三瓶雄士郎(さんぺいゆうしろう)さん
1992年1月、神奈川県伊勢原市生まれの23歳。2015年4月に開校した「高尾の森自然学校」の常勤スタッフの一人。
地元の農業高校卒業後、東京環境工科専門学校の門を叩く。2012年3月に卒業後、神奈川県自然環境保全センターでスギ・ヒノキの花粉調査補助や宮ヶ瀬ビジターセンターでインタープリターとしての勤務を経て、2015年4月から現職。
現在は八王子在住で、職場までは車で10分ほどと職住近接の生活を送る。
「高尾の森自然学校」の看板は、宮城県産のスギの原木を使ったものだ。復興支援の意味も込めて、建物に使う木材もすべて宮城県産材。コーティング材には蜜蝋ワックスなど自然素材にこだわった。ウッドデッキも燻煙材を使用して、木酢液を染み込ませている。
この4月(2015年4月)に開校したばかりの「高尾の森自然学校」は、八王子市川町(かわまち)にある東京都所有の山林(約26.5ha)を舞台に、自然環境保護・保全と環境学習に取り組む、一般財団法人セブン-イレブン記念財団と東京都の協働事業。その運営資金は、日本全国に1万4千店あるセブン-イレブンの店頭に置かれた募金箱に寄せられる店頭募金と、セブン-イレブン本部からのマッチングギフト【1】によってまかなわれている。2014年には約4億3千万円もの募金が集まり、1994年に始まった第1期からの募金総額は、57億4千万円を超える額になっている。募金は、自然学校の運営の他、地域の環境市民団体の活動支援を目的とした公募助成など、さまざまな事業に役立てられている。
かつて薪炭林にも活用されていたコナラ主体の雑木林の有効活用を図ろうと始まったのが、高尾の森自然学校だ。2014年6月に都と財団の間に協定が締結され、4月10日に開校式を迎えている。
「森の中を歩いていただくため、尾根筋に散策路を整備しましたが、20年以上放置されていたので、森の木々にはクズが絡みつき、アズマネザサは人丈以上に伸びて、大変な状況になっていました。4月からここまで、ひたすら森の整備に明け暮れている感じです。森の整備をしながら、どんどん更新していければと思っています。まだまだ木が大きく生長して覆いかぶさって薄暗いので、きちんと間引いて、上に空間をあけて地面にまで光が当たるようにしていこうと計画しています」
そう話すのは、高尾の森自然学校スタッフの三瓶雄士郎さん。散策路には道幅に枝や木を置いて境界線とし、斜面には階段を切って整備している。地域住民のボランティアといっしょに林内の立ち木を活用して造ってきたものだ。路面には、備品として導入しているチップ製造器で砕いた木材チップを敷き詰めてある。開校してまだ2か月、これからどんどん手入れを進めくことになるが、その森づくりのプロセスもボランティアやイベント参加者とともに進めていこうという計画だ。
三瓶さんは、生まれも育ちも神奈川県伊勢原市。田園風景の広がる、丹沢山系の大山(おおやま)の麓の自然豊かな地域だ。2人兄弟で、ゲーム好きのお兄さんといっしょにゲームで遊んだりもしたものの、すぐに飽きて、外に出てザリガニを捕ったり、昆虫を探したりと、泥まみれになって遊ぶ毎日だった。
中学校にあがっても、自然に出て遊ぶ日々に変わりはなかった。高校は農業高校に進学。卒業後の進路として「自然×職業」で調べていく中で、東京環境工科専門学校のことを知り、興味を覚えて門戸を叩くことになった。
「もう魅力しかなかったですね。当時は、動物学者の故千石正一先生の授業があったり、総実習場長にC.W.ニコルさん(現名誉校長)がいたりしました。野外実習ばかりのカリキュラムも楽しくて仕方がなかったです。2年生の時には山梨県の増穂町(現南巨摩郡富士川町)の実習地で小学生を対象にした環境体験学習の実習がありました。いざ子どもたちの前に立つと、これもまた楽しくて! インタープリターをめざしてみたいと思うきっかけでした」
専門学校2年次の森林整備の実習で、森を育てていく「林業班」というグループに入った。実習地の増穂町では、チェーンソーを使った間伐や、刈り払い機を使った下草刈りなどの作業を体験した。この作業を通じて、道具の大切さとその危なさも実感したという。
「木1本をノコギリで切るのは大変な作業ですが、チェーンソーだとすごく簡単です。でもやっぱり危ないものなので、心してかからないといけないということを教わりました。ちょうどこのとき実際に怪我をした子もいたんです。チェーンソーではなく鉈でしたが、道具の危険性を思い知らされるできごとでした」
今でも道具を使うときは、絶対に怪我のないようにと、気が張るという。
専門学校を卒業して、宮ヶ瀬ビジターセンターでインタープリターの見習いとして週に3-4日ほどアルバイト勤務ができたのも大きな経験となった。人前に立って本格的なガイドをするのははじめて。自然についても場所が変わればまた一から覚えなおす必要があった。
「たまたまアルバイトの口があって、やってみないかと紹介され、宮ヶ瀬ビジターセンターでインタープリターの下積みをさせてもらいました。あの施設は丹沢山系の登山基地にもなっていますから、登山の基礎も身に付けさせられました。最初の年は何もわからない中で始めたので、展示の製作などの仕事をしながら勉強させてもらいましたが、2年目からは1年契約の専門職員として採用され、小学校などの団体対応でも1人でガイドを任されるようになっていきました。当時の館長には自由にやらせていただきましたが、“危ないことだけは絶対にするな”と言われたんです。“わくわくする危なさだったらいいけど、本当に危ないことはするな”という言葉は、いまだ常に心に止めています。丸々2年間働いて、ちょうど契約も満了となり、ステップアップのため今の職場に入りました」
森林整備の作業。維持管理などの作業では、チェーンソーを使っている。間伐など立木を切ることはまだないというが、掛かり木などの処理はある。一方、イベントの森林整備プログラムでは、原則としてノコギリと剪定バサミでできる作業だけをお願いしている。
インタープリターとしての今の仕事が楽しくて仕方がないという三瓶さんだ。
「宮ケ瀬ビジターセンターでインタープリターとしての仕事を始めた頃、うまくしゃべれなくて、心折れそうになったこともありました。うまい先輩方の喋りを見ながら勉強しましたが、どうも知識不足でしゃべれないし、お客さんにも満足してもらえない。どうしたらいいのだろうとずっと悩んでいました。今でもまだまだ修行中です」
プログラムづくりに悩んでつらい部分もある反面、そうして悩むこと自体に楽しみを見出せるようになってきた。“こんなふうにしたら喜んでくれるだろうか”と参加者のことを考えながらプログラムを作っていくのが今はすごく楽しい。
プログラム当日も、人前でしゃべることの楽しさとともに、いっしょに森林観察や野鳥観察などに出たときに参加者が「わかった!」と笑顔を見せてくれるのが最高の悦びになっている。秘かに、心の中でガッツポーズを決める瞬間だ。
開校から2か月、今はまだ試行錯誤続きの高尾の森自然学校だが、地域住民のボランティアたちと連携したプログラムを作っていきたいという。
「近所に住むおじいちゃん・おばあちゃんが皆さんすごい技術を持っているんですね。ぼくたち若者にはない技術があるし、かつてこの森が開放されていた数十年前に野山を走り回っていた頃の経験もすごい財産です。そんな話を、ぜひここに来てしゃべっていただけたらなと思っているんです」
自然学校の場をもっとフレンドリーな場にしていきたい。小中学生が学校帰りに立ち寄ってきたり、年配者がベンチに座ってお茶を飲んでいっしょに談話をしたりと、そんな地域密着型の自然学校をめざしていきたいと三瓶さんは笑顔を見せる。
(通常の開館業務)
7:00 | 起床。朝食とお弁当の用意。食事は、基本自炊している。ただしカンタンな丼物が多い。 |
8:30 | 出勤。清掃作業。 |
9:00 | 朝礼 |
9:30 | 開館 午前中は、プログラムの計画や下見など。 午後、プログラムで使用するものの作成、準備。開校したばかりだからすべて一から作らないとならない。施設内も今はまだガランとした状態で、施設の紹介をする展示物もない。目下、基盤づくりにいそしむ、三瓶さんたちだ。 その他、周辺の環境整備、トレイルの草刈なども時間を見てやらなくてはならない作業だ。 |
17:00 | 閉館。ただし、来館状況によって延長することもある。その場合も、概ね17時半をめどに閉館。 片付け。 |
18:00 | 退社 自宅に帰ってからは、翌日のお弁当をどうしようか、頭を悩ませる。 趣味は和太鼓。実家の神奈川県伊勢原市にいた頃は和太鼓チームを組んでいた。高校のOB・OGチームには今も時折練習や大会などに参加している。今年のGWは、ちょうどシフトが合って大会に参加することができたと喜ぶ三瓶さんだ。 登山にもよく出かける。八ヶ岳や丹沢を中心に歩いている。ピークハントよりも、山の中で動植物を観察しながら自然に浸かることを好む。季節や標高差によって見られる動植物の違いなどを知るのが楽しい。 |
(土日などのプログラム実施日)
午前中にプログラムを実施。
午後 反省会のあと、報告書づくり。
※平日は2名体制を基本とし、土日のプログラム実施日には、参加人数によって3-5名体制で運営している。
例えば、野鳥観察で20人の参加がある日には、参加者を10人ずつの2班に分けて、それぞれメイン・サブのスタッフが2人付いて別々のルートを通ってガイドする。事務所に残る1人を含めて、総勢5人の勤務体制となる。
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