど準備をする。
19:30-20:00頃 帰宅。
マンガを読んだり、飼っている魚にエサをやったりする。
マンガは、ホラー系を好んで読んでいる。魚は、デンキナマズを買っている。1年半ほど飼っていて、だいぶ大きくなった(でもまだ名前を付けていない…)。

このレポートは役に立ちましたか?→

役に立った

役に立った:2

自然を守る仕事

「自然を守る仕事」トップページ

エコレポ「自然を守る仕事」へリンクの際はぜひこちらのバナーをご利用ください。

リンクURL:
http://econavi.eic.or.jp/ecorepo/learn/series/22

バックナンバー

  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」 -インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」 -ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」 -野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」 -森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」 -NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」 -野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」-造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」 -公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
  26. 026「昆虫を飼育するうえで、どんな場所に棲んでいて、どんな生活をしているか、現地での様子を見るのはすごく大事」 -昆虫飼育員兼インタープリター・腰塚祐介さん-
  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
  28. 028「生きものの魅力とともに、生きものに関わる人たちの思いと熱量を伝えるために」 -番組制作ディレクター・余座まりんさん-
  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」 -ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-
  33. 033「人の社会の中で仕事をする以上、人とかかわることに向き合っていくことを避けては通れない」 -ネイチャーガイド・山部茜さん-
  34. 034「知っている植物が増えて、普段見ていた景色が変わっていくのを実感」 -植物調査員・江口哲平さん-
  35. 035「日本全国の多彩なフィールドの管理経営を担う」 -国家公務員(林野庁治山技術官)・小檜山諒さん-
  36. 036「身近にいる生き物との出会いや触れ合いの機会を提供するための施設管理」 -自然観察の森・解説員 木谷昌史さん-
  37. 037「“里山は学びの原点!” 自然とともにある里山の暮らしにこそ、未来へ受け継ぐヒントがある」 -地域づくりNPOの理事・スタッフ 松川菜々子さん-
  38. 038「一方的な対策提案ではなく、住民自身が自分に合った対策を選択できるように対話を重ねて判断材料を整理する」 -鳥獣被害対策コーディネーター・堀部良太さん-

前のページへ戻る