「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー
オーストラリアには、世界で一番小さいペンギンである「リトルペンギン」が生息しています。
「ペンギン・パレード」として、野生のペンギンが見られることで有名なビクトリア州のフィリップ島では、宅地開発や観光客の増加により、一時、個体数が激減したことを以前のシリーズ「オーストラリアの野生動物保護( https://econavi.eic.or.jp/ecorepo/together/series/32 )」でご紹介しました。
(動画)フィリップ島のペンギン・パレード。
フィリップ島は、その後、長い年月をかけて環境回復とマネージメントに力を注ぎ、個体数を回復させることができつつありますが、その他オーストラリア各地の野生のリトルペンギン生息地では、基本的にすべての営巣地で個体数が減少しています。
なかでも劇的に減っているのが、シドニーとパースの南にある「ペンギン・アイランド」です。
ビクトリア州のフィリップ島は、日本でも有名ですが、西オーストラリア州の州都パースの南約53kmにあるロッキンガムという町の沖合に、その名も「ペンギン島(ペンギン・アイランド)」と呼ばれる小さな島があります。これは、この辺りでは比較的大きなリトルペンギン営巣地があることから名付けられました。
しかし、ペンギン島のリトルペンギン個体数は、この17年間で95%減少してしまい、このままでは、「絶滅」を逃れられない危機的な状況となっています。
個体数が激減してしまった原因を調査した結果、最大の要因は、島周辺での船舶活動をはじめとする水辺の環境悪化であることがわかりました。しかも非常に残念なことに、死亡原因の4分の1以上が、人間がレクリエーション用として運転する水上バイクとの衝突事故によるものだったそうです。
冒頭でも触れたフィリップ島やタスマニア島などで、野生のペンギンが見られることを知っている、または、見に行ったことがあるという方は結構多いかもしれませんが、シドニーにも生息しているというと、ほとんどの人が驚くのではないでしょうか?
シリーズ「オーストラリアの野生動物保護」の最終回『現場編(5)実際に救助した動物たち』でもご紹介しています( https://econavi.eic.or.jp/ecorepo/together/311 )が、シドニーに住んでいる私自身、野生のペンギンを救助・保護したことがあります。
リトルペンギンの生息域は、オーストラリア南部の沿岸地域とされていますが、西側の北限はパースあたりまで、東側はシドニーの北150kmほどのところに位置するポート・スティーブンスの南あたりまでとなっています。つまり、シドニーは生息域内にあるのです。
ただ、オーストラリア南部の沿岸地域が生息域になっているとはいえ、ペンギンたちが繁殖するための営巣地は、フィリップ島や上記でご紹介したペンギン島をはじめ、そのほぼすべてが沖合の島となっています。ですが、シドニーの営巣地はオーストラリア大陸本土側にあります。これは、本土に現存するほぼ唯一の営巣地であり、この周辺地域で一番大きな営巣地でもあるのです。
ニューサウスウェールズ州の国立公園野生生物局レンジャーによると、シドニーにおける2024-2025年度の繁殖シーズンは、前シーズンまでで過去最低となっていた19ペア(つがい)から更に減り、15ペアしか確認できなかったそうです。最大時は70ペアだったそうですから、劇的に減ってしまったことがわかります。
シドニーのペンギン個体数激減の主な原因は、入植者が趣味の狩りのために持ち込んで野良化したキツネや野良猫、放し飼いされている犬や猫などのペットに襲われて命が奪われるケースが後を絶たないことです。また、西オーストラリアのペンギン・アイランド同様、船舶の活動に加え、人間の居住区と近いことから、人工光や音などによって方向感覚を失い、営巣地にたどり着けなくなって衰弱し、死亡してしまうケースもあるそうです。
毎年、春先から夏にかけて(通常、だいたい8月~翌年2月頃)は、リトルペンギンの繁殖シーズンに当たります。
西オーストラリア州のペンギン・アイランドは、上記のような調査結果を受けて、6月から9月頃までは、人間が上陸しないよう、島全体が閉鎖されることになりました。
また、本土側に残るほぼ唯一のリトルペンギン営巣地を含むシドニー湾沿いは、「シドニー・ハーバー国立公園」に指定されており、簡単に営巣地に近づけないようになっています。そして、国立公園野生生物局からは、周辺住民および訪問者へ向けて、以下のようなメッセージが出されています。
・夜は猫を屋内に留め、犬はリードにつなぐこと。
・ビーチで遊んだ後、ゴミは必ず持ち帰ること。
・ペンギンとの衝突や海洋生物が餌とする海草が破壊される可能性があるため、ボートに乗る際は船舶立入禁止区域には入らないこと。
・深夜や早朝などは、国立公園内や保護区内へ立ち入りしないこと。
・国立公園内や保護区内は禁煙。
・ドローン飛行禁止。
この地球上には、人間だけでなく、さまざまな生き物が暮らしています。私たち人間の活動によって野生の生き物たちの生息を脅かすことがないよう、細心の注意を払って行動し、同じ場所を共有する生き物たちと環境を守っていきたいものです。
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