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「自然を守る仕事」バックナンバー

0062011.11.29UP人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい-NPO法人職員・鈴木麻衣さん-

油にまみれた水鳥たちを救護するために

鈴木麻衣さん
鈴木麻衣さん。1981年東京都生まれ。2011年にNPO法人野生動物救護獣医師協会に就職。同協会が環境省から請け負う水鳥救護研修会の運営や油等流出事故の情報整備などを担当。

水鳥救護研修会は年3回
水鳥救護研修会は年3回。全国から獣医師や鳥獣保護員、動物園や水族館のスタッフ、そして行政関係者等さまざまな立場の方が参加し行われる。

 海難事故で海に流れ出した油は、周囲の環境を汚染するだけでなく、そこで生息する野生鳥獣たちの命をも大きく脅かす。
 「水鳥たちは油にまみれると、水鳥特有の羽の撥水効果が失われ、海水に体温を奪われます。そして寒さに耐えることができなくなり、餌を取ることもできず水際に打ち上げられてきます。瀕死の状態で運び込まれてくる水鳥を救うには、迅速かつ的確な救護技術が必要です」
 と教えてくれたのは、NPO法人野生動物救護獣医師協会職員の鈴木麻衣さんだ。鈴木さんが働く環境省水鳥救護研修センターは、油等汚染事故が発生した際の情報収集や油汚染鳥救護に係るネットワークの構築、救護技術の研修会を行う専門機関。鈴木さんはここで野生動物救護獣医師協会が環境省から請け負っている水鳥救護研修会の運営や油等流出事故の情報整備などを担当している。
 「水鳥救護研修会の日程調整や講師陣の手配、当日配布する資料の準備も私の仕事。研修会では具体的な救護技術はもちろん、油に関する基礎知識から各組織の連携体制づくりまで、幅広く学んでいただいています。研修後『受講前と違う意識を持てた』『習ったことを現場で実践してみたい』など、前向きな感想をお聞きすると大変嬉しく思います」


氾濫する情報を見極められる知識を得たいと進学

  

 ものづくりの仕事やネットショップのオーナーなど、その時その時で自分のやりたいことにチャレンジし続けてきた鈴木さんが、東京環境工科専門学校への進学を決めたのは20代半ばになってから。
 「子どもの頃から自然や環境にはずっと興味を持っていたこともあり、環境問題等の現状についてもっと知りたいと書籍やインターネットで調べるようになりました。ところが、錯綜する情報の中から何が本当なのか判断できず……。自分なりの判断基準を持つためにも、自然や環境のことをきちんと学びたいと思ったんです」
 野生動物救護獣医師協会への就職は、同協会副会長の獣医師、皆川康雄さんの講義を受講したことがきっかけだった。
 「小学生の頃、湾岸戦争が原因となって流出した重油で真っ黒になった水鳥の映像を目にしてショックを受けたことがありました。当時はただただ悲しかったのですが、講義の中で改めて油汚染事故や水鳥の生態を勉強し、あの時なぜ彼らがあのような目に遭ったのかが理解できたんですよね。それで人間の営みの影響で傷ついた野生動物をもとの自然に帰す活動に、少しでもいいから携わることができればと、現在の職に就きました。」

怯えて暴れる水鳥を傷つけないよう洗浄
救護活動は重油から身を守るため防護服とゴーグル着用で行われる。防護服を着ながら、人には熱めのお湯で洗浄するのはひと苦労。研修でも救護活動を想定し、同様の姿で行っている。

歯ブラシを使って口の中も丁寧に洗浄する。
油にまみれた水鳥は、自ら油を取り除こうと一生懸命羽づくろいをするため、口の中も油で汚染されていることが多い。そこで歯ブラシを使って口の中も丁寧に洗浄する。


今の自分にできることから

環境省の水鳥救護研修センター
東京都日野市にある環境省の水鳥救護研修センター。建物の周りには沢山のコナラが生えている。

  

 タンカー事故等重油が流出するような事故では、多くの野生動物が被害を受ける可能性がある。例えば、1997年に日本海沖で発生したタンカー「ナホトカ号」の事故では、大量の重油が海に流出し、1,315羽もの油に汚染された水鳥が保護収容された。
 また、大きな事故だけでなく、小さな漁船が転覆しただけでも燃料の油が漏れ出る。テレビで報道されない小さな海難事故は、意外と頻繁に起きているという。
 「日本海が荒れる1-2月は一年の中で最も事故が多い時期で、2-3日に1回のペースで行政担当課や海上保安部に問い合わせを入れることもあるほど。私たちの気づかないところで傷ついている野生動物がたくさんいるんです」
 豊かな暮らしを求める人間の活動が、地球の自然環境や野生動物を圧迫していることは否めない。
 「それを認識しているか、していないかでは大きく違うと思います。人間の営みによって傷ついている野生動物の存在に目を向ける人が増えるよう、これからも呼びかけていきたいです」
 東京環境工科専門学校で出会った仲間たちとは、今でも頻繁に交流している。
 「自然と人間の関わり方についてよく話すことがあります。どうすればよいのか悩むことも多いけれど、頑張っている仲間が沢山いることは私の励みにもなっています。まずは今の自分にできることからやっていきたいと思っています」

必須アイテム

必須アイテム

 研修で行われる実習は、野生動物救護獣医師協会で飼育しているカモをモデルに行われる。基本的な流れは、カルテ作成→体重測定→一般身体検査→体温測定→(血液検査)→強制給餌→洗浄→乾燥。まず参加者は「タイベック(防護服)」と「ゴーグル」、「ゴム手袋」に「アームバンド」を着用。「カルテ」を作成して「体温計」や「聴診器」で検査をした後、洗浄中の脱水を防ぐため「強制給餌用のシリンジ」と「チューブ」でスポーツドリンクなどの栄養を補給。「ベビーバス」には「水温計」で42℃のお湯をはる。そして、重油を落とすための「専用洗剤」と「歯ブラシ」で羽や口の中を丁寧に洗っていく。


ある1日のスケジュール

昆虫や鳥の羽などを自ら標本にしている。
通勤途中に多摩丘陵の森の中で集めてきた昆虫や鳥の羽などを自ら標本にしている。将来的にはセンターに展示したいと考えているのだとか。

07:00 起床。犬(ポメラニアン)2頭と熱帯魚(ベタ)3匹、そしてたくさんの植物の世話をしてから出勤。「冷蔵庫にはプラナリアも。家族には理解してもらっています。(笑)」

08:00 自宅を出てモノレールで職場へ。「多摩動物公園」駅で降りて毎朝30分山の中の散策路を歩いて職場へ向かうのが習慣。

09:00 職場到着。職員は基本的に鈴木さん一人。電話やメールで外部の人たちと連絡を取ったり、資料を作成したりとデスクワークが中心。

12:00 出勤途中に買ったコンビニ弁当か手づくりのお弁当で昼食。

13:00 仕事再開。再びデスクワーク。

17:30 施設に施錠。残業がなければ、朝山の中で拾ってきた昆虫の死骸で標本づくり。「多摩丘陵にはこういう生き物がいるんですよ、ということを施設に立ち寄る人たちに知ってもらうため、展示したいと思います」

20:00 センターの周りは夜は真っ暗になるため、帰りは住宅街の中を通って駅へ。

20:30 帰宅。動植物の世話と夕食を済ませた後は、自分の時間を楽しむ。「気分転換にはピアノを弾くことが多いです。ショパンやリスト、ドビュッシーの曲をよく弾いています。週末など時間があるときにはものづくりを楽しむことが多く、今は木彫りで鳥やカトラリーを作ったり、和刺繍をしたりして楽しんでいます」

26:30 就寝。

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バックナンバー

  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」 -インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」 -ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」 -野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」 -森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」-NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」 -野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」 -造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」 -公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
  26. 026「昆虫を飼育するうえで、どんな場所に棲んでいて、どんな生活をしているか、現地での様子を見るのはすごく大事」 -昆虫飼育員兼インタープリター・腰塚祐介さん-
  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
  28. 028「生きものの魅力とともに、生きものに関わる人たちの思いと熱量を伝えるために」 -番組制作ディレクター・余座まりんさん-
  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」 -ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-
  33. 033「人の社会の中で仕事をする以上、人とかかわることに向き合っていくことを避けては通れない」 -ネイチャーガイド・山部茜さん-
  34. 034「知っている植物が増えて、普段見ていた景色が変わっていくのを実感」 -植物調査員・江口哲平さん-
  35. 035「日本全国の多彩なフィールドの管理経営を担う」 -国家公務員(林野庁治山技術官)・小檜山諒さん-
  36. 036「身近にいる生き物との出会いや触れ合いの機会を提供するための施設管理」 -自然観察の森・解説員 木谷昌史さん-
  37. 037「“里山は学びの原点!” 自然とともにある里山の暮らしにこそ、未来へ受け継ぐヒントがある」 -地域づくりNPOの理事・スタッフ 松川菜々子さん-
  38. 038「一方的な対策提案ではなく、住民自身が自分に合った対策を選択できるように対話を重ねて判断材料を整理する」 -鳥獣被害対策コーディネーター・堀部良太さん-

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