菊地優太(きくちゆうた)さん
1994年1月生まれ。横浜市で育つ。
高校を卒業して入学した東京環境工科専門学校では、自然環境保全学科に学ぶ。入学当時は渋谷にあった校舎が、2年次になって錦糸町に移転するという、ちょうど端境期の学年だった。
2014年3月に卒業して、新卒として今の職場に入社した。
世田谷区弦巻にある常在寺は、永正3年(1506年)に創建した日蓮宗の寺院。この日、東急世田谷線の世田谷駅から徒歩約7分に立地するこの寺の山門のすぐ脇に立つ大きなケヤキの木の伐採作業が行われていると聞いて、現地を訪ねた。
「伐採した木はクレーン車で吊り上げ4トンダンプで搬出しましたが、土の中に残る根っこを取り除く抜根作業がまだ終わっていません。通常は重機を入れて掘り出すのですが、ここは壁に囲まれた狭い敷地に立っているため重機を入れられず、手作業で行っています。もう一週間ほど通い詰めで作業していますが、まだようやく半分ほどが終わったところです。今週中に終わるかどうか…」
そう話すのは、株式会社山芳園の菊地優太さん。2014年4月に入社してちょうど一年が経つ。
菊地さんの勤める株式会社山芳園は、造園業を営む会社だ。庭の手入れや植栽なども行うが、主たる業務は、伐採。民地の林で相続発生時などに伐採して更地にするといった作業がメインになる。団地や個人宅の木の管理から、高速道路用地の山の木を伐る仕事の請け負いなど、多様な森で作業をする。主に東京都内の仕事が多いが、横須賀や埼玉など近郊の仕事もある。
さらに特徴的なのが、伐った木を会社に搬送し、チップに砕いて堆肥化して、また自然に返すという点。できた堆肥は、植栽等の際に活用するほか、事業者などに向けて販売もしている。
「トレーラー1杯分とかそんな単位で依頼に応じて搬送しています。専門学校時代は、自然環境や生態系の保全について主に学んできましたから、木を植えたり緑を増やす仕事をしたいと思っていました。正直、最初は木を伐ることに少し抵抗もありましたし、自分がこんなに木を伐ることになるとは思いもしませんでしたね。ただ、山芳園では伐るだけではなく、伐った材木をチップにしてリサイクルしています。それがまた次の植物に取り込まれていくという、そんな資源循環に与する仕事ができるところに惹かれたんですね」
山芳園の職員は、菊地さんが所属する工事部の他、重機の操作をするオペ担当や、大型車両の運転をするドライバー、それと事務の4つに分かれている。現場の規模や作業内容等に応じて、工事部の伐り手とオペ担当やドライバーがチームを組んで、現場に赴いている。この日は狭い場所での作業ということもあって、オペ担当と2人だけの現場だったが、大きな現場などでは人数も増える。同じ日に複数の現場仕事を請け負うこともあるから、それぞれ分散して責任ある作業を担当することになる。
「オペさんも重機の操作だけじゃなく、木を伐る作業もします。工事部で経験を積んでいって、重機の資格を取ってオペ担当になっていくんですね。ドライバーさんもすごいんですよ。4トン車にチップを積んで運んだり、伐った丸太を乗せて運んだりする重要な役割です。自分も大型免許を取って、ゆくゆくはドライバーさんなど他の経験も積んでいきたいと思っています」
子どもの頃から、ごみをはじめとする環境問題に対する関心が高かったという菊地さん。いつしか自然にかかわる仕事をしたいと思うようになっていた。
「小学生くらいの時から環境美化委員でごみを集めていました。自分のまわりをきれいにしたいという気持ちが強かったんです。中学校でも環境美化委員を続けて、地域清掃にも積極的に参加しました。高校生でも環境美化委員に入って、副委員長として全校生徒に呼びかけたりしていました。それが自然への関心へと育っていったんですね。もっと専門的に学びたいと思って、高校を卒業してすぐに、専門学校の門戸を叩きました」
専門学校では多くのことを学んだが、なんといっても実習が、今でも大きな力になってくれている。
「自然の中にみんなで出かけて行きましたけど、それって、まわりの人たちがいてできたことだったと思うんです。仲間たちと協力し合って達成していく喜びも大きかったですね。実習では班に分かれて、班ごとに行動するんですけど、班の仲間の絆は強くて、これまで得られなかった大切なものを学ばせてもらったと思っています」
当時の仲間たちは、それぞれのやりたいことも違って全国各地に散らばっているからなかなか会えないが、それでも連絡は取り合っているという。
伐採作業は危険と隣り合わせの作業でもある。一つ間違えば大きな事故につながりかねない。建造物が近くにある環境で倒さなければならないことも多いから、重機などで引っ張りながら倒すこともある。そんなときには、オペ担当との意思疎通ができないと思った方向に倒れてくれない。
「一度、自分の中ではあまり倒しちゃいけない方向に倒れちゃったことがありました。そのときは壊しちゃいけないものがあったわけではないんですけど、自分の意図する方向に倒れなかったことが問題なんです。もし家が建っていたり人がいたりしたら大惨事になっていたかもしれないわけです。たるんだ気持ちでやっていると事故につながりますから、日々、緊張感を持って仕事をしています。チェーンソーは特に危険です。下手をすると体の一部がなくなったりもしますから、かなり注意をしながら扱っています」
入社して1年。仕事の流れもだいぶ理解できるようになって、だんだん仕事が楽しくなってきている。今もまだわからないことばかりだというが、新しいことを学べることの充実も実感する毎日だ。
※この他、草刈り業務があるときには草刈機を用意するなど、状況に応じて使う道具も選択している。
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