「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー
小惑星「リュウグウ」の砂を採取し、その砂の入ったカプセルを地球へ帰還させるというミッションを課された宇宙航空研究開発機構 JAXAの「はやぶさ2プロジェクト」。幾多の困難を乗り越え、昨年12月6日未明、予定通り、オーストラリア内陸部の砂漠地帯ウーメラに、「はやぶさ2」のカプセルが帰ってきました。
世界で初めて小惑星からその表面物質を持ち帰るという偉業を成し遂げた「はやぶさ2」ですが、初代「はやぶさ」も今回同様、ウーメラへ帰還しました。初代「はやぶさ」の本体は、残念ながら大気圏再突入時にバラバラになり、燃え尽きてしまったのですが、この時もカプセルは無事、ウーメラに落下して回収され、日本へと届けられました。
初代「はやぶさ」、そして「はやぶさ2」が地球へ帰ってくる時に目指したウーメラとは、一体どんな場所なのでしょうか?
ウーメラは、南オーストラリア州の内陸部にあり、夏場には摂氏50°Cにも達することがある砂漠地帯です。州都アデレードからは、北北西に約450km。ウーメラへと繋がる道は、スチュワート・ハイウェイという舗装された幹線道路のみとなり、この道路は、ソーラーカー・レースでも有名なので、ご存じの方も多いのではないかと思います。
周辺一帯は、「Woomera Prohibited Area(ウーメラ立ち入り禁止地区)」に指定され、南オーストラリア州全体の面積の約8分の1に当たる広大なエリアが軍事訓練などに使用するための機密エリアとなっており、一般の立ち入りが禁止されています。
エリア内には、ウーメラ・ビレッジという人工的に作られた町があり、そこに軍関係者とその家族が暮らしていますが、近くに町らしき町はありません。最も近い町は、約180km南へ下がったところにあるポート・オーガスタとなり、北側の最も近い町は、以前のコラムでご紹介した地下都市として知られるオパールの町クーバー・ペディ【1】で、ウーメラ・ビレッジから375kmほど離れています。
周囲に民家や商店など、人間の気配が感じられるようなものは何もなく、視界の範囲に飛び込んでくるのは、ただ果てしなく続く赤土の荒野! エリア内を通過する道路もスチュワート・ハイウェイ1本だけで、立ち入り禁止地区であることから人の出入りのコントロールがしやすく、どこへ落下するかわからないカプセルを受け止める場所としては、うってつけなのです。
現在は軍事機密地区となっている「ウーメラ立ち入り禁止地区」ですが、もともと何千年もの昔からここで暮らしていた先住民の土地です。広大なエリアは現在でも6つの部族が所有しています。
ウーメラ周辺は見渡す限り荒野の砂漠地帯ですが、地図を見ると、ところどころに水場のような印と「Lake(湖)」の表記があることがわかります。その年の気候にもよりますが、冬から春先にかけて大雨が降ると、これらの場所に水がたまり、一時的な「湖」となるのです。それは砂漠に生きる生き物たちにとって束の間の楽園となり、遥か遠くからたくさんの鳥たちも集まってきます。
「ウーメラ」の呼称は、シドニー近郊の先住民エオラ族の言葉に由来し、『片側に鋭利な切り欠きがついた投げ槍』を意味するそうです。
先住民の人々は、何千年もの昔から、こうした水場に集まる生き物たちを追い求め、狩りをしていたことから、この地を「ウーメラ(投げ槍)」と呼んでいたのかもしれません。
生き物たちにとって束の間の楽園となった湖は、夏になると灼熱の太陽にさらされて干上がり、土壌に含まれる塩分だけが残るため、広大な塩田のようになります。真っ白、または、塩分濃度によってピンク色に見える塩湖とオーストラリア内陸部ならではの赤土は、目に痛いほどの強烈なコントラスト! 夜になれば、人工的な灯りは一切ないため、紺青の夜空に満天の星たちが瞬き始めます。この風景はきっと、先住民の人々が暮らしてきた何千年も前から、変わっていないのではないでしょうか?
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