「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー
オーストラリアの最南に位置するタスマニア州。本土の南端から240kmほど離れたタスマニア島と周辺の小さな島々で成り立つ州です。
州の総面積は90,758km2ですが、州都ホバートのある一番大きなタスマニア島のみでは60,637km2となり、北海道の7割ほどの大きさ。南極に近いこともあって、オーロラ(オーロラ・オーストラリス)が出現することもあります。
タスマニア島と本土は、最後の氷河期には繋がっていましたが、その後の海面上昇で隔てられ、孤立した島となりました。そのため、タスマニア島と本土の間のバス海峡は、巨大な大陸棚といえるほど水深が浅く、ヨーロッパからやってきた入植者たちを乗せた船が、度々座礁したことでも知られています。
タスマニアの四季は、かなりはっきりしていますが、夏場でも平均気温が20度を少し上回る程度と、比較的冷涼な気候です。そして、冬場は雪が降ることも珍しくありません。平野部で積るほど降ることは少ないものの、標高の高い地区では数十センチ程度の積雪もあるため、小規模ながらスキー場も2ヶ所あります。
また、大気汚染の元となる大きな工場がなく、人口が少ないこともあって、空気中の二酸化炭素濃度は世界で最も低い水準にあることが知られています。そのため、「世界で最も空気がきれいな場所」と言われています。その上、年間を通じて降水量が比較的多く、河川は常に大量の水が速い速度で流れていることもあり、水質汚濁がほとんどありません。また、この豊富な水を利用して、島内の電力の大部分は水力発電で賄われています。
タスマニア島は、島面積の約2割に当たる広大なエリアが、ほぼ手付かずの原生林であり、また、ところどころに先住民アボリジニの壁画や遺構が残っているため、自然と文化の両観点から、「タスマニア原生地域」として世界複合遺産に登録されています。
世界遺産に登録されたエリアには、かつて超大陸として地球上に存在したゴンドワナ大陸時代からの生き残りの植物とされるナンキョクブナ(ファガス)やパンダニといった固有種が自生しています。中でも、氷河時代の氷河が削ってできた荒々しい高山地区は、自生する植物の約7割がタスマニア島でしか見られない固有種で構成され、他では見られないユニークな植生を育んでいます。
しかし、その豊かな太古の森は林業が盛んなエリアでもあります。木材の輸出で生計を立てる人も多いことから、世界遺産として登録されたエリアの縮小を求める動きもあり、貴重な原生林の保護と産業の発展という、対局に位置する人々のせめぎ合いが続いています。
タスマニア州は近年、『世界屈指のクリーンで安全な食の宝庫』として注目されています。農業に対して独自の厳しい規制を設けているためです。
例えば、遺伝子組み換え(GMO)は作物や飼料など、すべてにおいて認可されておらず、畜産や養殖の場では、ホルモン剤や抗生物質の使用は基本的に禁止【1】。その他の農作物についても、農薬や化学肥料をはじめとする化学物質の使用をできる限りやめ、どうしても必要な場合のみ、最小限に留めるよう指導するなど、オーストラリアの他の州と比較しても、とりわけ厳しい管理の下で生産されています。
また、タスマニア島は、冷涼な気候がリンゴの生産に向いているため、別名「Apple Isle(リンゴの島)」と呼ばれるほど、世界有数のリンゴ生産地でもあります。
クリーンで安全な飼育が徹底されているタスマニアの畜産業 © Tourism Tasmania & Rob Burnett
タスマニアの動物といえば、昨年6月に東京の多摩動物園で公開された「タスマニア・デビル」が有名ですが、実は、タスマニア・デビルはその昔、オーストラリア本土側にも生息していました。既に絶滅してしまったとされる「タスマニア・タイガー(フクロオオカミ)」【2】と共に、本土では生存競争に敗れ、最終的に本土と切り離されたタスマニア島でのみ、生き残った種と言われています。現在では、タスマニア島だけに生息しているため、タスマニア・デビルと呼ばれるようになりました。
このように、早い時期に本土から分裂したタスマニア島は、本土側で絶滅した動物たちにとって、“最後の楽園”とも言えます。また、きれいな水域にのみ生息する「カモノハシ」にとっても、水質汚染がほぼないタスマニア島は、楽園ともいえる環境が整っているため、国内最大級の生息地となっています。
しかし、その逆に、オーストラリアを代表する動物「コアラ」は、気候変動による環境変化や餌となる種類のユーカリが無かったために、タスマニアでは生息できず、化石すら発見されていません。
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