「Eco Value Interchange」バックナンバー
2016年11月23日(祝)、東京都立つばさ総合高等学校(東京都大田区本羽田三丁目)のホールの檀上に、EVI推進協議会の菅谷健夫(カルネコ株式会社)が登壇した。この日開催された同校主催の「第13回高校生環境サミット」で、開会宣言と基調講演に続いて実施されたクレジット購入式に立ち会うためだ。
購入式では、サミット主催者で同校のISO委員会副委員長の安田さんが、前年度の高校生環境サミットの開催・運営に伴って排出されたCO2の全量1トン分をオフセットするためのクレジット購入について説明、山梨県南アルプス市役所の小水力発電により創出されたクレジット購入の手続きを仲介したEVIを代表して、菅谷が購入証明書を手渡した。
今回は、そんなつばさ総合高校 ISO委員会のこれまでの活動とEVIシステムを活用したカーボン・オフセットの取り組みについて紹介する。なお、同校 ISO委員会は、前回紹介した愛知県立南陽高校 Nanyo Company部とともに、28年10月21日に開催された「EVI環境マッチングイベント2016」でも事例報告を行っている。
第13回高校生環境サミットのクレジット購入式に登壇した、EVI推進協議会の菅谷健夫(カルネコ株式会社)。つばさ総合高校ISO委員会に購入証を手渡したあと、EVIの仕組みやカーボン・オフセットの取り組みについてアピールした。
東京都立つばさ総合高校は、多摩川の下流域、河口から数kmほどの川沿いに位置し、平成14年に東京都立校としては2校目となる総合学科設置校として、旧都立羽田高等学校と旧都立羽田工業高等学校が発展的に統合して開校した。
つばさ総合高校でカーボン・オフセットの活動に取り組んでいるのは、同校の委員会活動の一つである「ISO委員会」。学習指導要領において特別活動の中に位置づけられた生徒会活動の一環として行っている委員会活動の一つ(例えば、風紀委員会とか図書委員会、保健委員会などと同じ位置づけ)だから、毎年の年度初めに、各クラスから2名以上が選出されてスタートする。
平成16年に都立高校として初となるISO14001の認証を取得した同校では、教職員に加えて生徒会執行部及びISO委員会の役員が参画するISO推進委員会を設置して、全教職員及び生徒全員が取り組むISO14001の環境マネジメント活動に取り組んでいる。
毎年11月に開催している高校生環境サミットは、今回で13回目となった。ISO推進委員会が定めた環境目標の項目の一つ、“高校生の視点で環境を考える”を目的に実施される、年1回の恒例イベントだ。
ISOの取り組み自体も生徒主導で進める部分が少なくはないが、このイベントはまさに生徒たちが主体になって、企画・運営に大きな力を発揮している。
毎年「高校生環境サミット」を開催している東京都立つばさ総合高等学校。
平成16年度に都立高校として初となるISO14001認証を取得。以来、写真のようなごみ分別やエネルギー削減などに継続的に取り組み、成果を上げてきた中で、さらなる一歩のための活動をめざして、カーボン・オフセットにも取り組んでいる。
つばさ総合高校のカーボン・オフセットの取り組みは、森への思いがきっかけになった。
平成25年12月14日(土)に開催された「第2回AEON eco-1グランプリ」【1】は、公益財団法人イオンワンパーセントクラブが主催する高校生対象の環境コンテスト。この日、全国141校154件の応募の中から一次・二次審査を通過した14校が参加して、最終審査会のプレゼンテーションに臨んだ。つばさ総合高校も、首都圏ブロックの普及・啓発部門代表としてグランプリ大会に参加した。
審査の結果、環境ISOの取り組み、中でもごみステーション設置などの対策とそれによるごみ排出量の大幅な削減等が評価され、見事、準グランプリに当たる「文部科学大臣賞」を受賞。副賞として、1泊2日で長野県黒姫の「アファンの森」【2】での体験プログラムの招待を受けた。審査の講評では、「高校生活で出てくるごみについて極めて科学的な分析をし、削減につなげたことを高く評価しました。6分の1に減らした実績は、他の学校にも広がる期待を高めます」と最大限の評価を得ている。
「アファンの森での体験プログラムは彼らにとって大きな経験になったようです。すっかり森に魅了されて、翌26年の環境サミットのテーマは『森が生み出すもの』となりました。その年の活動計画を練っていく中で、森への支援活動の一環として、また同時につばさの取り組みを広げていくための一つの方向性として、カーボン・オフセットの導入を決めました。クレジットの購入先について話し合った際にも、彼らが候補として挙げたのは、すべて森林吸収系のクレジットばかりでした。きっかけが森の体験プログラムでしたから、迷いはなかったんですよね」
同校の環境管理責任者としてISO推進委員会事務局を担当する、商業科・国際文化理解科教諭の吉岡大介先生は、そんなふうに当時をふりかえる。
eco-1グランプリで評価されたように、もともとつばさのISO活動はごみの分別や電気使用量の削減をメインに取り組みを続けてきていた。
照明や空調をこまめに消して無駄遣いを防ぐ行動を促したり、クールビズ・ウォームビズなど省エネ・節電のための工夫を全校に呼び掛けたりしたほか、教員にも空調の温度設定や照明の点灯箇所の検討などを依頼してきた。その結果、年間の電気使用量は平成16年度の取り組み前と比べて約35%の削減に成功、現在もその水準を維持している。ただ、そのまま未来永劫減らし続けることができるわけはない。加えて、“減らせ・節約しろ”の呼びかけばかりでは全校の生徒たちも飽きてしまうし、活動しているISO委員会にとっても“よくないものを減らす”活動より “よいものを増やす活動”をしたいと思うようになっていた。そんな中で出会った森の活動と、これまでのISO活動をリンクさせるための取り組みとして注目したのが、カーボン・オフセットだったわけだ。
クレジットを購入することで、自然豊かな地域とのつながりもできて、楽しくかけがえのない体験ができるかもしれないという期待も高まった。ただ、学校活動を通じて排出するCO2の全量をクレジットで帳消しにするほどの予算はない。そこで、対象を限定した取り組みとして始めるとともに、その取り組みについて高校生環境サミットの場でアピールすることで、他校にもカーボン・オフセットの取り組みを広げていくための呼びかけをすることにした。オフセットの対象は、毎年開催している高校生環境サミット開催に伴って排出されるCO2量。照明やディスプレイの利用によるエネルギー消費で発生するCO2や、参加者の移動距離・手段から計算したCO2排出量などを含む総排出量。制度を推進している団体の協力を得て勉強会を重ねながらISO委員会の生徒たちが計算した結果は、約1トンと算出された。
同校のカーボン・オフセットの取り組みで特にユニークな点が、クレジットの購入先の決定方法だ。その目的は、単に高校生環境サミット開催に伴うCO2排出量のオフセットだけにあるわけではないからだ。
森林保全による削減量を販売している団体は全国各地にあまたある。それらの中からどこを選ぶのがベストの選択になるのか。しかも、ただ単に“カーボン・オフセットをしています”とアピールしたところで、それほど関心を持ってもらえるとは考えられなかった。どうすれば効果的な取り組みにすることができるか。
考え出したのが、クレジットの購入先を投票によって選ぶという方法だった。投票方式をとることで、カーボン・オフセットの取り組みをアピールするとともに、支援先の活動のアピールにもつながる。
投票機会は、11月の高校生環境ミットのほか、それに先立つ9月の文化祭でも予行演習を兼ねて実施し、さらに12月開催のエコプロ(於いて東京ビッグサイト)の出展ブースでもパネル展示と投票箱を置いてアピールした。これらの投票件数を集計して、最終的な購入先を決定した。
27年11月開催の第12回高校生環境サミットで、つばさ総合高校ISO委員会が発表したカーボン・オフセットの取り組み。前年度までの経緯と反省を踏まえた取り組みとして、クレジット購入先の候補団体への投票の仕組みについて紹介。
初年度(平成26年度)のクレジット購入先候補は、地方公共団体を中心に4つの団体が選ばれた。前述のとおり、いずれも間伐や植林によって森林の保全や育成に取り組んでいる団体だったが、その分、東北や中部での事例となり、東京からの距離は遠くなった。当初は各団体を実際に訪問して取材することを計画したが、時間や費用の面から断念。代わりにアンケート調査と送ってもらった資料をもとに展示パネルを作成してアピールすることになった。
投票方式の有効性は確認できたが、さらに効果的な取り組みにするための課題として挙がったのが、候補団体に関する情報提供の充実だった。投票者の声を振り返ると、知名度に基づく人気投票になっていたこと、また投票数も思ったほど伸びなかった点が反省材料となった。
アンケートや資料をもとにつくった展示パネルでは、各候補団体の特徴も魅力も十分にアピールできなかった。実際に現地に出かけて、担当者の話を聞き、自分たちの中で十分に咀嚼した上で発信する必要があると気付いた。それとともに、隠れた目的であった購入先との交流も実現したかった。
27年度の活動では、こうした課題を踏まえて、直接現地を訪ねて活動の様子を見たり話を聞いたりすることのできる東京近郊の事例に絞るとともに、クレジット創出に際して異なる取り組みを行っている団体を候補に選ぶことにした。
候補になったのは、住宅における太陽光発電設備の導入促進によるクレジット創出をめざす神奈川県茅ケ崎市のNPO、山岳地帯の地域特性を生かした小水力発電とカーボン・オフセット付農産物の開発・販売を進める山梨県南アルプス市役所、そして薪の製造と薪ボイラーの導入による木材・木質バイオマスの活用によってクレジットを創出している東京都檜原村役場の3団体だった。夏休みには、ISO委員会メンバーが手分けして各団体を訪問し、現地を見て、担当者にインタビューをして、それぞれの団体が守り・育てようとしているものの魅力や関わっている人たちの想いに触れ、交流する機会をつくった。
そうして肌身で感じた各団体の活動の内容と魅力をまとめた展示を作成し、来場者に直接話しかけて投票を呼びかけたのが、前年(平成27年)11月に開催された第12回高校生環境サミットの活動だった。
28年度、つばさ総合高校のカーボン・オフセットの取り組みは、前回開催分のオフセットのための購入式を一つの区切りとして、いったんは休止することになった。
「ここ数年カーボン・オフセットに取り組んできて、他の活動にも力を入れていかないといけない状況になっています。例えば、ごみ・リサイクルの活動も、今、曲がり角を迎えているのです。実は、石油が値下がりした関係で、プラスチックの資源回収の引き取りが厳しくなっています。洗うコストがかけられなくなったため、出すなら洗剤で洗ってから出してくれと言われているのです。もちろん、すべてのプラスチックではなく、食品関係のプラスチックで汚れが付いているものだけですが、当校でもプラスチックのごみが溜まっている状況にあります。これを正面から何とかするのか、直接ごみを減らす以外の取り組みとして何ができるかなど、例えばそんな問題も上がってきているのです」
顧問の吉岡先生は、28年度に迎えた活動の転機について、そんなふうに話す。
同じく顧問として、立ち上げ当時からかかわってきた荘司孝志先生は、つばさ総合高校ISO委員会の活動の特徴について次のように話し、今後の活動に向けた展望について説明する。
「南陽高校さんのような商品の企画・販売など直接的な活動と較べて、当校ISO委員会の活動はどちらかというと“宣伝タイプ”と言えます。こんな取り組みがありますよということをアピールして、例えばこのサミットに参加している10数校を中心に、それぞれが支援する森を決めていくなど、少しでも広がっていってくれればと思っています。来年度、どんな活動ができるかはわかりませんが、さまざまな形でカーボン・オフセットをはじめとする環境の問題についてアピールする方法を考えていければと思っています」
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