1990年代以降、学校やビルの屋上、個人宅の庭などで人工的に造られるようになったビオトープ。そもそもビオトープとは「鳥や昆虫、植物など多様な生き物が暮らすために必要な条件がそろった場所」のことで、人工的なものだけではなく、現存する自然環境に対しても適用される考え方だ。
「造成型のビオトープの中には放置され荒廃してしまったものも多いんですよね。肝心なのは造ることではなく、それを使って何をするか。ビオトープは人間が生き物に触れたり、自然環境を考えたりするための手段なんですから」
学校や公共施設、企業などからの依頼を受け、子どもや市民を対象にビオトープを使った環境学習や自然教育を行っている三森典彰さん。
現在関わっている学校ビオトープだけでも東京と埼玉に14-15校あるという。
「子どもたちの日常の場所である学校に、生き物の暮らす場所がある。それが学校ビオトープの良さ。設計から造成、管理までの主体を子どもたちに置くように心がけています。僕が得意なのは水辺造りの指導なのですが、春に造った水辺には、夏になるともう様々な生き物が生息し始めます。つまり、子どもたちは自分たちがやったことの成果を、すぐに自分の目で確かめることができる。僕はビオトープを使い、子どもたちに『自然に対してまだまだできることがあるんだ!』という前向きな気持ちを持たせたいんです」
東京・池袋で生まれ育った三森さんが、自然や環境に関わる仕事を志すようになったのは高校卒業後。大きな交通事故に遭い、自分自身を客観的に見つめ直せたことがきっかけだった。幸運にもリハビリに成功、その後独学でビオトープ管理士の資格を取得。21歳で東京環境工科専門学校に入学した。
「在学中から、環境調査会社やエコツアーショップなどで積極的にバイトをしました。プロの現場を知ることができただけでなく、いろんな人と知り合えたことは、その後の仕事にもずいぶんプラスになりました」
24歳のとき、霞ヶ浦で子どもたちを巻き込んだ自然再生プロジェクトを推進しているNPO法人「アサザ基金」に就職。年間100校以上の学校ビオトープの管理や活用に携わった。そして27歳で独立、ビオトープ管理士として活動し始めた。
「自然豊かな田舎で生き物の素晴らしさを実感すればするほど、自分が暮らす都会にも、もっと多くの生き物が棲めたらいいのにと思うようになっていました。日常とかけ離れた場所ではなく、身近な場所の自然や生き物に目を向けられる人を増やすことが、本当の意味での自然再生につながるはず。そして、失われつつある都会の自然だけれど、まだまだ守る方法、取り戻す方法はあるよ、と“都会っ子”の僕だからこそ、説得力を持って話せると思うんです」
「今の日本では、生き物を守るシステムが人間が暮らすためのシステムと切り離されているように思います。僕は生き物の視点でまちづくりができる人を一人でも増やしたい。そんな気持ちで今、ビオトープを使った自然教育をやっています」
アメリカやヨーロッパの国々では、生き物と人間が暮らす場所を明確に区分けすることで、貴重な自然や生き物を保護してきた。
しかし、広大な土地に少ない人口という国々で有効な方法が、人口の多い小さな島国の日本でも有効とは限らない、というのが三森さんの持論だ。
「昔の日本には原生自然の残る奥山とバッファーゾーン(緩衝帯)となる里山しかなかった。僕はこの里山のような人の棲家の近くに生き物の棲家がある環境が、日本という国には一番合っていると思います。
広々とした田んぼや大きなため池だけじゃなくていいんです。たとえ小さな水辺でも、町の中に点が増えていけば、点と点が線になり、生き物たちが行き交う道ができるんですよね。
いつの日か、人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい。それが僕の目指すところです」
泥水に腰までつかって作業することも多いビオトープ造りには、ウェイダー(胴長靴)が欠かせない。植物を植えたり、刈ったりするときのために移植ごてやのこぎり鎌も必須品だ。
「環境のプロというよりも造園屋さんみたいでしょう(笑)。あとは生き物を観察する際に使うタモ網や防水顕微鏡、手製の資料、図鑑類。それが僕にとっての七つ道具ですね」
06:00 起床。
07:00 埼玉県新座市の自宅から電車、もしくは車で都内の小学校へ。他のビオトープ管理士らスタッフ数名と待ち合わせ。
08:00 学校に到着。授業前に先生と打ち合わせ。
08:50 1-2時間目。生き物についての授業を実施。どんなビオトープを作るかを生きものの視点で子どもたちと計画。「質問を投げかけたり、手描きの絵で説明したり。僕の役割はプロとして子どもたちがまだ持っていない“生き物の視点”をいろんな形で提供することです」
10:45 3-4時間目。事前に発注しておいた材料や植物を使ってビオトープを造る。造るのも子どもたちが主体。「植物は場所によって水系が異なるので、それに合わせたものを準備。たとえば、世田谷区の小学校なら多摩川水系のセリやミゾソバ、マコモなどを。もちろん放つメダカも多摩川水系のメダカです」
13:00 授業終了後、仕上げの作業整備。「子どもたちが泥だらけの足で歩いた渡り廊下の掃除も、もちろん僕たちの仕事です」
17:00 学校を退出。ビオトープ管理士たちが集う「人と自然の研究所」に立ち寄り、スタッフとこの日の総括&次回の打ち合わせ。三森さんは、ここで定期的に開講されているビオトープ管理士を対象にしたプロ講座の講師も務めている。
21:00 帰宅後、メールのやりとりや、資料の作成などのデスクワークを。
02:00 就寝。「忙しいのは4~11月。特にその年の仕事が動き始める4~6月は、気もはるので大変。平均3~4時間睡眠という日々が続きます」
「子どもたちが泥だらけの足で歩いた渡り廊下の掃除も、もちろん僕たちの仕事です」
これは、一番は親の子どもに対する教育の怠惰にあると思います。私自身にも小さな子どもがいますので、子どもには「人にやってもらうことが当然ではなく、出来ることがないかを考える」姿勢を教えていきたいと改めて感じました。
本日は、ビオトープの三森さんにお世話になりました。生き物だけでなく、人を惹き付ける魅力を持っていらっしゃる三森さん!気づけば子どもたちは自然に三森さんの回りに集まっています。三森さんのお話も集中して聞いています。子どもたちとの信頼関係を築くのがお上手な三森さんならきっと子どもたちに「廊下を綺麗にしよう」と言ったらみんな頑張って手伝うんじゃないかなと感じました!
ですが、まずは私たち親がちゃんと子どもに教育しなければいけないことですよね(^_^;)親御さんたち、一緒に頑張りましょう!!
(2020.08.22)
「子どもたちが泥だらけの足で歩いた渡り廊下の掃除も、もちろん僕たちの仕事です」
一番子供がしなければいけないことを、大人がしてしまっている。これを「教育」というのでしょうか。
自分で汚した場所をかえりみない、このような少年期を過ごした者が大人になったとき、どういう人間になるのでしょう。こういう場面を、昨今非常に多く見ます。つまり、子供が「お客さん」になってしまっているケースです。受注を勝ち取りたい業者と、仕事を減らしたい学校側(かどうか知りませんが)これら両方で、いちばんやらなければならないことを、させていない。
子供が学んでおかなければいけないことは、公共の場所を少々汚したって、放っておけば、どこかの誰かが、知らぬまにキレイにしてくれるのだ、ということではないはずです。
同じビオトープ管理士として、非常に残念であるとともに、考えさせられた、レポートでした。
(2012.11.25)
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