東京都町田市北部の丘陵地帯を源流に、川崎市や横浜市を通って東京湾へと注ぎ込む一級河川・鶴見川。動物のバクの形にも似た235平方キロメートルに及ぶ流域【1】に188万人もの人々が暮らす、典型的な都市河川である。
「昭和40-50年代には水質の悪さで有名でしたが、徐々に下水処理施設の整備が進み、昭和60年代以降は水質も改善。現在ではアユやウナギ、ハゼが泳ぎ、にぎやかに暮らすほどきれいになっています」
と教えてくれた阿部裕治さん。鶴見川流域で活動する43の市民団体と連携しながら、市民や行政、企業とさまざまな流域活動を展開しているNPO法人鶴見川流域ネットワーキング(npoTRネット)で働いている。
「行政区が人間の決めた単位だとすれば、流域はいわば自然の決めた単位。自然防災や自然の保護はもちろんのこと、川づくりや町づくりを考える上でも、この『流域』という視点が欠かせません」
川が人間にとって快適で安全であり、生きものが暮らしやすい状態であること。その両立を図るために行われる防災対策や環境対策などの事業の中には、行政区ごとに取り組むよりも、流域として取り組んだ方がいいものがたくさんある。
「僕たちnpoTRネットに期待されているのは、そういう事業を行う際の市民・行政・民間の“潤滑油”的役割だと思っています」
高校、大学時代は土木を専攻していたが、就職活動が本格化する大学三年頃になって自然環境を保全・復元するような仕事をしたいという自分の思いに気づいた。
「子どもの頃から母の実家の前を流れる川で釣りをしたり、実家の近くを流れる川岸に秘密基地を作ったり、川で遊ぶことが多かったんです。あれだけ自然に楽しませてもらったのだから、何か自然に対して自分にできることはないだろうかと考えるようになりました」
ビオトープ管理士の資格を取得したものの、結局希望する企業には就職できなかった。そこで、環境について勉強し直すために東京環境工科専門学校へ進学。在学中、同級生たちと遊びがてら出かけた三浦半島の「小網代の森」で活動するNPOを手伝ったのがきっかけで、npoTRネット代表の岸由二さん(慶応大学教授)と知り合い、この仕事に携わるようになった。
「岸先生の下で学びたいという思いもあって、卒業後に就職を決めました。NPOについてよく知らない両親は心配だったと思いますが、自分がやりたいことを一生懸命やることが、本当の意味での恩返しに思えたので……自分の思いを貫きました」
npoTRネットで働き始めて6年目。クリーンアップ作戦や流域ツーリズム、スタンプラリーなどの流域規模のイベントや、小学校等での環境学習支援、そして鶴見川流域センター(港北区小机)の運営管理と、仕事内容は多岐に及ぶ。
「生きものの調査が主な担当ですが、皆でいろんな仕事をやりくりしながらやっています。毎日忙しくて、一日があっという間に過ぎていく気がします(笑)」
阿部さんが今、最も関心を持っているのが環境教育だ。
「汚い川だと思い込んでいた鶴見川に、実はたくさんの生きものが棲んでいた。それを知ったときの子どもたちの感動を目にするのが好きですね。それに、川の魅力を知った子どもに手を引かれれば、きっと大人たちも川に足を運んでくれるようになると思うんです」
縁あって関わり始めた鶴見川。流域で生活する人たちには、身近に流れる鶴見川にもっと目を向け、もっと親しんで欲しい、と語る。
「それぞれの川にそれぞれの特徴があり、文化があります。川と親しむ人が増えれば、地域社会も変わっていくはず。それが僕たちの目指すところです。都市河川の鶴見川ですが、川の学習に関わった子どもたちが、足元にあるちょっとした自然を面白いと感じ、大きくなったときに子どもの頃の自然の体験を楽しく話せるようになる。そういう大人を一人でも増やすこと。それが僕の夢ですね」
小学校などで行う環境学習支援に使用するのが投網、タモ網、観察用水槽。大勢の前での解説にはハンズフリーマイクも必要だ。河川学習支援や調査などで実際に鶴見川に入る機会も少なくない。その際は胴長、ライフジャケットだけでなく、人が川に流されたときに用いるスローロープ(救助用ロープ)を装備、万一の場合に備える。
「自然が相手なので油断は禁物です。天気予報などの情報チェックも欠かせません」
06:00 起床。仕事内容は日によって異なる。この日は午前中に川崎市内の小学校で環境学習支援の仕事があるため、集合時間に合わせて通常より早めの起床に。
07:00 事務所に出勤。前夜のうちに授業で使用する手網やトロ船などの用具を積み込んでおいた「バク号(事務所のミニバン)」を運転して目的の小学校へ。
08:00 他のスタッフと合流。7人で授業の準備を始める。
08:45 小学校5年生4クラス130人を対象に授業開始。学校ビオトープに棲む生きものの観察がこの日のテーマ。「最初は泥を触るのさえ嫌がっていた子どもたちが、メダカやヤゴなどの生きものを見つけると目を輝かせて喜ぶんですよね。その様子を見るのがこの仕事の醍醐味ですね」
13:00 後片付けをしてから、学校を退出。途中で昼食をすませて事務所へ。
14:00 午後からは主にデスクワーク。連絡は主にメールで行っているため、まずはメールチェックをする。その合間に午前中実施した環境学習支援の事業報告書を作成。
17:00 学校の先生たちとの電話連絡が可能になるのは、児童たちが下校する夕方頃から。次回の学習支援の細かい内容を電話で打ち合わせ。その後、夕食をとりにいったん外出。
21:00 退社。「大きなイベントが近づくと、準備に追われて真夜中過ぎまで残業することもあります。でも、やらされている仕事とは感じていないので、残業とは思わないですね」
24:00 就寝。
このアユがきれい
(2019.06.12)
就職に失敗し、人生を見直している25歳です。
阿部さんと同じように、TRネットに若干関わっていたこともあります。
阿部さんの体験を読んで、もう一度、学び直してもいいかと考えを改めました。ありがとうございます。
これからもがんばってください。
(2011.08.16)
川と子供たちを結ぶ大切なお仕事だと思います。
怪我のないよう、頑張って下さい!
(2011.01.11)
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