「Eco Value Interchange」バックナンバー
2013年11月11日(月)、EVI推進協議会【1】は前年に引き続く第2回となる「EVI環境マッチングイベント2013」を開催した。目的は名称の通り、オフセット・クレジットを創出するカーボンオフセット事業者とその利用を検討する企業等とのマッチングを図ること。オフセット事業者は創出したクレジットを販売して森林整備や環境保全のための資金確保をめざす。一方、購入を検討する企業等は、自社の事業活動等に伴うCO2排出を相殺(オフセット)したり、オフセット・クレジットを活用した消費者参加の環境貢献型の商品プロモーション企画に利用したりする。これらの取り組みを推進することで、国内各地の森林整備や環境保全を促進し、日本の森と水と空気を守ろうというのが主催するEVI推進協議会のめざすところ。「EVI(Eco Value Interchange)」は、クレジット提供者並びに利用者が自由に活用するためのプラットフォームとして、これまで全国54箇所の森林(都道府県別に直すとクレジットを発行している44都道府県のうち75%に当たる33道府県をカバー)とクレジットを利用する32社が参加している。それらの先駆事例を中心に、事業のきっかけや成功のキーとなった点など、当事者の生の報告を聞きながら、新たな活用をめざした出会いの場を作るのが、今回のEVI環境マッチングイベントのねらいだ。当日は、全国各地から総勢202名が参加した。
EVI環境マッチングイベント2013は、『全体セミナーセッション』として、環境省地球環境局地球温暖化対策室市場メカニズム室長の熊倉基之氏による地球温暖化対策の世界的な流れと、この4月にJ-VER制度(環境省)と国内クレジット制度(経産省)を統合して運用開始した「Jクレジット制度」【2】を紹介する基調講演を皮切りに、EVI推進協議会の事務局を務めるカルビー株式会社カルネコ事業部(以下、「カルネコ」とする)【3】の事業概要の紹介並びにカルネコが実施してきた「生活者の環境貢献意識調査」【4】の結果報告によって幕を開けた。
これに引き続いて、『森の想い』『農家の想い』『仕組みでつなぐ』という3セクションから、EVIのプラットフォームを活用したこれまでの先駆事例を中心とした8件の事例等報告があった。
最終セッションでは、EVI推進協議会・加藤によるまとめによって、この日一日のEVI環境マッチングイベントを振り返って終幕を迎えた。閉会後には、参加自由の個別相談会や会場に併設された展示ブースなどで話し込む来場者の姿があちらこちらで見られた。
各セッションで事例報告する登壇者について、加藤は次のように紹介する。
「2008年に立ち上がったクレジット制度は、森林のCO2吸収を促進するための間伐や植林等の整備をして、吸収量が増えた分を売れるようにする制度です。しかし、クレジットを創出するためには、あらかじめ認証されなくてはなりません。その準備のために先行投資をして、やっと売れるようになるわけです。この結果、昨年末までに33万9080トンが創出されていますが、そのうち売れた量はというと、わずか12.5%の4万2402トンに過ぎません。先行投資をしたにもかかわらず販売できずに在庫を抱えなくてはならない現状は、森の現場にさらなる苦しみをもたらしているのではないか、そんなふうに思います。他方、国際的な約束の目標達成に向けたCO2の排出削減努力では、産業部門の削減が進んできた反面、私たち家庭部門ではどんどん増え続けている現実があります。そうした中──私もそうですが、皆さんもそうだと思います──、“このままではいけない”という思いは年々強くなってきています。自分でまず節約をしてCO2削減の努力をして、かつ、がんばっている人たちの応援をしたいという気運も年々強くなってきていることを感じています。そんな動きをつくり出そうと取り組んでいるのが、今日お話しいただく皆さんです」
『森の想い』のセッションは、東京農大・農山村支援センター学術研究員の今野知樹氏による講演『日本の森林・林業の現状と未来 ―山村振興とクレジット活用の視点』で森の現状のおさらいをするところから出発した。
昭和30年に94.5%あった木材自給率は、平成23年度で26.5%と現在では3割を切っている状況にある。今日、収穫期を迎えている日本の木々は、伐り出すための費用も出ないくらいの値段でしか売れないから、伐られないまま放置されている。そうして荒廃していく森林は、国土保全の観点からも、生物多様性や地球温暖化防止といった環境の観点からも、また食の安全保障の観点からも看過できない状況にある。これを解決する一つの方法として、カーボンオフセットをきっかけとした都市や企業との交流を生み出し、ともに支えていく当事者となっていくことが必要となる。そんな主旨の話だ。
こうした森の抱える問題に挑戦する一つの事例として報告されたのが、アサヒビール株式会社と大建工業株式会社の共同プロジェクト。1941年に設立して以来72年になる「アサヒの森」では、FSC(国際森林認証)に基づく施業管理をしていて、毎年100ha前後の間伐を行っている。間伐材の出荷総量は年間で6千-1万立米にもなり、一戸建ての木造住宅に換算すると200-300棟分にも相当するという。ただ、出荷できる間伐材は40年以上の太い材で、30年以下の細い材は林地残材として、伐ったままその場に放置されている。コストをかけて搬出しても売れないからだ。
一方、チップ状の木片を原料に板状の多孔質ボードに成型する木質繊維板の製造を50年前から始めている大建工業では、創業当時は工場所在地の県産材や合板原料のラワンの残材等を用いて工場内でチップを製造していた。その後、生産量の増大に伴って、購入したラワン原木を切削・乾燥して製造する乾燥チップを使用するようになったが、20年前からは原料であるラワンが調達困難となり、代替材として建築廃材などを破砕して製造する古材チップの使用を開始している。徐々に古材比率を向上させ、現在は80%以上の古材比率を実現して、残りを乾燥チップでまなかっている。
この乾燥チップに替えて林地残材として置き捨てられている30年以下の間伐材を資源化しようというのが、この共同プロジェクトの目的。このため、高性能林業機械を活用した育林作業の高効率化と、集材した小径木材のチップ化をめざした実証実験を行ってきた。
作業工程では、まずザウルスロボと呼ばれる高性能林業機械が、集材路を作設しながら林地内に入り込み、間伐材を根元から切り倒していく。次いで、ハーべスターと呼ばれる機械が伐り倒された材木の枝をしごきながら一定長に輪切りしていく。これを搬出して、チップに加工し、板材を製造する。
実証実験の結果、作業の高効率化を図ることで、乾燥チップよりも安価なコストで間伐材チップを製造することができることが確認された。チップの販売収益によって林地内に置き捨てられていた残材の搬出コストを生み出すことができれば、林地残材問題の解決の糸口となる。山主の理解と関心が高まっていけば、同じ手法で各地の森林へと展開していくことも見込めるわけだ。
『農家の想い』セッションは、流通規格に合わないため廃棄されていた奥三河・南信州産のリンゴをドライフルーツに加工して生まれ変わらせた株式会社ウェイストボックスの取り組みと、同じく規格外のためコストをかけて処分していた秋田県八峰町のシイタケのブランド化及びおむすび権米衛を展開する株式会社イワイによる味噌汁の具材への活用を模索する共同プロジェクトについての事例報告により構成された。
ウェイストボックスによるドライフルーツの販売では、資源の有効活用とともに製造時に排出されるCO2の半量を消し込むという意欲的な取り組みを同時に行っている。具体的には、1袋売れるごとに1円が長野県有林の発行するJ-VERクレジットの購入に充てられ、この1円/袋が森林保全のための資金になると同時に、クレジットを用いて製造時のCO2排出量(円換算で2円/袋)の1円分を消し込むわけだ。
展示ブースでも紹介されていた、奥三河・南信州産のリンゴを使ったドライフルーツ。
奥三河・南信州産のリンゴを使ったドライフルーツの事例報告では、リンゴ農家の小林登さんによる映像出演もあった。おいしく安全なくだものづくりに専念しながら、フルーツドライの商品化によって森林支援につながれたことを喜ぶ小林さんだ。
一方、八峰町の菌床シイタケの栽培は、農水産業を中心とした第一次産業を主要産業とする同町で平成8年から取り組み始めた事業で、地域の雇用確保にもつながっている。生産工程では、規格外の小ぶりなシイタケが一定量発生し、味に見劣りしないにもかかわらずコストをかけて廃棄処分されていた。EVI推進協議会が、クレジット預託の相談で全国各地の森林を訪問する中で垣間見た、森の現場が抱える問題の一つだった。
八峰町では、この規格外シイタケを「八峰美人(はっぽうびじん)」としてブランド化して、カーボンオフセットを付加した環境貢献型農産物として販売する戦略を立てた。その販路として名乗りを上げたのが、おむすび権米衛。同社は、“日本の農業に貢献する”を経営理念として掲げ、コメの消費拡大によって農地再生に貢献することをめざすユニークな会社だ。それとともに、コメ以外でも産地と結びつきの強い商材の開拓に着手していた。両者の思惑が一致してはじまったのがこの共同プロジェクト。おむすび権米衛では、おむすびの具材としての検討もしたが、小ぶりでかわいらしいシイタケの形をそのまま生かしたいと、味噌汁の具材にすることが決まったという。
秋田県八峰町の展示ブースより。同町で廃棄処分されていた小ぶりなシイタケが、「八峰美人(はっぽうびじん)」として売り出されることになる。
マッチングイベント終了後の懇談会の席で談笑する八峰町とおむすび権米衛を結び付けた共同プロジェクトのキーパーソンたち。左からおむすび権米衛商品部部長の外岡学氏、八峰町農林振興課林業係の木藤誠氏、EVI推進協議会の加藤孝一。
同様の取り組みでは、前年の第1回でも報告のあった南アルプス市のカーボンオフセット付きサクランボやシンビジウム【5】が今年も継続しているし、新たに徳島県産のサツマイモ・鳴門金時の販売でも1箱売れるごとに1円を徳島の森の支援に還元する取り組みが始まるという。
これらの取り組みを仲立ちしてきたEVI推進協議会の加藤は、消費者の環境意識アンケートから得られた結果について次のように紹介する。
「カルネコが実施したアンケートによると、『環境貢献活動を行う企業に対する好感度』についての質問に対して9割を超える方々が好感を持っていただける姿が見て取れます。そして、『環境貢献活動を行う企業への生活者の要望』に対して、『いいことをやっているんだったら堂々と言ってほしい』とおっしゃる姿や、『もっともっと多くのお店や、もっともっと多くの商品を登場させてほしい』といった叫びが──私にとってはですけども──聞こえてまいります」
カルネコが実施したアンケートの結果より。
『あなたは環境貢献型商品を購入したことがありますか』という質問では、『購入経験がある』(『継続的に購入している』と『購入したことがある』を合わせたもの)が58.2%を占めた。『ない』と回答のあったうち、『今後購入・使用したい』を合わせると、潜在層も含めて8割を超える人たちが環境貢献型商品に関心を持つという結果になる。
『環境貢献型商品はあなたの購入に影響しますか?』という質問に対しても、『影響する』の割合が前年の58%から67.1%へと強まっている傾向が見られた。
森の支援やCO2削減の取り組みに対して、思いはあれど具体的な一歩が踏み出せていないという現実は、カルネコのアンケートからも見えてきている(右図参照)。これはつまり、支援の対象が消費者の目の前にないことが問題なわけだ。だったら、それを示していこうと取り組んできたのが、『仕組みでつなぐ』セッションの4つの事例だ。
『ともに生きる防災キャンペーン』【6】は、前年のEVI環境マッチングイベント2012でもキャンペーン仕掛け役となった日本スーパーマーケット協会の茂野隆一氏の報告によってキャンペーンの概要とねらいについて説明があった。2年目となったこのキャンペーンは大きく規模拡大して、前年比3倍強の全国119企業、3,582店舗の参加を得た。課題となったのは、本社の参加表明が現場の店舗にきちんと伝わっていない例も多く見られた点。定番棚での展開にとどまったり、販促POPの活用が十分でなかったりする店舗が少なくなかった中で、担当エリアの店舗に対する地道な声掛けによってPOPの張り出しや棚づくりを進めてきたのが、この日の事例報告で登壇した加藤産業阪神支店の沖本光示氏だった。
参加メーカー9社と、小売側では、日本スーパーマーケット協会をはじめとする後援5協会等で構成されるキャンペーン実行委員会の月例定例会でも、メーカーと流通(店舗)の努力に加えて、間に入る卸業者の役割の重要性が繰り返し指摘されてきた。沖本氏のように、卸業者の立場で関わるキーパーソンが増えていくと、同キャンペーンの実効性もより高まっていくことが期待できる。
さて、日本の森林を守るには、木が育つように手入れをしたり、木を植えたり、乱開発を防いだりとさまざまな取り組みが必要となるが、一般消費者にできることの一つに、日本の木材で作った製品を購入し、使用することがあげられる。
『国産材を使用した商品を購入しない理由』についての質問に対する回答には、『見つからない』『意識しなかった』『売っている場所がない』『高いというイメージがある』などが寄せられてきた。これらは、それぞれ仕組みとして解決できるという問題意識がもとになって構築されたのが、『森のめぐみのおとりよせ』【7】。未利用木材を使った製品を開発して、通販サイトを通じて志のある人たちに使ってもらおうというものだ。
この日のEVI環境マッチングイベントで事例報告されたのは、同じような主旨で国産材を使ったさまざまな商品を扱って、約20年前から国産材にこだわった商品づくりに取り組む酒井産業株式会社。2006年に閣議決定された森林・林業基本計画にも明記された「木育」の取り組みでは、同社が事務局となって全国生産者協議会を2012年9月に発足させた。家内工業的規模で活動している全国の木工業者が結集することで、零細性を克服したりデザイン力を高めたりと、全国ネットワークを組むことによる販売強化をめざす。
南アルプス市のわくわくエコチャレンジ【5】の事例や、大手町・丸の内・有楽町地区の地権者89社が一体的に進める大丸有(だいまるゆう)の環境共生型まちづくり【8】の事例でも、普段の生活や買い物を通じたちょっとした意識と心がけが環境貢献行動につながる仕組みを構築していることが報告された。
各地で始まっている事例の報告を受けて、加藤は次のように将来展望を語ってこの日のマッチングイベントを締めた。
「これから私どもがめざしていきたいのは、消費の裾野を通じて消費者の人たちがお金を投じているあらゆるものに、本日お話のあったような森を支えるための枠組をつくっていくことです。私たちは食べなければ生きていけませんし、着るものを着て、住まう家も持ちます。国民一人一人が生きていく中で購買されているところに結び合っていくことで大きな力を生みます。例えば、私どものカルビーポテトチップスは、年間1億袋も2億袋も売れていますが、これにもし1円が付いたらどういうことが起きるか──そんな世界を皆さんといっしょに作っていきたいと思います。さあ、ここからはじめましょう、ともに未来に向けて!」
なお、会の最後には、次年度第3回の開催を高らかに宣言された。また、2014年1月24日には、東京地域密着のイベントとして実施する『EVI環境マッチングイベント東京2014』も開催を予定している。
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