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「自然を守る仕事」バックナンバー

0022010.05.11UP人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい-ビオトープ管理士・三森典彰さん-

前向きな気持ちが持てる環境学習を

森典彰さん
三森典彰さん。1977年東京都生まれ。06年に個人事務所「Forest Three」を立ち上げ、フリーランスのビオトープ管理士として関東を中心に活動中。

 1990年代以降、学校やビルの屋上、個人宅の庭などで人工的に造られるようになったビオトープ。そもそもビオトープとは「鳥や昆虫、植物など多様な生き物が暮らすために必要な条件がそろった場所」のことで、人工的なものだけではなく、現存する自然環境に対しても適用される考え方だ。
 「造成型のビオトープの中には放置され荒廃してしまったものも多いんですよね。肝心なのは造ることではなく、それを使って何をするか。ビオトープは人間が生き物に触れたり、自然環境を考えたりするための手段なんですから」
 学校や公共施設、企業などからの依頼を受け、子どもや市民を対象にビオトープを使った環境学習や自然教育を行っている三森典彰さん。
 現在関わっている学校ビオトープだけでも東京と埼玉に14-15校あるという。
 「子どもたちの日常の場所である学校に、生き物の暮らす場所がある。それが学校ビオトープの良さ。設計から造成、管理までの主体を子どもたちに置くように心がけています。僕が得意なのは水辺造りの指導なのですが、春に造った水辺には、夏になるともう様々な生き物が生息し始めます。つまり、子どもたちは自分たちがやったことの成果を、すぐに自分の目で確かめることができる。僕はビオトープを使い、子どもたちに『自然に対してまだまだできることがあるんだ!』という前向きな気持ちを持たせたいんです」

環境学習出前授業の様子
環境学習出前授業の様子

水生植物の植え付け
水生植物の植え付け

“都会っ子”の僕だからできること

ビオトープ観察ガイド
ビオトープ観察ガイド

 東京・池袋で生まれ育った三森さんが、自然や環境に関わる仕事を志すようになったのは高校卒業後。大きな交通事故に遭い、自分自身を客観的に見つめ直せたことがきっかけだった。幸運にもリハビリに成功、その後独学でビオトープ管理士の資格を取得。21歳で東京環境工科専門学校に入学した。
 「在学中から、環境調査会社やエコツアーショップなどで積極的にバイトをしました。プロの現場を知ることができただけでなく、いろんな人と知り合えたことは、その後の仕事にもずいぶんプラスになりました」
 24歳のとき、霞ヶ浦で子どもたちを巻き込んだ自然再生プロジェクトを推進しているNPO法人「アサザ基金」に就職。年間100校以上の学校ビオトープの管理や活用に携わった。そして27歳で独立、ビオトープ管理士として活動し始めた。
 「自然豊かな田舎で生き物の素晴らしさを実感すればするほど、自分が暮らす都会にも、もっと多くの生き物が棲めたらいいのにと思うようになっていました。日常とかけ離れた場所ではなく、身近な場所の自然や生き物に目を向けられる人を増やすことが、本当の意味での自然再生につながるはず。そして、失われつつある都会の自然だけれど、まだまだ守る方法、取り戻す方法はあるよ、と“都会っ子”の僕だからこそ、説得力を持って話せると思うんです」

日本ならではの自然の守り方がある

河川水生生物調査
河川水生生物調査

事務所の屋上で地域の水生植物を増やす
事務所の屋上で地域の水生植物を増やす

 「今の日本では、生き物を守るシステムが人間が暮らすためのシステムと切り離されているように思います。僕は生き物の視点でまちづくりができる人を一人でも増やしたい。そんな気持ちで今、ビオトープを使った自然教育をやっています」
 アメリカやヨーロッパの国々では、生き物と人間が暮らす場所を明確に区分けすることで、貴重な自然や生き物を保護してきた。
 しかし、広大な土地に少ない人口という国々で有効な方法が、人口の多い小さな島国の日本でも有効とは限らない、というのが三森さんの持論だ。
 「昔の日本には原生自然の残る奥山とバッファーゾーン(緩衝帯)となる里山しかなかった。僕はこの里山のような人の棲家の近くに生き物の棲家がある環境が、日本という国には一番合っていると思います。
 広々とした田んぼや大きなため池だけじゃなくていいんです。たとえ小さな水辺でも、町の中に点が増えていけば、点と点が線になり、生き物たちが行き交う道ができるんですよね。
 いつの日か、人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい。それが僕の目指すところです」

必須アイテム

三森さんの“七つ道具”
三森さんの“七つ道具”

 泥水に腰までつかって作業することも多いビオトープ造りには、ウェイダー(胴長靴)が欠かせない。植物を植えたり、刈ったりするときのために移植ごてやのこぎり鎌も必須品だ。
 「環境のプロというよりも造園屋さんみたいでしょう(笑)。あとは生き物を観察する際に使うタモ網や防水顕微鏡、手製の資料、図鑑類。それが僕にとっての七つ道具ですね」

ある1日のスケジュール

06:00 起床。

07:00 埼玉県新座市の自宅から電車、もしくは車で都内の小学校へ。他のビオトープ管理士らスタッフ数名と待ち合わせ。

08:00 学校に到着。授業前に先生と打ち合わせ。

08:50 1-2時間目。生き物についての授業を実施。どんなビオトープを作るかを生きものの視点で子どもたちと計画。「質問を投げかけたり、手描きの絵で説明したり。僕の役割はプロとして子どもたちがまだ持っていない“生き物の視点”をいろんな形で提供することです」

10:45 3-4時間目。事前に発注しておいた材料や植物を使ってビオトープを造る。造るのも子どもたちが主体。「植物は場所によって水系が異なるので、それに合わせたものを準備。たとえば、世田谷区の小学校なら多摩川水系のセリやミゾソバ、マコモなどを。もちろん放つメダカも多摩川水系のメダカです」

13:00 授業終了後、仕上げの作業整備。「子どもたちが泥だらけの足で歩いた渡り廊下の掃除も、もちろん僕たちの仕事です」

17:00 学校を退出。ビオトープ管理士たちが集う「人と自然の研究所」に立ち寄り、スタッフとこの日の総括&次回の打ち合わせ。三森さんは、ここで定期的に開講されているビオトープ管理士を対象にしたプロ講座の講師も務めている。

21:00 帰宅後、メールのやりとりや、資料の作成などのデスクワークを。

02:00 就寝。「忙しいのは4~11月。特にその年の仕事が動き始める4~6月は、気もはるので大変。平均3~4時間睡眠という日々が続きます」

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このレポートへの感想

「子どもたちが泥だらけの足で歩いた渡り廊下の掃除も、もちろん僕たちの仕事です」
これは、一番は親の子どもに対する教育の怠惰にあると思います。私自身にも小さな子どもがいますので、子どもには「人にやってもらうことが当然ではなく、出来ることがないかを考える」姿勢を教えていきたいと改めて感じました。
本日は、ビオトープの三森さんにお世話になりました。生き物だけでなく、人を惹き付ける魅力を持っていらっしゃる三森さん!気づけば子どもたちは自然に三森さんの回りに集まっています。三森さんのお話も集中して聞いています。子どもたちとの信頼関係を築くのがお上手な三森さんならきっと子どもたちに「廊下を綺麗にしよう」と言ったらみんな頑張って手伝うんじゃないかなと感じました!
ですが、まずは私たち親がちゃんと子どもに教育しなければいけないことですよね(^_^;)親御さんたち、一緒に頑張りましょう!!
(2020.08.22)

「子どもたちが泥だらけの足で歩いた渡り廊下の掃除も、もちろん僕たちの仕事です」

一番子供がしなければいけないことを、大人がしてしまっている。これを「教育」というのでしょうか。
自分で汚した場所をかえりみない、このような少年期を過ごした者が大人になったとき、どういう人間になるのでしょう。こういう場面を、昨今非常に多く見ます。つまり、子供が「お客さん」になってしまっているケースです。受注を勝ち取りたい業者と、仕事を減らしたい学校側(かどうか知りませんが)これら両方で、いちばんやらなければならないことを、させていない。
子供が学んでおかなければいけないことは、公共の場所を少々汚したって、放っておけば、どこかの誰かが、知らぬまにキレイにしてくれるのだ、ということではないはずです。
同じビオトープ管理士として、非常に残念であるとともに、考えさせられた、レポートでした。




(2012.11.25)

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  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」 -インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」-ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」 -野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」 -森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」 -NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」 -野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」 -造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」 -公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
  26. 026「昆虫を飼育するうえで、どんな場所に棲んでいて、どんな生活をしているか、現地での様子を見るのはすごく大事」 -昆虫飼育員兼インタープリター・腰塚祐介さん-
  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
  28. 028「生きものの魅力とともに、生きものに関わる人たちの思いと熱量を伝えるために」 -番組制作ディレクター・余座まりんさん-
  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」 -ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-
  33. 033「人の社会の中で仕事をする以上、人とかかわることに向き合っていくことを避けては通れない」 -ネイチャーガイド・山部茜さん-
  34. 034「知っている植物が増えて、普段見ていた景色が変わっていくのを実感」 -植物調査員・江口哲平さん-
  35. 035「日本全国の多彩なフィールドの管理経営を担う」 -国家公務員(林野庁治山技術官)・小檜山諒さん-
  36. 036「身近にいる生き物との出会いや触れ合いの機会を提供するための施設管理」 -自然観察の森・解説員 木谷昌史さん-
  37. 037「“里山は学びの原点!” 自然とともにある里山の暮らしにこそ、未来へ受け継ぐヒントがある」 -地域づくりNPOの理事・スタッフ 松川菜々子さん-
  38. 038「一方的な対策提案ではなく、住民自身が自分に合った対策を選択できるように対話を重ねて判断材料を整理する」 -鳥獣被害対策コーディネーター・堀部良太さん-

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