宮田一歩(みやたかずほ)さん(写真中央。所長の入江正昭さんをはじめとする浦安市クリーンセンターのスタッフの皆さんと)
平成4年8月生まれの23才。宮城県塩竈市出身。幼い頃から昆虫が好きで、カブトムシからゴキブリまで、基本的にジャンルも問わないが、強いてあげるなら、昔から畑で捕まえたりしたバッタ類やコオロギと、それに最近は休みが合うと友だちといっしょに川にタモ網を持って行って、川底をガサゴソしてヤゴやカワゲラなどを採って遊んでいるから、水生昆虫。野生のままの姿を観察することを好むため、飼育することも標本を作ることもあまりなかった。
高校卒業を期に上京し、東京環境工科専門学校に入学。野生生物調査学科専攻、平成24年度卒業。25年4月から荏原環境プラント株式会社に勤務して、3年目を迎えている。入社1年後の昨年(26年)春、約50名の新入社員を目の前に、先輩社員を代表して仕事のことや職場について発表した。職場の同僚からは「いっぽ!」と親しみを込めて呼ばれている。
東京ディズニーリゾート(TDR)の玄関口に当たるJR舞浜駅(京葉線・武蔵野線)に降り立つと、辺りは丸い耳の帽子を被ったカップルや親子連れなど夢の国に集う人たちの喧騒に包まれる。特に、駅南口はTDRと直結し、駅舎のデザインや駅員の制服も、夢の国をイメージさせる独特の雰囲気を醸し出している。
この舞浜駅からバスで15分ほど走った埋立地の最奥部に立地するのが、今回の主人公・宮田一歩さんが勤務する「浦安市クリーンセンター」。人口約16万人の浦安市の一般廃棄物を一手に引き受けて、365日24時間の稼働でその処理を担う複合施設で、焼却施設をはじめ、不燃・粗大ごみ処理施設、再資源化施設、し尿処理施設を備える。太陽光発電設備や風力発電設備も設置され、ごみ焼却による発電と合せて、クリーンエネルギー普及への貢献もめざす。
今でこそきれいでおしゃれな街のイメージがある浦安市だが、戦前までは三方を海(東京湾)と川(旧江戸川)に囲まれた“陸の孤島”として大きな発展はなかった。街が変わるきっかけは、昭和39年に始まった公有海面埋め立て事業だった。浦安町が誕生した明治42年当時から面積は約4倍に拡大し、急速な都市化が進んだ。昭和56年に市制施行して、浦安市が誕生した。
「人口の増加によって、ごみが増えるとともに、ごみの質も変わり、これに対応するために平成7年3月に完成したのが、浦安市クリーンセンターです。私が勤務している焼却処理施設には“旋回流型流動床焼却炉”と言って、約600℃に熱した砂を圧縮空気によって流動させ、その中にごみを投下して焼却する炉が3基導入されています。浦安市16万人の排出するごみを受け入れていて、その中にはディズニーランドから出るごみもあります。ごみピットの中には、よく見るとディズニーキャラクターのぬいぐるみなど、“夢の果て”が見られることもあります」
浦安市クリーンセンター外観。右側の煙突がそびえる建物が、ごみ処理施設(工場棟)。左側の屋上に風力発電設備が設置された建物は、再資源化施設「ビーナスプラザ」。
施設内に飾られた施設模型(100分の1スケール)。赤いランプが点いているのが、4日分のごみが溜められる「ごみピット」と、攪拌・搬送のための「ごみクレーン」。
ここ浦安市クリーンセンターの焼却処理施設では、機械の運転や日常的な設備点検を行う「運転班」と、機械の維持管理及び補修等メンテナンス作業を担う「保全班」に分かれて仕事をしている。宮田さんは、4班ある運転班の1つに所属している。5人1組で班を構成し、4つの班が日勤・夜勤をローテーションして、365日24時間の稼働を行っている。取材に訪れた日は、前日の夕方に日勤を終えたあと、ちょうど夕方16時半から始まる夜勤に備えた午後のことだった。
「入社後、2か月ほどの研修期間を経て運転班に配属されて、今年で3年目になりました。班長・副班長をはじめ班のメンバーは、出身も違えば、趣味や人生観も異なります。趣味でサーフィンをやっている人もいれば、株について詳しい人もいます。それぞれの観点からごみを燃やす仕事についてどう思っているのか聞いたりと、コミュニケーションを取りながら見識も広がっていきますね。私が一番のヒヨっ子ですから、勉強になることばかりです。家族よりも長い時間をいっしょに過ごしている人たちです」
専門学校では自然や生物のことばかりを勉強してきたから、ごみ処理工程の知識や機械操作などの技術は、入社後に仕事をしながら、また資格取得の勉強をしながら習得した。例えば、運搬されてくるごみには、さまざまな組成のものが含まれるため、ただ燃やしていけばいいというわけではない。燃えやすいごみもあれば、含水量の多い生ごみなどもある。ごみピットに投入されたごみを、クレーンを操作しながら攪拌して、水分調整をしたり、ごみの成分が均一になるように混ぜ合わせたりして、燃焼状況を見ながら焼却炉に投入しなければならない。
「ごみには雑多な成分のものが混じっていますから、排ガス規制の基準値内に抑えるのに苦労しています。ごみの成分が均一になっていないと燃焼状態が変わってしまい、瞬間的に排ガスの成分が変わってしまうこともあります。火の勢いが落ちてきたらごみの投入量を増やしたり、不完全燃焼で一酸化炭素量が増えたときには送風機を操作して空気の入れ方を変えたりと、最終的には時間値として規定の範囲内に収めていくのですが、どう抑えるか四苦八苦しています」
パッカー車を乗りつけて、ごみを投入する、プラットフォーム。投入口の向こう側がごみピットになっている。
ごみピット内部の様子。ごみ処理施設の4階窓からは、ごみクレーンが動いているところが一望でき、施設見学でも最も人気のあるところだという。
ベース基地の中央制御室の一角で、日勤班から夜勤班への引継ぎの業務報告会。メモを取りながら、引き継ぎ事項を確認する宮田さんだ。
もともと好きだった昆虫や土いじりなどをより専門的に教えてくれるところとして東京環境工科専門学校への入学を決めた。今も休日などに友達と誘い合わせて昆虫観察やザリガニ捕りに出かけたりしている。ただ、昆虫や自然との付き合いは、今はあくまでも趣味の範囲にとどまる。
「卒業が近くなって、同期の友だちはビジターセンターに就職したり、生物調査のコンサルタントに就職したりという人たちも多くいました。ひるがえって自分は何をしようか、その当時の私の技量でどんなことができるだろうと思った時に、ちょうど今の会社の求人があって、ごみの処理やごみ問題というごく身近なところから取り組んでいくのも、昔から思い描いていた環境問題の解決につながる仕事として、いいんじゃないかと思ったんですね」
仕事をはじめて、知ったことや見えてきたこともたくさんあったと宮田さんは言う。
「この仕事に就かなかったら知らないままでいたことはたくさんあります。例えば、今日コンビニで買った食品の容器包装がどう処理されているのかなんてことも、就職前はまったく意識していませんでした。焼却炉で燃やしていることとか、それもただ燃やすだけじゃなくて廃熱で蒸気を作り蒸気の力で発電していることも知りませんでした。そういったことを、多くの人たちにも知って、関心を持ってもらいたいと思うんですね」
専門学校時代に教わってきたことで今も印象に残っているのは、“自然に対する興味・関心が薄れたりなくなっていった結果、今の世の環境問題が起こっている”という言葉だった。こうした構図は、自然環境や動植物のことだけでなく、ごみ処理やごみ問題についても同じことが言える。だからこそ、多くの人たちにごみ処理の現状を知り、自分たちが出しているごみの行く末について関心を持ってもらいたい。
「ごみの中には、刈り草や剪定枝など土の中に混ぜておけば腐葉土になって循環するようなものも混じっています。分別されていればリサイクルできるのに、燃えるごみとして出されちゃうと焼却して灰になるだけです。もったいないですよね」
空き缶などの金属類も捨てられている。資源として分別されればスクラップとして有価で引き取ってもらえるが、いったん焼いて酸化してしまうと金属としての価値はなくなって、逆有償で引き取られて、埋立処分されることになる。
「焼却炉の灰の排出口の辺りに何かが引っかかって異常が起きていると警報が鳴って、現場に行って確認すると、自転車が出てきたといったこともありました。こんなごみは論外ですが、分ければリサイクルできるのにごみとして混ぜてしまうと燃やして灰になるだけです。“きちんと分別しましょう!”ということが、この仕事をするようになって初めて堂々と言えるようになりました」
今はまだ具体的な方法がはっきりと定まっているわけではないが、ごみの処理や分別について啓発するような活動をしていきたいと話す宮田さんだ。
※この他、機器のメンテナンスに使う工具類(ナットを締めるためのレンチなど)や、メモ帳とペン(点検結果等引き継ぎ事項をきちんと記録しておく必要がある)なども必須のアイテムだ。
浦安市クリーンセンターの焼却処理施設は、365日24時間の稼働するため、日勤班と夜勤班の2交代制勤務によるシフトを組んでいる。
ここでは、日勤の場合のスケジュールを紹介する。夜勤の場合も、開始・終了時間の違いや、勤務時間が長いため途中で仮眠休憩を取るなどの違いはあるものの、基本的な作業内容はほぼ共通する。
8:30 始業。作業着に着替えて、中央制御室に集まる。
夜勤班から引継ぎ事項の報告を受け、勤務交代。
まずはラジオ体操で体をほぐした後、機器の点検及び薬品の補充などを行うため、現場を巡回。点検には、機器点検とボイラー点検の2通りのルートがあり、それぞれ1時間ほどで回っている。
なお、曜日ごとに定常作業がある。例えば、月・木には「缶底ブロー」と呼ばれる作業を行う。ボイラーの底部にあるドレーン弁を開放して、底に溜まった沈殿分(スケール)を水とともに排出する。ボイラーを稼働したまま行うため、水抜き前には水位を通常よりも多め調整して空焚きにならないようにする。
5人1組の班で勤務するため、機器点検に回る人、ベースとなる中央制御室で計器を監視する人など、役割分担をしている。
機器等の異常発生のアラームが鳴ると、制御スイッチの操作をしたり、現場に出ている人にPHSで連絡して、確認してもらったりして対応する。
クレーンの運転は、日中は専任のクレーンマンがいるが、夜勤の場合は班のメンバーが操作する。
11:30-13:30の間、2-3人ずつ交代で1時間の昼休みを取る。
昼食は、施設内にある食堂(食事部屋)で弁当を食べる。キッチンも備え付けてあるから、宮田さんはたまにフライパンを振るって調理することもある。
1時間休んだ後、午後の作業開始。
午後は、中央制御室で待機・対応しながら、日誌を付けたり、打合せをしたりする。
ボイラー点検は、日勤・夜勤とも、仕事始めと終わりの2回ずつの巡回。
炉の下部には焼却炉で燃えなかった金属類などの不燃物が溜まることがあり、一定量溜まった時点で機械を止めて、大きな熊手のようなもので掻き出す作業が必要となる。概ね、5時間ごとに確認し、必要に応じて除去作業を行っており、特に引き継ぎの直前には入念な点検と除去作業を行って、万全な状態で引き継ぐようにしている。
16:30 夜勤班の出勤に合わせて、引き継ぎの業務報告会。
17:15 終業。
事務棟1階のお風呂で汗と疲れを落として、さっぱりする。作業着も毎日洗濯して、外には持ち出さない。
ほぼ丸一日の休みを挟んで、翌日の16:30から夜勤勤務となる。
夜勤班は、16:30の出勤後、途中に交代で2時間ずつの仮眠を取り、9:30終業となる。
夜勤明けには、丸一日の休日を挟んで、翌々日の8:30から再び日勤につく。
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