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「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー

0272023.10.10UP荒野を潤すトムソン川沿いに開けたアウトバック・タウン~ロングリーチ-地球の息吹を感じるオーストラリアの旅先案内-

素朴な雰囲気が残るアウトバック・タウンとして注目を集めている、クイーンズランド州「ロングリーチ」

 日本の約20倍という広大な面積を誇るオーストラリアですが、人口の大半が沿岸部に集中し、内陸部は数人から数百人程度の過疎地が多くなっています。こうしたリモートエリアは、「アウトバック」と呼ばれ、「自然と共存するオーストラリアの住まい 004」でもご紹介したように、公共インフラが整っていないところが多く、生活はなかなか大変です。

 とはいえ、内陸部のアウトバック地域でありながら、数千人規模の住民が暮らし、商店街が作られ、最低限必要なインフラが整っている「町」と呼べるところがあります。こうした場所は、「アウトバック・タウン」と呼ばれ、都市部に住むオーストラリア人にとっても、普段とはまったく異なるアウトバックならではの生活を垣間見ることができると、人気の旅先となっています。

 アウトバック・タウンの中でも比較的早くから開けた町のひとつが、クイーンズランド州の「ロングリーチ」です。現在の人口は、約3,700人とさほど多くはありませんが、インフラが整備された今も昔と変わらず、オーストラリアの田舎ならではの素朴な雰囲気が残るアウトバック・タウンとして注目を集めています。

ブリスベンからロングリーチへは直行便で2時間20分。ロングリーチ周辺は乾燥した荒野が広がる。 © Miki Hirano

ブリスベンからロングリーチへは直行便で2時間20分。ロングリーチ周辺は乾燥した荒野が広がる。 © Miki Hirano

ロングリーチの中心部、メイン通りには様々な店舗が並ぶ。 © Miki Hirano

ロングリーチの中心部、メイン通りには様々な店舗が並ぶ。 © Miki Hirano


トムソン川に支えられたアウトバック・タウン「ロングリーチ」

 ロングリーチのすぐ近くには「トムソン川」という、約350 kmにも及ぶ河川があります。トムソン川は、内陸部のアウトバック地域には珍しい『恒常河川』です。恒常河川とは、その名の通り、常に水がある川のこと。内陸部は、一般的に乾燥した砂漠地帯となってしまうため、こうした常に水を湛える川の存在は、人々が生活する上でとても重要です。

豊富な水を湛えるトムソン川。 © Miki Hirano

豊富な水を湛えるトムソン川。 © Miki Hirano

トムソン川クルーズで見られた美しい夕焼け。 © Miki Hirano

トムソン川クルーズで見られた美しい夕焼け。 © Miki Hirano


 ロングリーチという町名は、1800年代半ばに、入植者がトムソン川の長い支流に沿った場所(situated on a long reach of the Thomson River)に大規模な放牧農場を作ったことから、名付けられたそうです。この川があったからこそ、この場所に入植して生活基盤を整えていき、徐々に住民が増え、町となっていったことが伺えます。

 また、1921年に、ロングリーチから179km離れた「ウィントン」で産声を上げたオーストラリア初の航空会社「カンタス」が拠点を移したことも、この町がアウトバック・タウンとして大きく発展するきっかけとなりました。

川沿いの豊かな生態系と美しい風景を楽しめるトムソン川クルーズ。 © Miki Hirano

川沿いの豊かな生態系と美しい風景を楽しめるトムソン川クルーズ。 © Miki Hirano

観光名所にもなっているロングリーチ空港に併設された「カンタス博物館」。 © Miki Hirano

観光名所にもなっているロングリーチ空港に併設された「カンタス博物館」。© Miki Hirano


荒野を流れる恒常河川の源流と終着点

 なぜ、乾燥した砂漠地帯となってしまうはずのアウトバックに、トムソン川のような恒常河川があるのでしょうか?

 「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る! 002」でもご紹介した通り、オーストラリア大陸は、東側の海沿いに南北に連なる「グレートディヴァイディング山脈」を境に、山脈の東側と西側で自然環境が大きく変わります。

 東の海(南太平洋)からやってくる湿った空気がグレートディヴァイディング山脈にぶつかり、東側に多量の雨を降らせますが、山脈を超えることができた一部の雨雲は、西側にも雨を降らせます。また、北西のインド洋で発生したサイクロン(北半球の台風に当たる)が大陸北部に上陸した後、熱帯低気圧となって内陸部まで到達することがありますが、この時もグレートディヴァイディング山脈北部の西側にまとまった雨を降らせます。

川沿いには緑が生い茂り、豊かな生態系が育まれている。 © Miki Hirano

川沿いには緑が生い茂り、豊かな生態系が育まれている。 © Miki Hirano

川沿いで開かれるカントリー・ディナー・ショー。観光客だけでなく、地元客も多い。 © Miki Hirano

川沿いで開かれるカントリー・ディナー・ショー。観光客だけでなく、地元客も多い。 © Miki Hirano

ロングリーチの人々からは、オーストラリアの田舎町ならではの素朴で温かいホスピタリティを感じる。 © Miki Hirano

ロングリーチの人々からは、オーストラリアの田舎町ならではの素朴で温かいホスピタリティを感じる。 © Miki Hirano


 トムソン川の源流は、こうした雨によってグレートディヴァイディング山脈西側の一角「アルマ・レンジ」にできる「トレンス・クリーク」という小川にあるのだそうです。そして、このような小さな流れがいくつも集まり、「ムッタブラ」という恐竜の化石で有名な小さな町の北で「トムソン川」となって、内陸部へ向かって流れていくのです。

トムソン川の源流から終着点までが描かれたエア湖水系のマップ。© CC BY-SA 3.0 by Kmusser - Wikipedia

トムソン川の源流から終着点までが描かれたエア湖水系のマップ。© CC BY-SA 3.0 by Kmusser - Wikipedia

 トムソン川は、ロングリーチを超えてさらに南西へ向かって流れ、途中でバークー川と合流して州境を越え、「クーパーズ・クリーク」を形成し、終着点となる南オーストラリア州内陸部の「エア湖」へと繋がっていきます。オーストラリア最大とされているエア湖にはいくつかの河川が注いでいますが、暑い時期は特に水が途中でほとんど蒸発してしまって流れ込まない時期が長く、乾季にはほぼ完全干上がってしまう塩湖でもあります。

 このように、乾燥した環境のアウトバック地帯では、一定の水量を保つのが難しいため、トムソン川のように豊富な水を湛える川は、本当に貴重なのだとわかります。川沿いは緑が多く、豊かな生態系が育まれています。リバークルーズで川に乗り出すと、人々が川で魚釣りをしたり、バードウォッチングをしたり、暑い日には川沿いで夕涼みをしたりと、川が生活の一部となっている様子がひしひしと伝わってきます。

 この町を初めて訪れて感じたのは、トムソン川が、まさに「命の水」なのだということ。住民だけでなく、この水を必要とするすべての動植物にとって大切な川を守り、共に生きる人々が助け合って暮らすロングリーチには、昔ながらの温かい人情があふれていました。

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バックナンバー

  1. 001「知っているようで、意外と知らないオーストラリアという国。」
  2. 002「自然環境を大きく変えるグレートディヴァイディング山脈」 -ニューサウスウェールズ州-
  3. 003「世界最大の珊瑚礁と世界最古の熱帯雨林」 -クイーンズランド州-
  4. 004「コンパクトな地の利と多様な環境が育む‘食の宝庫’」 -ビクトリア州-
  5. 005「原始の森に包まれた世界でいちばん空気がきれいな島」 -タスマニア州-
  6. 006「乾燥と寒暖差を利用した世界屈指のワイン産地」 -南オーストラリア州-
  7. 007「インド洋に沈む夕日と独自の生態系が見られる資源の宝庫」 -西オーストラリア州-
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