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「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー

0202021.05.25UP地球上の植物の歴史と進化を垣間見る、世界遺産ブルー・マウンテンズ-地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-

 シドニーから約90分のところに広がるブルー・マウンテンズ。1800年代からシドニーの人たちの避暑地として知られ、現在は国境閉鎖により海外からの観光客は来ることができませんが、国内観光客は変わらず、大勢の人が訪れています。

 2019-2020年のオーストラリア大規模森林火災では、このブルー・マウンテンズ地区一帯でも、83万8千ヘクタール以上を焼失するという大きな被害を受けました。
 今回は、2000年にユネスコの世界自然遺産に登録されたブルー・マウンテンズの魅力と価値を紹介します。

ブルー・マウンテンズの観光ポイント「シーニック・ワールド」からの風景©  Destination NSW

ブルー・マウンテンズの観光ポイント「シーニック・ワールド」からの風景© Destination NSW

鬱蒼とした緑に覆われる断崖がどこまでも続くブルー・マウンテンズ© Miki Hirano

鬱蒼とした緑に覆われる断崖がどこまでも続くブルー・マウンテンズ© Miki Hirano


世界遺産としてのブルー・マウンテンズ

 15年ほど前、「ブルー・マウンテンズは、シドニーから手軽に行ける人気の観光地」と紹介したところ、「ガイドブックに載っていたので行ってみたけれど、たいして高くもない単なる山で、見るところはとくにない」と言われたことがありました。人にはそれぞれ好みがあるので、そう思う人がいるのは仕方ないことなのですが、確かにパっと見たところ、「緑に覆われた山」という風景が広がっているだけのようにも見えます。
 それでは、一体何が、『世界自然遺産』として登録されるほどの価値があるのでしょうか?

 日本では一括りに「ブルー・マウンテンズ」としてしまっていますが、世界遺産の正式名称は「グレーター・ブルーマウンテンズ地域(Greater Blue Mountains)」。オーストラリア最大の原生林が手つかずのまま残る、8つのエリア(7つの国立公園と1つの保護区)にまたがる103万ヘクタールもの、広大な地域が世界遺産に登録されています。
 ブルー・マウンテンズは、シドニーからの日帰り観光の定番ですが、この地に昔から暮らしてきた先住民の神話が残る「スリー・シスターズ」と呼ばれる3つの奇岩が有名です。そのため、ほとんどのツアーでは、「スリー・シスターズ」を見学することが観光のハイライトとなっています。
 ですが、世界遺産に登録されたのは、こうした景観だけではなく、地球の歴史と密接に関連した驚くべき理由があるのです。

ブルー・マウンテンズ観光のハイライトともいえる「スリー・シスターズ」© Filippo Rivetti / Destination NSW

ブルー・マウンテンズ観光のハイライトともいえる「スリー・シスターズ」© Filippo Rivetti / Destination NSW

かなりの高低差がある地形であることがよくわかる© Destination NSW

かなりの高低差がある地形であることがよくわかる© Destination NSW


異なる環境下でしか見られない植物が一堂に介す特異なエリア

ユーカリ属をはじめ、オーストラリア大陸固有の植物は、発芽に火などの何等かの外的要因を必要とするものが多い© Miki Hirano

ユーカリ属をはじめ、オーストラリア大陸固有の植物は、発芽に火などの何等かの外的要因を必要とするものが多い© Miki Hirano

 ブルー・マウンテンズは、約3憶年前に起こった大規模な地殻変動でできたグレート・ディヴァイディング山脈の一角に位置し、海抜100メートル未満から1300メートル超えまでの高低差があります。

 グレート・ディヴァイディング山脈に海からの湿った空気がぶつかり、雨を多く降らせるということは、本シリーズ第2回「自然環境を大きく変えるグレート・ディヴァイディング山脈 ─ニューサウスウェールズ州─」で紹介していますが、この雨が多く降る東面と、雨雲が山を越えられず雨があまり降らない西側、そして、山脈の高低差も相まって、このエリアだけで異なる気候区分ともいえる、いくつかの異なる環境ができています。

 そのため、本来なら異なる気候のエリアでしか見られないはずの植物が、同エリア内だけで見られるのです。なかでも、オーストラリアを代表する植物のひとつ、ユーカリ属は、ブルー・マウンテンズ地区だけで、約90種が自生しており、ユーカリ属の進化と多様性が垣間見られる世界唯一の場所となっています。


何億年も前からその姿をほとんど変えていない太古の森

夕日に照らしだされる風景に太古の森を感じる© Destination NSW

夕日に照らしだされる風景に太古の森を感じる© Destination NSW

 ブルー・マウンテンズ地区に広がる鬱蒼とした森には、ゴンドワナ大陸に由来する植物が多く自生しており、古代の植生が見られる貴重な場所でもあります。土の中で休眠状態にある植物の種子が発芽するためには、何らかの外部要因を必要とします【1】。現在では、光や温度、水分状態が要因になる種が多くなっていますが、古代から受け継いだオーストラリア固有の植物の多くは、第15回記事「オーストラリア史上最悪の森林火災はなぜ起きたか」で紹介した通り、発芽要因として山火事などによる火を必要としています。
 こうした太古の森と、そこに生息する生物多様性が、残すべき人類の遺産として認められ、ユネスコの世界自然遺産に登録されることになったのです。
 また、そのルーツを約2億年まで遡ると推定されている「ウォレマイ・パイン」が、このブルー・マウンテンズ地区だけに自生していることも、世界遺産登録の過程で重要視されたと言われています。
 ジュラシック・ツリーの愛称で呼ばれる「ウォレマイ・パイン」は、その古さと発掘されてきた化石の記録から絶滅したと考えられていました。しかし、1994年にブルー・マウンテンズの世界遺産地区の一角で発見され、世界の植物学会を揺るがす大ニュースとなったのです【2】
 冒頭で紹介したように、ブルー・マウンテンズ地区一帯は、2019-2020年の森林火災で、83万8千ヘクタール以上を焼失するという、大きな被害を受けました。しかし、最も危惧されたウォレマイ・パインの自生地は、州政府の極秘作戦によって守られ、太古から火と共に生き抜いてきた森は既に再生を始めています。

 地球上で植物がどのように繁栄し、進化してきたか。
 その歴史を垣間見ることができるのが、世界自然遺産グレーター・ブルーマウンテンズ地域なのです。


【1】オーストラリア大陸固有の植物は、発芽に火など何らかの外的要因を必要とする
 オーストラリアや南アフリカなど火災が発生しやすい地域のユーカリなどには、発芽のトリガーとして火や熱を必要とする種がみられます。これらの植物は、乾燥や高温に適応し、種子生産サイクルにもこれらの外的要因を利用するように進化してきました。こうした生態的適応は「セロティニー」と呼ばれます。
【2】ジュラシック・ツリーの愛称で呼ばれる「ウォレマイ・パイン」
 日本では、2005年に愛知万博として開催された「愛・地球博」で展示されたので、覚えている方もいるかもしれません。

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バックナンバー

  1. 001「知っているようで、意外と知らないオーストラリアという国。」
  2. 002「自然環境を大きく変えるグレートディヴァイディング山脈」 -ニューサウスウェールズ州-
  3. 003「世界最大の珊瑚礁と世界最古の熱帯雨林」 -クイーンズランド州-
  4. 004「コンパクトな地の利と多様な環境が育む‘食の宝庫’」 -ビクトリア州-
  5. 005「原始の森に包まれた世界でいちばん空気がきれいな島」 -タスマニア州-
  6. 006「乾燥と寒暖差を利用した世界屈指のワイン産地」 -南オーストラリア州-
  7. 007「インド洋に沈む夕日と独自の生態系が見られる資源の宝庫」 -西オーストラリア州-
  8. 008「湿潤な森と湿原、乾燥した砂漠の2つの顔を持つ準州」 -ノーザンテリトリー準州-
  9. 009「二大都市間に計画的に造られた政治の中枢都市」 -キャンベラ首都特別地域-
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  13. 013「自然界の偶然が生んだ奇跡の楽園!不思議な世界最大の砂島・フレーザー島」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
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  15. 015「オーストラリア史上最悪の森林火災はなぜ起きたか」 -地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-
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