「オーストラリアのユニークな自然環境に迫る!」バックナンバー
口角があがった表情が“笑顔”に見えると、「地球上で最もハッピーな動物(The happiest animal on Earth)」と呼ばれ、SNSを中心に世界中で大人気となった有袋類クオッカ。西オーストラリア州にのみ生息する固有種で、世界最小のワラビーの仲間だとされています。
そのクオッカが棲む島として有名なのが、インド洋に浮かぶ「ロットネスト島」です。島に行ってみると、いたるところにクオッカの姿を見ることができます。ところが、クオッカは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「絶滅危惧II類」に指定されているのです。ロットネスト島にいるたくさんのクオッカを見る限り、「絶滅が危惧されているとはとても思えない!」という人も…。
なぜ、ロットネスト島には、絶滅が危惧されているクオッカがたくさん生息しているのでしょうか?
ロットネスト島は、フリーマントルの西約19kmのインド洋に浮かぶ島です。島名の「ロットネスト」は、1,600年代にやってきたオランダ人が「この島には猫よりも大きなネズミのような生き物がいる」と、島の名前を「ネズミの巣(Rotte nest=Rat's nest)」と書き記したことから、そう呼ばれるようになりました。
島の面積は19平方キロメートルで、与論島(20.8平方キロメートル)とほぼ同じ大きさですが、人口は120人程度とほとんど人間は住んでいません。ですが、この島のクオッカ個体数は、約12,000! 人間のおよそ100倍ものクオッカが生息していることになります。
クオッカは、西オーストラリア州の固有種なので、本来はオーストラリア本土の西側、すなわち現在の西オーストラリア州沿岸部一帯が生息域です。現在もわずかながらクオッカが棲んでいる場所が本土にも残されているのですが、森林伐採や森林火災などで棲み処を奪われ、確認されているのは狭いエリア数ヶ所にそれぞれ数十匹程度となっており、すべて合わせてもロットネスト島の半分程度の生息数になってしまっているのではないかと推測されています。
しかし、ロットネスト島では、そんな本土の危機的な状況と相反するようにクオッカが繁殖し、12,000匹もの一大コロニーを築き上げています。
実は、ロットネスト島は、もともとはオーストラリア本土と繋がっていました。約7,000年前の海面上昇によってオーストラリア本土から切り離された際、そこに暮らしていたクオッカが自然環境と一緒にそのまま残されてしまったのです。
本土から切り離された直後のロットネスト島には、本土と同様に多種多様な植物が生息していたと考えられていますが、強風や塩害などで絶えてしまったり、19世紀に入ってから西洋人の入植によって切り開かれるなどして、かなりの種が島から消えてしまいました。現在見られる約140種の在来植物の中には、「ロットネスト・アイランド・パイン」や「ロットネスト・アイランド・ティーツリー」、「ロットネスト・アイランド・デイジー」といったように、島名が付けられている固有種もあります。
島は、海から吹き付ける風が強く、島の内陸部の10%は塩湖となっており、多くの動植物にとっては厳しい環境でも、クオッカにとっては餌となる植物が豊富に残され、天敵がほぼいなくなったことから繁殖に最適な環境になったと考えられています。
現在、ロットネスト島全体が、西オーストラリア州政府によって、その自然と生態系の価値について最高レベルに位置付けられたA級保護区となっています。そのため、生態系および自然保護のための厳しい規制があり、違反した場合は、罰金や禁固刑になることもあるほどです。
周囲は目が覚めるほど鮮やかな青い海に囲まれたロットネスト島。透明度の高い海と白砂のビーチ、かわいいクオッカを求めて、夏の観光シーズンには国内外からたくさんの観光客が訪れます。島へやってくる観光客の数は、年間50万人以上!
現在は、クオッカ人気も手伝って国内有数の人気観光地となり、明るいリゾート地のイメージが定着していますが、その陰には、「先住民アボリジニの迫害」という悲しい歴史があります。
アボリジニの人々は、海面上昇によって本土と切り離される以前からこの地に暮らしていたとされ、島内で発見された6,500年前のアボリジニの人々の居住跡がその歴史を物語っています。しかし、1,800年代に入り、入植してきた西洋人たちは、彼らから土地を奪い、その後、この島は、先住民男性を捕虜として強制収容する場所となりました。
家族の男性が連れ去られてしまい、本土に残された女性たちは海辺に立ち、ロットネスト島に向かって、「男たちを帰して欲しい」と毎日祈ったそうです。しかし、この収容所が正式に閉鎖されたのは1904年になってから。その後、島にはレクリエーション施設が造られ、観光地化されていくこととなったのです。
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.