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「自然を守る仕事」バックナンバー

0052011.05.24UP日本の森林を守り育てるために、今できること-森林組合 技能職員・千葉孝之さん-

人工林を健全に育てていくために必要な間伐

千葉孝之さん
千葉孝之さん。1983年秋田県生まれ。2007年に那須町森林組合に就職。スギやヒノキの人工林の整備・管理を行う技能職員として働いている。

造材研修会
若手技能職員を集めてスギ林の中で行われた「造材研修会」。現在、市場ではどんな太さや長さの用材が求められているかを指導。それに合わせて造材を行っていく。

 日本の森林整備の中心的な役割を果たしているのが、全国各地に約690存在している森林組合である。千葉孝之さんが働く那須町森林組合(栃木県那須郡那須町)もそのひとつ。町の南東部に広がる約6000ヘクタールの森林を管理しているが、そのほとんどは戦後すぐに植林されたスギやヒノキの人工林だ。
 「組合では植林から伐採まで森林に関するいろんな仕事を行っていますが、その中で自分が所属しているのは間伐や造材を行う林産班。ほとんど毎日山の中で作業をしています」
 間伐とは、木々の成長に合わせて定期的にその一部を伐採していくこと。それによってはじめて林床まで光が差し込み、残された木々が健康に育つのだという。
 「植林した山は手入れをしてやらないと、もやしのようなひょろひょろの木ばかりが生えた荒れた山になってしまいます。立派な用材、つまり建築や大型家具などの材料に成り得る太く立派な木に育てるためには、定期的な間伐は必要不可欠なんです」
 間伐の際に倒した木も、市場に出荷できる太さのものはその場で造材【1】していく。

 「ヘンな方向に倒してしまうと、他の木とぶつかって折れたり、裂けたりして用材として使えなくなってしまいます。だからこそ、自分が考える通りの方向に上手く倒せた瞬間は満足感がありますね。とは言え、林業を始めて四年目の自分は大きな木や急斜面の木を倒すにはまだまだ経験が足りない。これから、です」

後継者不足を知り、林業への転職を決意

 子どもの頃からキャンプや山登りが好きだったという。高校時代は山岳部に所属、山岳競技に明け暮れた。東京環境工科専門学校への進学を勧めてくれたのは、自然に関心のある息子のことをよく知るお母さんだった。
 「感謝していますね(笑)。『自然に関わる仕事に就きたい』という同じ目標を持つ仲間との出会いは大きかったし、ボランティアやバイトで自然の中で活動する人たちとのつながりもずいぶんできた。充実した二年間だったと思うので」
 卒業後、自然公園財団の職員として福島県の磐梯朝日国立公園で公園整備やガイドなどの仕事をしていた千葉さんの志向が林業へと変わったのは、成り手が不足しているというニュースを耳にしたから。
 「だったら、若い自分が! と思っていろいろ探し、那須町森林組合へ就職しました。ここへきて驚いたのは、想像していた以上に林業の現場が進化していたこと。森林組合の規模にもよるのでしょうが、ここでは枝払いや木のカット、搬出まで機械で行っている山も少なくありません。人間が木に直接触れるのは切り倒すときだけ、という場所もあるほど。しかも、約50人いる技能職員の平均年齢は43歳。自分と同じように林業を志す若い人もいるんだ、ということはうれしい驚きでした」

高性能林業機械、グラップル&プロセッサ
機械が入ることのできる山では木材の運搬だけでなく、カットや枝払いも機械で行われている。高性能林業機械、グラップル&プロセッサは、現代林業で活躍する重機のひとつ。

間伐の際に倒された木々
間伐の際に倒された木々。用材に成り得るには50・60年という長い月日が必要だという。

「生き物の代弁者たれ」という恩師の言葉を胸に

休日の楽しみ
休日の楽しみは、専門学校時代の先生や仲間と行く山登りやテレマークスキー。

 安価な輸入材などが原因で「植える・育てる・切る」という循環が上手く働いていない日本の林業には課題も多い。それでも「目の前にやるべきことがまだまだあるから」と千葉さんの表情は明るい。
 「この辺りだけでも、手入れのされていない山はずいぶんあります。そういう山にどんどん入って間伐をし、健全な木々が育つきれいな山にしていきたいですね。森林に日光が差し込めば下草が生い茂り、多様な生物が生息できるようにもなります。休憩時間、間伐し終わった山に寝転がり、空を見上げながら日の光を浴びるのはいい気分ですよ。そんなとき、林業に就いてよかったなぁとつくづく思います」
 そんな千葉さんの心の中に響き続けている言葉があるという。
 「専門学校時代、ある先生が授業中に『生き物は人間の言葉がしゃべれないのだから、あなたたちには生き物の代弁者になってほしい』とおっしゃったんです。それを聞いた時ハッとしたことをよく覚えているし、そうなりたいと今も強く思っています」

必須アイテム

千葉さんの“七つ道具”
千葉さんの“七つ道具”

 作業中は、万一チェーンソーで切ったときでもケガを最小限にとどめることができる特殊繊維が使用されている「防護ズボン」と、防音のためのイヤーマフと顔面を守るフェイスガード付きの「ヘルメット」を身につける。ヘルメットには自前で周囲に危険を知らせるホイッスルも付けた。防振対策に優れた「チェーンソー」は、排気量50ccのプロ仕様。木を切り倒す際に使う「ヨキ(斧)」と「くさび」、倒した木が他の木に寄りかかってしまったときに使うフェリングレバーやターニングストラップなどの「かかり木処理道具」、チェーンソーの刃を整備する「目立て道具」も必携品。「機能性・安全性を重視して選んだ愛用の道具ばかりです。車の後部座席に積み込んで現場から現場へ持ち運んでいます」

ある1日のスケジュール

05:30 起床。昼食用の弁当を自分で作ってから出勤。「料理は嫌いじゃないので、普段はほとんど自炊ですね。今日の弁当は混ぜご飯にウィンナー、野菜炒め、煮物、味噌汁でした」

06:50 車で現場へ直行。

07:20 現場到着後、チェーンソーの準備や打ち合わせを。

08:00 仕事開始。山の中にチェーンソーの音が一斉に響き渡る。山には必ず2人以上で入る。仕事によっては数人のチームを組んで動くことも。

10:00 15分間の休憩。安全のために午前と午後の作業中、必ず一度休憩することになっている。

11:45 昼休み。寒さや風を避けるため、昼食は各自自分の車の中で食べることが多い。「疲れてくると集中力がなくなって危ないので、食後は昼寝をすることが多いですね」

13:00 仕事再開。

16:30 仕事終了。山が暗くなる前に撤収。チェーンソーの整備をするために、ほとんど毎日森林組合へ立ち寄ってから帰る。

17:30 帰宅。まずはお風呂へ入ってから、洗濯をすませて夕食を。その後はパソコンやテレビ、漫画を読んで過ごす。「仕事仲間と一緒に飲みに行ったり、弁当用の総菜をまとめて作ったりする夜もあります」

22:00 就寝。「山の仕事は危険がつきもの。翌日に疲れを残さないように十分な睡眠を心がけています」

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このレポートへの感想

募集しています。詳しくは那須町森林組合の事務所までお問い合わせ下さい。
(2015.03.02)

那須の森林組合は求人していますか? 年齢の上限はありますか? 
(2015.03.01)

私もあなたみたいな人になりたいです。
(2014.02.13)

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  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」 -インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」 -ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」 -野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」-森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」 -NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」 -野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」 -造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」 -公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
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  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
  28. 028「生きものの魅力とともに、生きものに関わる人たちの思いと熱量を伝えるために」 -番組制作ディレクター・余座まりんさん-
  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」 -ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-
  33. 033「人の社会の中で仕事をする以上、人とかかわることに向き合っていくことを避けては通れない」 -ネイチャーガイド・山部茜さん-
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  35. 035「日本全国の多彩なフィールドの管理経営を担う」 -国家公務員(林野庁治山技術官)・小檜山諒さん-
  36. 036「身近にいる生き物との出会いや触れ合いの機会を提供するための施設管理」 -自然観察の森・解説員 木谷昌史さん-
  37. 037「“里山は学びの原点!” 自然とともにある里山の暮らしにこそ、未来へ受け継ぐヒントがある」 -地域づくりNPOの理事・スタッフ 松川菜々子さん-
  38. 038「一方的な対策提案ではなく、住民自身が自分に合った対策を選択できるように対話を重ねて判断材料を整理する」 -鳥獣被害対策コーディネーター・堀部良太さん-

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