今回は、私がWIRESの活動を通じて、実際に救助した動物たちについてご紹介したいと思います。
このコラム第1回でご紹介した、野生動物の救助&応急処置の資格を取って、最初に入った救助依頼は、カモの雛でした。依頼内容は、近所のビーチで遊んでいた小学生の娘さんが、岩場に取り残されていたカモの雛を連れて帰ってきたので、保護して欲しい、というものです。早速、レスキューキット一式をもって、該当のお宅へ向かいました。
現場へ到着し、靴の箱に入った、まだ体長10センチにも満たない小さなカモと対面。パシフィック・ブラック・ダック(和名:マミジロカルガモ)というオーストラリアの固有種で、どうやら、孵化してから1?2日しか経っていないようです。まずは、カモを見つけた女の子に、どんな状況だったのか、話を聞きます。母カモとはぐれてしまったのか、たった一羽で岩場に佇んでいたとのこと。探したけれど、近くには他のカモはいなかったと言います。
「この子、どうなっちゃうの?」と心配そうに問いかける女の子。私は、「大丈夫。もう少し大きくなるまで、私たちWIRESが面倒を見て、それから野生に帰すから、心配しないで」と伝え、カモを引き取って、現場を後にしました。
このカモの雛は、私が一旦預かった後、同日中にWIRESの鳥類コーディーネーターへと引き渡されるはずでしたが、コーディーネーターと連絡が付かず、結局、我が家で約1ヶ月間育てることになりました。
実は、私はオーストラリアに来るまでは、鳥類が苦手でした。でも、日常的に野鳥に出会う機会が多いこと、そして、さきほどご紹介したように最初に救助したのがカモで、1ヶ月間自らの手で育てることになったことから、苦手意識はすっかりなくなっていました。そんな時、再び鳥の救助依頼が…。
なんと、今回の救助は、同じ鳥とはいえペンギンです。最初、コールセンターからの電話を受けた時、わが耳を疑いました。思わず、「ペンギン??」と二回ほど訊きなおしてしまったほどです。シドニー沿岸部にペンギンが生息していることは知っていましたが、生息数は少なく、まさか自分が救助することになるとは夢にも思っていませんでした。
依頼内容は、カップルが近所のビーチでペンギンを発見したが、じっとして動かないため、犬か猫に襲われ怪我をしているのかもしれない、とのこと。現場へ向かう途中、不謹慎とは思いつつも、野生のペンギンに会える喜びで、ちょっぴり胸を躍らせていました。
小雨が降り始めたビーチで、発見者のカップルが待っていました。男性がバスタオルを使って捕まえ、牛乳を入れるプラスティックの箱の中へ入れてあると言います。早速、中を確認しようとすると、「つつかれるかもしれないから、気をつけて!」と忠告してくれました。捕まえようとした瞬間につつかれて、怪我をしてしまったのだそうです。私が自分のタオルでそっとペンギンを包み、さっと箱の中から何なくとりあげると、「さすが!」と2人が拍手してくれました。カップルにお礼を告げ、すぐに動物病院へと運びます。私が抱っこして一通り見たところ、怪我はしていないようでしたが、念のため、専門家に診てもらうことが必要です。
動物病院で、ペンギンを救助してきたことを告げると、病院のスタッフも驚いて、「ペンギン??」と何度も聞き返されました。さすがの動物病院でもペンギンが運び込まれることは、そう滅多にあることではないようです。先生がペンギンの体を隅々までチェックし、怪我もなく、異常なし、の診断が下されました。その後、鳥類コーディーネーターへ連絡し、シドニー郊外のタロンガ動物園で働くWIRESの仲間に引き渡すことになりました。動物園で他のペンギンたちとしばらく過ごし、水泳や餌の捕獲能力などにも異常がないことが確認された後、野生へ戻されることになるようです。
ペンギンもカモの雛も怪我や病気はなく、ホッと一安心の救助体験でしたが、いつもそうとは限りません。
次回は、ちょっと悲しい有袋類バンディクートの救助体験を交えながら、私の体験談の続編をお届けしたいと思います。
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