「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー
世界最大のサンゴ礁「グレートバリアリーフ」では、ほぼ毎年、南半球の初夏に当たる11月から12月にかけて、サンゴの産卵がみられます。今年の夏も昨年(2021年)の11月に、何十億もの色鮮やかなサンゴたちの大規模産卵がみられました。
生きものであるサンゴは、満月に近い夜に一斉に卵を産みますが、深夜の静まり返った海に放出される無数の卵は、まるで生まれたての星が夜空に散らばっていくかのような、幻想的な光景を見せてくれます。
オーストラリアは、新型コロナウイルス・パンデミックによって閉ざされていた国境を徐々に再開しつつありますが、今はまだ観光客の姿が少ない静かな海に、たくさんの新たな命が生まれていく様子は、希望をもたらしてくれたと、研究者たちは感嘆の声を挙げたそうです。
オーストラリア政府管轄のグレートバリアリーフ海洋公園局は、公園内750以上のサンゴ礁を対象に航空調査を実施した結果、3月下旬に大規模な白化現象が発生したと発表しました。サンゴ礁の広範囲における白化現象は、1998年以来6回目となるそうです。
ところが、広範囲で白化現象が進んでいるにも関わらず、グレートバリアリーフ北部のマグネティック島では、サンゴの赤ちゃんともいえる幼生が驚くほど増えていることがわかりました。
これは、クイーンズランド州にあるジェームズクック大学がマグネティック島周辺で行ってきた「Seaweeding(シーウィーディング)」と呼ばれる作業の影響なのだとか。「Seaweeding」は、海藻によって日光が妨げられたり、栄養分がとられてしまうような状態になっていると、サンゴの成長が阻害されてしまうため、サンゴの周辺に生えてくる海藻を人間が取り除くものです。これは、庭の植木や野菜を大きく育てるために行う除草作業とまったく同じ原理といえます。
研究によると、海藻除去作業を行ってきた結果、2019年と2020年には、サンゴの幼生の数が3倍に増加したといい、地道な作業の成果が現れてきているようです。マグネティック島周辺で行われてきた「Seaweeding」は、できることを少しずつでも継続してやっていくことで、環境や生態系にとってよい方向へ改善されていくことを示す、お手本のような事例です。こうした手作業で行う海藻除去には、ジェームズクック大学と市民科学者、ボランティアらが参加しているそうですが、大勢の人が関心を持って関わっていくことは、とても重要なことだと実感しました。
気候変動や海洋汚染によって海水温が上昇し、生態系に慢性的なストレスを与えていることは疑いようのない事実です。グレートバリアリーフという地球上最大のサンゴ礁があるクイーンズランド州では、世界有数のサンゴ研究拠点として、世界のサンゴ研究者との繋がりを深め、地球の遺産としての価値を再認識し、保全していく取り組みを積極的に行っています。
その取り組みのひとつとして、昨年11月に、日本の喜界島にあるサンゴ礁科学研究所とグレートバリアリーフの海洋生物研究者を繋ぐ、オンライン公開授業が行われました。日本でサンゴの研究をする学生たちが、この分野の最前線で活動するオーストラリアの研究者から、直接学び、質問できるまたとない機会になったようです。パンデミック後には、お互い行き来しながら、サンゴ礁の環境改善に向けて、さらに研究が進むことが期待されます。
今回、オーストラリアと日本を繋ぐ公開授業を拝見し、これからは、研究者だけでなく、一般市民である私たちも、普段の生活圏や旅行などで訪れる場所の環境や生態系に関心を持って接していくことが、よりよい環境をつくる第一歩ではないかと強く感じました。
また自由に行き来ができるようになった時には、サンゴの生態や海の環境についての知識を深めるためにグレートバリアリーフを訪れてみてはいかがでしょうか。
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