「Eco Value Interchange」バックナンバー
徳島県の特産サツマイモ「なると金時」を栽培する木内農園(鳴門市)がブランド化した『なるとの金太郎』は、通常14回ほど使用する農薬散布を2回ほどに抑えた特別栽培農産物【1】としての栽培と、濃厚な味わいと甘みたっぷりでホクホク食感が特徴だ。購入1箱ごとに1円が、徳島県の森林支援に送られる。
カルビー株式会社カルネコ事業部が名古屋市にある株式会社ウェイストボックスと共同で開発した『やわらかフルーツドライ』は、長野県の小林りんご園(長野県佐久市)の規格外のリンゴを使って作られた。おいしいリンゴがサイズや色味の違いで売られることなく廃棄されていたから、何とか活用したいと、1袋当たり1円のカーボンオフセットをつけて販売。その1円は、地元・長野県有林の森林整備に役立てられることになる。
ちょうど同じ頃、秋田県八峰町で小さなシイタケができて困っているという話を聞くことになった。農協では規格外品になるため引き取ってもらえない。逆転の発想で、小ぶりでかわいらしい見た目と濃厚な味を前面に押し出した商品として開発、『八峰美人』というネーミングで売り出すことにした。これも1パック当たり1円が秋田の森林の支援に寄付される。
これらの商品は、いずれも去る2014年3月4日(火)に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された「カーボン・マーケットEXPO2014」【2】のEVI推進協議会ブースで展示販売されたカーボン・オフセット付き農産物の数々だ。
EVIが関わるカーボン・オフセット付商品の開発で、最初に取り組んだのは、南アルプス市のカーボン・オフセット付サクランボ(第2回コラム参照)。南アルプス市の場合、市内の小水力発電所で創出したオフセット・クレジットを保有していたから、これを活用して、1パック当たり5kgの排出権を付け、一人一日当たりのCO2排出量(当時の試算値で5.67kg/人日)のほぼ全量を相殺する「消費者オフセット型商品」として開発した。さらに、生産時のハウス加温の燃料を灯油から地場産果樹の剪定枝を活用した木質バイオマス燃料に転換し、二酸化炭素の排出削減にもつなげた環境配慮型農産物にもなっている。
市内の特産品に、市内で創出したクレジットをつけて環境価値を付加した商品として提供する。わかりやすいストーリーは消費者の理解や共感を呼びやすい。
今回は、これらのカーボン・オフセット付き商品の開発秘話とそのねらいについて紹介したい。
名古屋にある環境ベンチャー会社、(株)ウェイストボックスは、ごみコスト削減のコンサルティング業からスタートして、主に工業系廃棄物を素材にしたエコグッズの開発・販売を行ってきた。2008年頃から環境負荷の見える化としてCO2排出量算定調査などの業務を実施するようになり、現在、環境省のカーボン・オフセット第三者認証プログラムにおけるオフセット・プロバイダー【3】に認定されるとともに、全国に11あるカーボン・オフセット特定地域協議会の中部地域事務局としても採択を受けている。
同社がEVIを運営するカルビー株式会社カルネコ事業部との共同開発で始めたのが、冒頭でも紹介した『やわらかフルーツドライ』シリーズ。カーボン・オフセットの普及推進に向けた取り組みの一環として、クレジット活用型の商品にしたわけだ。第1弾のリンゴは、同じ中部地域で軽度の傷などによって出荷できずに廃棄されようとしていたリンゴの有効活用と、収益の一部が地域の環境保全に回る仕組みを盛り込んだ商品として、2013年6月に販売を開始した。
EVIの加藤孝一は、カーボン・オフセット付き商品の開発のねらいについて次のように話す。
「クレジットの活用方法を、皆さんまだ十分にはわかっていないんだと思います。森を整備するための資金がほしくて生み出したクレジットが売れない状況がありますよね。一方で、CO2を減らさなきゃいけないという事情が、全世界共通の課題としてあります。そして、捨てられている農産物があるわけです。それらを一つにしちゃおうというのが、この取り組みです。ドライフルーツにして販売するごとに1円が森林の整備資金にまわる。その1円は、製品を作る際に排出される2円分のCO2のうち50%を消し込むことになり、しかも未利用食材の活用にもつながるという、一挙三方得の取り組みです」
秋田県八峰町は、自然遺産・白神山地に接する自然豊かな町。町域の約80%を森林が占め、農林水産業を中心とした第一次産業が町の主幹産業となっている。
その八峰町で菌床シイタケ【4】の取り組みが始まったのは、町村合併前の旧峰浜村の時代。国の補助金を活用して、村(当時)が出資して菌床工場を建設した。この菌床工場で、オガクズなどを使用した菌床ブロックを製造し、シイタケ農家に販売する。農家は、栽培ハウスで適切な温度・湿度管理をして良品質なシイタケを栽培する。町の一大産業としてシイタケ栽培が成長していった。しかも、収穫を終えた菌床ブロックは、水に浸して再生し、3-4回は繰り返し使える。
ところが、2012年秋、ブロックを購入した農家から、“かさが開かない小さなシイタケが多く出る”と苦情が相次ぐようになった。風味や食感はよくても規格外品になるため市場に出回ることなく廃棄処分されていった。農家の間では菌床ブロックが原因ではないかとの憶測が広まり、菌床ブロックの生産は一時休止を余儀なくされた。
町としても、国の補助金で建設した菌床工場だから、事業を取りやめるわけにはいかない。是が非でも稼働させて、利益を出していく方法を模索していけないかと、加藤のもとに相談が舞い込んだ。
「ちょうど『やわらかフルーツドライ』の商品化が形になってきたときのことでした。“おい、ここにもあるのかよ!”とびっくりした反面、この仕組みを考えたとき、他にも捨てられているものはあるだろうと思っていましたから、“よし、カーボン・オフセット付きのシイタケとして売り出そう”とすぐに思いました」
味には変わりがなく、むしろ濃厚な味わいが楽しめる。規格に合わないとはじかれたものの、かわいらしい見た目がむしろ売りになるという意見も多かった。
2014年春、加藤は内閣府地域活性化推進室の地域活性化伝道師【5】として推薦・認定されることになった。これまでのEVIの活動が評価されたわけだ。4月中旬に更新されたリストに掲載された279人の中に加藤孝一も加わることになった。
八峰町の『八峰美人』ブランドはシイタケだけでなく、その他の特産物をラインアップしていくことを想定したネーミングだ。福岡県うきは市からは、特産の柿を活用した商品開発ができないかとの相談が入っている。和歌山県庁とも梅などの特産品の商品開発について話をしている。地域活性化伝道師派遣制度などを活用していくことで、問題解決に向けた取り組みへの進展が期待できる。
「これからの農業は、地産地消はもちろんですけど、“入りと出”の管理が大事になってきます。有名な話ですが、かつて江戸期の日本には高度に物質循環する社会が実現していたと言います。街の中で、何一つ捨てるものなかった。これこそ、入りと出の管理の一つの典型例でした。例えば、家畜を飼えばふん尿が出ます。それを乾燥・熟成させ、畑に混ぜてやれば、肥やしになって野菜が育っていきます。トウモロコシも育てれば、家畜のえさになって、循環していきます。その成果として、生き生きとした野菜がでてきますし、それを売ることで生業として成立するわけです。当時は、こうした循環の中で、環境に害となるものは発生していませんでした。ところが、近年になって大規模な農業エリアや畜産エリアができるようになって、それぞれ不具合が出てくるようになったわけです。森の問題を解決するために始めたEVIの取り組みでしたが、だんだんとそれだけでなく、農作物の問題ともクレジットを通じてつながるようになってきました」
そんな、一つの自給圏の中で入りと出がきちんと循環していくような社会をめざしていきたいというのが加藤の構想にある。そこに、森の話がつながるという。
「森って、景観のもとなんです。農・林・水産・畜がつながった地域は、景観もきれいになりますよね。牛が放牧されている牧草地帯と、その傍らに畑作があって、その奥には森がある──そんな景観って、素晴らしい景色になると思いませんか。うまくバランスが取れた社会って、自然とそうなっていくのだと思います。そのバランスを取るための解決策の一つとしてクレジットがあると思うのです。物を買うとクレジットを通じて森や農を支えることにつながっていく。おいしいものを食べたいというのと、森や農を支援することを両立させたいという思いは誰しも持っていると思いますから、仕組みさえあれば実現できると思うのです。そして、その仕組みは消費者が知らず知らずにやっている消費活動の中で結び付けていく。なぜなら、一番すそ野の広いのが、消費活動だからです」
EVIでは、現地を訪ねて行くたびにさまざまな問題に直面してきた。これまでの経験とクレジットを軸にした循環のビジョンを提供することで、より多くの地域での問題解決につなげていきたいと意気込む加藤だ。それとともに、普段の買い物を通じた環境貢献をしたいという消費者の思いにこたえるための受け皿をつくっていくこと。その中心に、EVIのシステムが機能することになる。
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