「Eco Value Interchange」バックナンバー
2016年4月1日に電力小売り自由化が始まって、ほぼ1年が経った。電力広域的運営推進機関の発表によると、新電力への契約先の切替え(スイッチング)の申込件数は2017年2月末までの集計で311万件を超えている。ただ、一般家庭向けの電力総契約数に占める比率では5%ほどに過ぎない。これまでの推移をみると一定の伸び率が維持され、今後も切り替えは進むと予想されるものの、まだまだ様子見を決め込む人が大勢を占める。
ネックになるのは、各社の提供するサービスが条件も複雑で、特徴やお得感が伝わりにくい点。携帯電話やインターネットなど複合的なサービスに仕立てることでコスト削減を図るものが多く、条件がわかりにくいうえにトータルのコストだけではサービスに対する共感は生まれにくく、あえて切り替えるだけの動機づけになっていないといえる。
電力小売り自由化がスタートした当初、競争効果によるコスト削減とともに、環境面からも大きな注目を集めた。特徴あるメニュー提示の一つとして、電源構成に太陽光や風力など自然エネルギーによって発電した電力の比率を高くしたサービスの提供が進むことへの期待感からだ。消費者の選択基準の一つになることで、消費行動を通じた自然エネルギーの普及が可能となる。実際、欧米諸国など電力自由化の先進地では、環境面を重視した電力会社を選ぶ消費者も少なくない。
すでに国内でも一部にそうしたサービスを提供する新電力会社の参入も見られるが、多くはコスト削減の効果を打ち出すものばかりで、しかも複雑な条件が付く点が、前出の切り替え率にとどまる理由の一つともいえる。
今回は、去る2月1日にサービス開始のプレスリリースが発表された、「自然エネルギー電力×カーボン・オフセット」によって消費者にとってもシンパシーの持てる新電力のメニュー提示をめざした取り組みについて紹介したい。
「先日プレスリリースがされて、ようやく公開できるようになりました。ソフトバンクの関連会社が自然エネルギーで発電する電気を提供することになり、サービスの一環として、EVIのシステムを活用した森林支援の仕組みを組み込むことになったのです」
そう話すのは、EVI推進協議会の加藤孝一。2011年3月に当時のカルビー株式会社カルネコ事業部のCSR事業の一環で立ち上げたEVIのシステムを活用したカーボン・オフセットの支援プロジェクトとして発足したのが、EVI推進協議会だ。本業はカルビー株式会社の関連会社で主にPOPなど販促掲示物の受注制作・配送を担うカルネコ株式会社の社長。昨年8月にカルビーの事業部から独立した新会社として設立された。
一方、ソフトバンク株式会社は、“情報革命で人々を幸せに”を掲げる通信会社。ご存じの通り、プロ野球団ホークスのオーナー企業であり、犬のお父さんで知られるテレビCMなどで茶の間に露出を図るビッグネームだ。同社が電力事業に参入したのは、2011年11月のこと。東日本大震災による大規模停電で、電力がなければ通信事業が成り立たない現実を突きつけられたのが、大きなきっかけになった。需要状況に対して適切な対応を取るための電力源の確保をめざしたのが最初のスタートで、電力自由化を機に電力供給会社のSBパワーを設立、2016年4月の電力小売完全自由化で一般消費者向けのサービス展開も始まった。その一般消費者向けサービスのメニューの一つとして、2月1日に受け付けを開始したのが、電気を使いながら環境保全に貢献できる“支援型でんきプラン”として打ち出した『自然でんき』だった。
特徴の一つが、FIT電気【1】の比率を、年間を通じて50%以上に維持するという目標。当初の計画値では70%に設定。需給予測を上回るなどのバッファーも加味した設定だ。名前の通り、“自然エネルギーによって発電した電気”を前面に打ち出し、それによって自然エネルギーの普及をめざす。
それとともに、もう1つの特徴として大きく打ち出しているのが、EVIシステムを活用した森林支援の仕組みだ。
『自然でんき』の森林支援プログラムの仕組みは、次のような流れになっている。
顧客が自宅の電力として『自然でんき』を利用→ソフトバンクは、1契約につき毎月50円を森林支援に拠出→支援を受ける全国の森林保全プロジェクトの活動資金として活用される、
森林支援への資金還元には、国が進めるJ-クレジット制度を活用する。J-クレジットは、森林整備事業等を通じて、温室効果ガスである二酸化炭素の排出削減や吸収を行った証として認証・発行される国の制度。実際に行われた事業に対して二酸化炭素の排出削減・吸収量を算定して認証するから、資金は確実に環境保全に活用されたことになる。
ここで注目すべき点は、単にどこかの森に寄付されるというだけでなく、支援先を契約者自身が主体的に選び取ることができるという点にある。
北は北海道から南は九州の鹿児島まで、現在全国63の活動が紹介され、出身地の地縁や活動へのシンパシーなどさまざまな個人的理由で支援先の活動を自由に選んで、日本の森を守る活動に関わり与するわけだ。クレジットを発行している全国44都道府県のうち36道府県(都道府県別カバー率で81.8%)からクレジットの預託を受けている国内最大のカーボン・オフセット・プラットフォームであるEVIとのコラボだからこそ実現し得た特徴でもある。
毎月50円はわずかな支援だが、仮に『自然でんき』の加入者が1万件になったとすると、年間ではスギの木で約42,860本が吸収する二酸化炭素に相当する削減効果を生み出す。これは、自動車約35,290台の年間排出量に相当する二酸化炭素の削減効果でもある。1人1人の小さな思いが集まることで大きな力になる。
なお、森林支援の寄付は契約者に個別に請求されることはない。より多くの気持ちを託したければ、EVIを通じた森の製品の購入や寄付などがおすすめだ。
「今回の事例は、大手企業によるカーボン・オフセットへの参入という意味で、大きな転機と言えます。ソフトバンクというビッグネームがようやく立ち上がる時代になったわけです。21世紀末までにCO2ゼロバランスを実現しなければならないという全世界の合意に向けて、国内でも大きな動きが起こり始めている、そんな潮流の一つと言えます。しかも、電力会社という一般世帯とも身近につながる取り組みですから、私たちが今年掲げている『もっと身近に』【2】というテーマにもぴったりです」
加藤は、今回の事例の意味とねらいについて、そう話す。
これまで、カーボン・オフセットの流通で大きな役割を果たしてきたのは、思いのある中小企業や個人事業主による地道な取り組みだった。規模は小さく、裾野の拡大も課題だった。大手企業や大規模なイベントの開催に伴うカーボン・オフセットもされてきたが、あくまでも企業の社会的責任(CSR)として範囲や期間を限定した取り組みにとどまった。
ソフトバンクの電力サービスは、全国が対象になる。やがては全国で電気を取り扱っていこうというものだ。サービスの範囲と規模が拡大していけばその分だけ、森林への支援も増えていく。予算の範囲内で限定的にならざるを得ないCSRから、自社の売り上げにつながるCSV【3】への転換する取り組みによる環境貢献といえる。こうした事例のさらなる積み上げを図っていきたいと語る加藤だ。
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