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「Eco Value Interchange」バックナンバー

0062014.05.27UPカーボン・オフセットを付けて、未利用食材や特産品の商品価値を向上

カーボン・オフセット付き商品のラインアップ

山梨南アルプス市さくらんぼ(4-5月)
山梨南アルプス市さくらんぼ(4-5月)

シンビジウム(11-1月)
シンビジウム(11-1月)

徳島なるとの金太郎さつまいも
徳島なるとの金太郎さつまいも

長野フルーツドライ
長野フルーツドライ

秋田八峰町しいたけ
秋田八峰町しいたけ

 徳島県の特産サツマイモ「なると金時」を栽培する木内農園(鳴門市)がブランド化した『なるとの金太郎』は、通常14回ほど使用する農薬散布を2回ほどに抑えた特別栽培農産物【1】としての栽培と、濃厚な味わいと甘みたっぷりでホクホク食感が特徴だ。購入1箱ごとに1円が、徳島県の森林支援に送られる。
 カルビー株式会社カルネコ事業部が名古屋市にある株式会社ウェイストボックスと共同で開発した『やわらかフルーツドライ』は、長野県の小林りんご園(長野県佐久市)の規格外のリンゴを使って作られた。おいしいリンゴがサイズや色味の違いで売られることなく廃棄されていたから、何とか活用したいと、1袋当たり1円のカーボンオフセットをつけて販売。その1円は、地元・長野県有林の森林整備に役立てられることになる。
 ちょうど同じ頃、秋田県八峰町で小さなシイタケができて困っているという話を聞くことになった。農協では規格外品になるため引き取ってもらえない。逆転の発想で、小ぶりでかわいらしい見た目と濃厚な味を前面に押し出した商品として開発、『八峰美人』というネーミングで売り出すことにした。これも1パック当たり1円が秋田の森林の支援に寄付される。

 これらの商品は、いずれも去る2014年3月4日(火)に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された「カーボン・マーケットEXPO2014」【2】EVI推進協議会ブースで展示販売されたカーボン・オフセット付き農産物の数々だ。
 EVIが関わるカーボン・オフセット付商品の開発で、最初に取り組んだのは、南アルプス市のカーボン・オフセット付サクランボ(第2回コラム参照)。南アルプス市の場合、市内の小水力発電所で創出したオフセット・クレジットを保有していたから、これを活用して、1パック当たり5kgの排出権を付け、一人一日当たりのCO2排出量(当時の試算値で5.67kg/人日)のほぼ全量を相殺する「消費者オフセット型商品」として開発した。さらに、生産時のハウス加温の燃料を灯油から地場産果樹の剪定枝を活用した木質バイオマス燃料に転換し、二酸化炭素の排出削減にもつなげた環境配慮型農産物にもなっている。
 市内の特産品に、市内で創出したクレジットをつけて環境価値を付加した商品として提供する。わかりやすいストーリーは消費者の理解や共感を呼びやすい。
 今回は、これらのカーボン・オフセット付き商品の開発秘話とそのねらいについて紹介したい。

 

開発の背景 ―株式会社ウェイストボックスが取り組むカーボン・オフセット付商品・『やわらかフルーツドライ』

未利用食材を活用した、カーボン・オフセット付き商品、『やわらかフルーツドライ』。パッケージデザインはカルビー株式会社カルネコ事業部が担当。
未利用食材を活用した、カーボン・オフセット付き商品、『やわらかフルーツドライ』。パッケージデザインはカルビー株式会社カルネコ事業部が担当。

 名古屋にある環境ベンチャー会社、(株)ウェイストボックスは、ごみコスト削減のコンサルティング業からスタートして、主に工業系廃棄物を素材にしたエコグッズの開発・販売を行ってきた。2008年頃から環境負荷の見える化としてCO2排出量算定調査などの業務を実施するようになり、現在、環境省のカーボン・オフセット第三者認証プログラムにおけるオフセット・プロバイダー【3】に認定されるとともに、全国に11あるカーボン・オフセット特定地域協議会の中部地域事務局としても採択を受けている。
 同社がEVIを運営するカルビー株式会社カルネコ事業部との共同開発で始めたのが、冒頭でも紹介した『やわらかフルーツドライ』シリーズ。カーボン・オフセットの普及推進に向けた取り組みの一環として、クレジット活用型の商品にしたわけだ。第1弾のリンゴは、同じ中部地域で軽度の傷などによって出荷できずに廃棄されようとしていたリンゴの有効活用と、収益の一部が地域の環境保全に回る仕組みを盛り込んだ商品として、2013年6月に販売を開始した。
 EVIの加藤孝一は、カーボン・オフセット付き商品の開発のねらいについて次のように話す。
 「クレジットの活用方法を、皆さんまだ十分にはわかっていないんだと思います。森を整備するための資金がほしくて生み出したクレジットが売れない状況がありますよね。一方で、CO2を減らさなきゃいけないという事情が、全世界共通の課題としてあります。そして、捨てられている農産物があるわけです。それらを一つにしちゃおうというのが、この取り組みです。ドライフルーツにして販売するごとに1円が森林の整備資金にまわる。その1円は、製品を作る際に排出される2円分のCO2のうち50%を消し込むことになり、しかも未利用食材の活用にもつながるという、一挙三方得の取り組みです」

 

八峰町の小ぶりなシイタケ

 秋田県八峰町は、自然遺産・白神山地に接する自然豊かな町。町域の約80%を森林が占め、農林水産業を中心とした第一次産業が町の主幹産業となっている。
 その八峰町で菌床シイタケ【4】の取り組みが始まったのは、町村合併前の旧峰浜村の時代。国の補助金を活用して、村(当時)が出資して菌床工場を建設した。この菌床工場で、オガクズなどを使用した菌床ブロックを製造し、シイタケ農家に販売する。農家は、栽培ハウスで適切な温度・湿度管理をして良品質なシイタケを栽培する。町の一大産業としてシイタケ栽培が成長していった。しかも、収穫を終えた菌床ブロックは、水に浸して再生し、3-4回は繰り返し使える。
 ところが、2012年秋、ブロックを購入した農家から、“かさが開かない小さなシイタケが多く出る”と苦情が相次ぐようになった。風味や食感はよくても規格外品になるため市場に出回ることなく廃棄処分されていった。農家の間では菌床ブロックが原因ではないかとの憶測が広まり、菌床ブロックの生産は一時休止を余儀なくされた。
 町としても、国の補助金で建設した菌床工場だから、事業を取りやめるわけにはいかない。是が非でも稼働させて、利益を出していく方法を模索していけないかと、加藤のもとに相談が舞い込んだ。
 「ちょうど『やわらかフルーツドライ』の商品化が形になってきたときのことでした。“おい、ここにもあるのかよ!”とびっくりした反面、この仕組みを考えたとき、他にも捨てられているものはあるだろうと思っていましたから、“よし、カーボン・オフセット付きのシイタケとして売り出そう”とすぐに思いました」
 味には変わりがなく、むしろ濃厚な味わいが楽しめる。規格に合わないとはじかれたものの、かわいらしい見た目がむしろ売りになるという意見も多かった。

『八峰美人』とコピーをつけた秋田県八峰町で規格外となっていたシイタケ。

『八峰美人』とコピーをつけた秋田県八峰町で規格外となっていたシイタケ。。

『八峰美人』とコピーをつけた秋田県八峰町で規格外となっていたシイタケ。

 

“入りと出”の管理を大事に

 2014年春、加藤は内閣府地域活性化推進室の地域活性化伝道師【5】として推薦・認定されることになった。これまでのEVIの活動が評価されたわけだ。4月中旬に更新されたリストに掲載された279人の中に加藤孝一も加わることになった。

クレジットを軸にした、地域の問題解決および消費者の思いの受け皿となる仕組みをつくっていきたいと話す加藤孝一。その中心としてEVIのシステムが機能する(2014年5月14日、岩手県住田町役場にて)。
クレジットを軸にした、地域の問題解決および消費者の思いの受け皿となる仕組みをつくっていきたいと話す加藤孝一。その中心としてEVIのシステムが機能する(2014年5月14日、岩手県住田町役場にて)。

 八峰町の『八峰美人』ブランドはシイタケだけでなく、その他の特産物をラインアップしていくことを想定したネーミングだ。福岡県うきは市からは、特産の柿を活用した商品開発ができないかとの相談が入っている。和歌山県庁とも梅などの特産品の商品開発について話をしている。地域活性化伝道師派遣制度などを活用していくことで、問題解決に向けた取り組みへの進展が期待できる。
 「これからの農業は、地産地消はもちろんですけど、“入りと出”の管理が大事になってきます。有名な話ですが、かつて江戸期の日本には高度に物質循環する社会が実現していたと言います。街の中で、何一つ捨てるものなかった。これこそ、入りと出の管理の一つの典型例でした。例えば、家畜を飼えばふん尿が出ます。それを乾燥・熟成させ、畑に混ぜてやれば、肥やしになって野菜が育っていきます。トウモロコシも育てれば、家畜のえさになって、循環していきます。その成果として、生き生きとした野菜がでてきますし、それを売ることで生業として成立するわけです。当時は、こうした循環の中で、環境に害となるものは発生していませんでした。ところが、近年になって大規模な農業エリアや畜産エリアができるようになって、それぞれ不具合が出てくるようになったわけです。森の問題を解決するために始めたEVIの取り組みでしたが、だんだんとそれだけでなく、農作物の問題ともクレジットを通じてつながるようになってきました」
 そんな、一つの自給圏の中で入りと出がきちんと循環していくような社会をめざしていきたいというのが加藤の構想にある。そこに、森の話がつながるという。
 「森って、景観のもとなんです。農・林・水産・畜がつながった地域は、景観もきれいになりますよね。牛が放牧されている牧草地帯と、その傍らに畑作があって、その奥には森がある──そんな景観って、素晴らしい景色になると思いませんか。うまくバランスが取れた社会って、自然とそうなっていくのだと思います。そのバランスを取るための解決策の一つとしてクレジットがあると思うのです。物を買うとクレジットを通じて森や農を支えることにつながっていく。おいしいものを食べたいというのと、森や農を支援することを両立させたいという思いは誰しも持っていると思いますから、仕組みさえあれば実現できると思うのです。そして、その仕組みは消費者が知らず知らずにやっている消費活動の中で結び付けていく。なぜなら、一番すそ野の広いのが、消費活動だからです」
 EVIでは、現地を訪ねて行くたびにさまざまな問題に直面してきた。これまでの経験とクレジットを軸にした循環のビジョンを提供することで、より多くの地域での問題解決につなげていきたいと意気込む加藤だ。それとともに、普段の買い物を通じた環境貢献をしたいという消費者の思いにこたえるための受け皿をつくっていくこと。その中心に、EVIのシステムが機能することになる。

 

注釈

【1】特別栽培農産物
 農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に基づき、農薬や化学肥料の使用に配慮した特別の栽培方法で生産された農産物のこと。
 特別栽培農産物は、その栽培方法により無農薬栽培農産物、無化学肥料栽培農産物、減農薬栽培農産物または減化学肥料栽培農産物の表示をすることができる。
 農林水産省の特別栽培農産物に関するガイドライン(2007年3月改正)では、以下の2要件をともに満たす栽培方法により生産された農産物をさす。
 ・生産過程等における化学合成農薬の使用回数が当該農産物の栽培地が属する地域の周作期において従来から慣行的に行われている使用回数の5割以下であること
 ・生産過程等において使用される化学肥料の窒素成分量が当該農産物の栽培地が属する地域の周作期において従来から慣行に使用される化学肥料の窒素成分量の5割以下であること
 ※農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」: http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/tokusai_a.html
【2】カーボン・マーケットEXPO2014
 カーボン・マーケットに関連した日本最大の展示会として、主にクレジット創出事業者とカーボン・オフセット取組事業者とのマッチングを目的としたイベント。最新のカーボン・マーケット事情、気候変動政策や環境経営等の情報を集約し、市場メカニズムを利用したビジネスの拡大をめざす。
 2011年に開催した「カーボン・オフセットEXPO」を発展させ、カーボン・オフセットだけでなく、低炭素社会の構築に向けた様々な取り組みの紹介や企業等の低炭素化に向けた取り組みの推進に役立つヒントを提供する場として「カーボン・マーケットEXPO2012」が開催、以来、毎年開催されている。
 地域産品の地産地消・地産外消を目指し、マーケティングツールとして活用する地域経済振興型ビジネスや、事業活動に関連のある地域を応援する地域応援型CSRへの活用など、カーボン・オフセットの仕組みを通して「人と人、地域と人、地域と地域」のつながりを構築し、地球温暖化防止を通じて地域に貢献する新たなビジネスのかたちを提案する。
【3】オフセット・プロバイダー
 オフセット・クレジットの取引の仲介やカーボン・オフセットの取り組みの支援をする事業者のこと。環境省の指針では、「市民、企業等がカーボン・オフセットを実施する際に必要なクレジットの提供及びカーボン・オフセットの取組を支援又は取組の一部を実施するサービスを行う事業者」と定義されている。
【4】菌床シイタケ
 シイタケの菌床栽培。菌床とは、オガクズとフスマ(小麦の外皮)やヌカなどの栄養体を固めたブロック状の培地のこと。この培地にシイタケの種菌を接種し、栽培する。
 原木栽培に比べて、低労力・低コストで高品質、栽培管理が容易で計画生産・計画出荷が可能といった利点があるほか、シイタケ特有のにおいが原木栽培のものより少ないこともあって、子どもや女性にも受け入られやすい。市場での需要も高く、全国的に急速に普及している。
【5】地域活性化伝道師
 「地域活性化伝道師」派遣制度とは、地域活性化に向け意欲的な取組を行おうとする地域に対して、地域興しのスペシャリスト(地域活性化伝道師)を紹介し指導・助言などを行うもの。
 活用方法は、
 ①各自治体及び団体等が、課題解決への取組みに適した伝道師を選び、任意に招へいや相談を行う。
 ②地域活性化統合事務局が、「総合コンサルティング支援」の一環として、取組熟度が相当程度高く、支援する意義が特に高いと判断される場合に、地域活性化伝道師を当該地域へ派遣する。
 平成24年度は、各地域からのべ271件の相談があり、のべ13名の地域活性化伝道師を全国12地域に派遣して、地域の担い手育成やノウハウ蓄積を目指し、それぞれの取組現場で専門的な見地から指導・助言を実施している。
 ・内閣府「地域活性化伝道師派遣制度」: http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/ouentai.html

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  1. 001「豚ふん堆肥燃料でカーボンオフセット? ー削減系クレジットで日本の第一次産業を支える」
  2. 002「さらなるCO2削減につながる事業にJ-VERを活かして」 -南アルプス市のカーボンオフセット付き農産物と市民参加のわくわくエコチャレンジ-
  3. 003「わが身の安全と、被災地支援とをつなげる試み」 -『ともに生きる!』ひろげよう防災の輪!復興支援キャンペーン-
  4. 004「身のまわりで使うあらゆるものを国産木材のものに置き換える」 -木の出口のための“森のめぐみのおとりよせ”のラインアップ-
  5. 005「カーボンオフセットでつながる企業と人 ―森を支える仕組みづくりを育む『EVI環境マッチングイベント2013』」
  6. 006「カーボン・オフセットを付けて、未利用食材や特産品の商品価値を向上」
  7. 007「妖精が棲む湖のリゾート地から、森林保護とCO2削減の取り組みモデルを全国に発信!」 -女神湖グリーン&クリーン・リゾート構想-
  8. 008「小さな一歩を集積して、大きな力をともにつくりあげるための新たな仕組みづくりをめざして」 -環境マッチングイベント2014報告記・その1-
  9. 009「点を線につなげ、線を面に広げる取り組みをめざして」 -環境マッチングイベント2014報告記・その2-
  10. 010「日本の森と水と空気を守りに、EVIは今日も東へ西へ…」
  11. 011「“未来の大人たちは、環境を守る”に向けて、今なすべきこと」 -EVI読み聞かせ絵本シリーズのめざす、環境教育の形-
  12. 012「環境貢献型商品を開発するだけでなく、売りにつなげるための場と仕組みをつくる」
  13. 013「EVI環境マッチングイベント2015へのいざない」
  14. 014「EVIを活用した、水田農業による地域活性化の取り組みと環境貢献」 -エコファームHOSOYAの取り組みより-
  15. 015「地域密着の食材屋だからできる、“地域の台所”としての役割」 -「第5回カーボン・オフセット大賞」の特別賞を受賞したEVIがサポートする環境貢献の事例-
  16. 016「未利用木材を活用した立体パズルの開発で、森林管理&地域活性化をめざす」 -株式会社トライウッド&株式会社アキ工作社と取り組んだ3社共同の事例-
  17. 017「環境貢献型商品の開発に向けて、ラベルデザインや資材調達などトータルにサポート」 -信州・松代、真田十万石の歴史を生かすNPO法人杏っ子の里ハーモアグリとの協働事例-
  18. 018「日本初!CO2排出ゼロをめざす道の駅『にちなん日野川の郷(ひのがわのさと)』(鳥取県日南町)がオープン!」
  19. 019「プロモーション活動を通じた環境貢献の取り組みをサポート」 -POP・外装材の製作時CO2排出量を全量カーボン・オフセットするカルネコの “CO2排出ゼロ宣言”-
  20. 020「“もっと身近に”をさらに一歩進めるために、“私たちにできること”をめざして」 -EVI環境マッチングイベント2016実施報告(1)-
  21. 021「これまでのマッチングイベントと一味違う、環境パフォーマンス&環境落語の披露」 -EVI環境マッチングイベント2016実施報告(2)-
  22. 022「高校生たちによるカーボン・オフセットの取り組み(1)」 -愛知県立南陽高等学校 Nanyo Company部の事例-
  23. 023「高校生たちによるカーボン・オフセットの取り組み(2)」 -東京都立つばさ総合高校「ISO委員会」の事例-
  24. 024「いよいよビッグネームがカーボン・オフセットにも参入」 -EVIのコラボで森林支援を組み込んだソフトバンクの『自然でんき』-
  25. 025「EVI環境マッチングイベント2017、開催へ」 -「私たちにできること。」に向けたさまざまなヒントを提示-

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