「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー
前回報告したオーストラリアの大規模森林火災では、何億という数えきれないほど多くの野生動物が犠牲になったと推定されていますが、その災禍の中でも消防士や地元の人々に助けられたり、ボランティアらの必死の救出活動によって多くの命が助けられ、懸命の治療・介護が続けられてきました。
そうした努力の甲斐もあって、野生へと復帰できるほど回復した動物たちが、(少しずつですが)森へと帰り始めています。
今回は、南オーストラリア州の州都アデレードの南東約112kmのところに位置するカンガルー島の状況における森林火災の影響について報告します。
カンガルー島はオーストラリア国内で3番目に大きな島であり、その面積は4,405平方キロメートルと、東京都の約2倍、シンガポールの約6倍にも及びます。
島には、野生のコアラをはじめ、この島に生息する黒っぽくて毛足の長いカンガルーアイランド・カンガルーやオーストラリアン・アシカ、世界一小さなペンギンであもるリトル・ペンギン、本土では絶滅してしまったテリクロオウムなど、数多くの野生動物が生息。欧米の旅行者からは「豊かな自然を体感できる島」として注目されていました。
野生動物たちが暮らしていたのは、島面積の3分の1以上にも及ぶ国立公園に指定された豊かな森林ですが、2019年から2020年にかけての大規模森林火災で、その大部分が焼失してしまったとされています。島全体では、総面積の約48%がこの森林火災で被災したと報告されています。
カンガルー島の大規模森林火災が世界的に大きく取沙汰されたのは、何万という野生のコアラが焼死したと伝えられたことから。この島で野生のコアラが数多く生息していたのは、島西部のフリンダースチェイス国立公園です。ここに、約5万頭のコアラが生息していたと推測されています。
しかし、このフリンダースチェイス国立公園は、この火災で約96%が焼失したと報告されており、コアラの森は、そのほとんどが焼けてなくなってしまったことになります。そして、真っ黒に焼けた森では、おびただしい数のコアラが犠牲に...。その数は、約2.5?3万頭ともいわれています。
カンガルー島には、もともと野生のコアラは生息していませんでした。現在この島で見られるのは、1920年代に観光目的でビクトリア州から移入された18頭のコアラが島の環境に適応し、数が増えていった個体群です。
カンガルー島のコアラたちは、本土から切り離されていたため、現在、本土で蔓延し、死因のひとつにもなっているコアラ・クラミジア症やコアラにとってはエイズにも相当するコアラ・レトロウイルス(KoRV)に侵されていないことから、コアラという種の保全にとって貴重な位置づけでもありました。
それが、大規模森林火災で個体数が約半分になってしまったことで、コアラの未来にとって影を落とす形になってしまったのです。
ですが、野生動物保護のボランティアや消防士、豪軍兵らによって助けられたコアラもたくさんおり、3月の初めくらいから徐々に、島内の仮設コアラ病院で手当てを受け、回復したコアラを森に帰す作業も始まっています。
ただ、少しずつ森の植生が回復しつつあるとはいえ、コアラを野生へ帰す森がほとんどなくなってしまったこと、そして、真っ黒になった森では、火災からは免れたものの餌がなく、コアラをはじめとする野生動物が今でも飢餓状態で見つかっているという事実は、まだまだ支援が必要なのだと痛感させられます。
単に森林火災で焼死したことで個体数が減ってしまったことだけではなく、もうひとつ、コアラの未来にとって大きな懸念がありました。
伝染病がないこともあり、爆発的に個体数が増加して近年では過密状態となっていたことから、カンガルー島では一定数の野生のコアラに、避妊手術を施していたというのです。このことから、妊娠できるコアラがどれだけいるかが重要となっており、助かった赤ちゃんコアラ(避妊手術されていない個体)が無事成長することも、コアラ保全の大きな鍵となっています。
また、前述の通り、森が完全に回復するまで(完全に元通りにはならないという予測もありますが…)、人間が人工的な餌場を作って飢餓状態を回避する努力をしばらく続ける必要がありそうです。
コアラや野生動物にとっては前途多難ではありますが、冒頭でご説明した通り、大きな島ですので、主な町やオーストラリアン・アシカが暮らすシール・ベイをはじめ、被災していないエリアも多く、また、周囲の美しい海や島内でとれる新鮮な食材など、観光地としての魅力は失われていません。現在はオーストラリアでも新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、国境閉鎖に加えて、州境閉鎖が相次ぎ、国内の移動もままならなくなってきていますが、自由な往来ができる日が来たら、島の野生動物支援も兼ねてぜひ足を運んでもらえたらと思います。
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