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「自然を守る仕事」バックナンバー

0102012.11.13UPもっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく-野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-

調査を軸に、設計も

甲山隆之さん
甲山隆之さん
1979年12月、神奈川県座間市に生まれ、育つ。
ランズ計画研究所に入社して5年目を迎えている。
元々は調査をしたくて就職した会社だったが、同社の主業務になる設計の仕事も入社後に先輩社員から教わって、仕込まれた。

 前回紹介した亀山明子さんと同じ(株)ランズ設計研究所に務める甲山隆之さんは、野生生物調査を専門にしている。元は植物が専門だったが、今や猛禽類や昆虫など生き物全般の調査業務に携わる。
 同社は主に都市公園の計画づくりを行う建設コンサルタント会社だが、職務内容によって大きく分類すると、公園等の設計方針や計画内容を決める「計画班」と、計画に基づいて図面を引いたりする「設計班」の2つに分けられる。
 計画班のメンバーである亀山さんの仕事が、地域市民に呼びかけて開催するワークショップの企画・運営を通じて公園等の設計方針や計画案の策定をするのに対して、今は設計班として仕事をすることの多い甲山さんは基本方針に基づく計画図面の設計などを担当している。加えて、元々の専門を生かして公園予定地の野生生物調査なども担当する。いわば、亀山さんの仕事の前後の作業を受け持つ形だ。
 「もともとは調査系の仕事をしたいと思って入った会社だったんですけど、仕事をしながら設計についても勉強してきました。この会社は設計がメインなので、比率としても、調査1に対して設計9と、もっぱら机の前に座ってパソコンの画面をにらんでいる時間が多くなっています」
 調査業務を担当するのは、今は甲山さんだけという。設計の仕事のおもしろさもわかってきた。
 「都市の住民にとって、身近な自然環境というと地域の公園だったりしますよね。その一番身近な自然である公園の設計に関わっていけることに喜びを感じています。ただ、最初から設計をしたいと思っていたわけでもなく、調査──それも植物の──ができる仕事として選んだ会社でした」

コドラートを囲んでの植物調査
コドラートを囲んでの植物調査

猛禽類調査
猛禽類調査

合板メーカーで丸4年、営業の仕事をしてきた

 甲山さんが育ったのは、東京や横浜のベッドタウン、神奈川県座間市。古くは八王子街道の宿場町として栄え、現在は工業および住宅都市として大きな人口を抱える。その一方で、丹沢の峰々を間近に望み、相模川に接して、まだまだ自然も残っている。
 幼少時代はさぞかし自然の中にどっぷり浸かって遊んでいたのだろうと思いきや、それほど自然に親しんでいたわけでもなかったという。
 「特別に自然が好きだったということもなかったですね。せいぜい、虫を捕りに行ったりキャンプをしたりと、ごく普通の人並みの自然体験でした」
 実は甲山さん、大学では化学を専攻した。卒業後、合板メーカーに就職して、営業職として丸4年間働いていたという。
 「そこでよく聞く話が、東南アジアの熱帯林だったり、違法伐採の問題だったりするわけです。そこからだんだん興味を持ち始めて、環境にかかわる仕事ができたらいいなと漠然とながら考えはじめたのがきっかけだったんでしょうかね」
 少し勉強し直してみようと、専門学校の門戸を叩いたのが転機になった。学校に入って、自然を守る仕事を志す仲間たちにも刺激を受けて、まさに「自然」にどっぷりと浸かるようになった。山に出かけたり、植物の観察会に参加したりと、積極的に自然に関わろうと思い始めたという。
 「それまでも、興味がなかったわけではないんですが、なかなか一歩を踏み出すのに躊躇していたところがあったんです。そんな意識面の変化が、大きかったですね」

事前の調査から設計まで、一貫して関われるのが一番の醍醐味

 甲山さんの担当する仕事では、事前調査と実施設計が並ぶような仕事の取り方をしているという。調査の結果を踏まえて、設計に反映させていくわけだ。
 「例えば、計画予定地で猛禽類が繁殖しているとして、そこで巣づくりをしながら、公園としても利用できるような設計をみんなで考えて、つくっていく。それがだんだん形になっていくところに、何とも言えない手応えがあります」
 調査だけして結果を提出したり、設計だけして提出したりというだけよりも、一貫して関われる分、作り上げた感はより強くなるという。
 「もちろん、すべて思い通りにいくわけではなくて、市民の意見──それも声の大きな人の一言など──でそれまでの議論を覆されたり、妥協を重ねたりということもあります。それでも、地域の人たちが納得できる中で、できる限り自然を残して守っていけるような設計をしていきたいと思ってこの仕事をしています」

昆虫調査(ベイトラップ)
昆虫調査(ライトトラップ)

昆虫調査(左はベイトラップ、右はライトトラップによる)


公園調査のときの必須アイテム

公園調査のときの必須アイテム

・画板:調査票記入用
・メジャー:公園施設の計測
・コンベックス:公園施設の計測
・分電盤のハンドルキー:公園内の電気設備を開ける際に使用
・バール:マンホールを開けるときなど様々な用途に使用
・マンホールバールキー:人孔やハンドホールなどを開ける際に使用
・スコップ:公園施設の基礎部等の確認、若しくは埋まっている人孔などを見つける際に使用
・カメラ:記録用


ある一日のスケジュール(公園調査時)

8:00 起床

8:30 家を出て、電車で会社へ向かう

9:45 出社

10:00 公園調査に出発。

16:00 公園調査を終えて、会社に帰社。

22:30 公園調査結果のまとめ作業

23:00 片付けを済ませ、会社を出る。

26:00 就寝

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バックナンバー

  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」 -インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」 -ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」 -野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」 -森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」 -NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」-野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」 -造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」 -公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
  26. 026「昆虫を飼育するうえで、どんな場所に棲んでいて、どんな生活をしているか、現地での様子を見るのはすごく大事」 -昆虫飼育員兼インタープリター・腰塚祐介さん-
  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
  28. 028「生きものの魅力とともに、生きものに関わる人たちの思いと熱量を伝えるために」 -番組制作ディレクター・余座まりんさん-
  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」 -ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-
  33. 033「人の社会の中で仕事をする以上、人とかかわることに向き合っていくことを避けては通れない」 -ネイチャーガイド・山部茜さん-
  34. 034「知っている植物が増えて、普段見ていた景色が変わっていくのを実感」 -植物調査員・江口哲平さん-
  35. 035「日本全国の多彩なフィールドの管理経営を担う」 -国家公務員(林野庁治山技術官)・小檜山諒さん-
  36. 036「身近にいる生き物との出会いや触れ合いの機会を提供するための施設管理」 -自然観察の森・解説員 木谷昌史さん-
  37. 037「“里山は学びの原点!” 自然とともにある里山の暮らしにこそ、未来へ受け継ぐヒントがある」 -地域づくりNPOの理事・スタッフ 松川菜々子さん-
  38. 038「一方的な対策提案ではなく、住民自身が自分に合った対策を選択できるように対話を重ねて判断材料を整理する」 -鳥獣被害対策コーディネーター・堀部良太さん-

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