「Eco Value Interchange」バックナンバー
前回のエコレポでは、「環境マッチングイベント2014報告記・その1」として、カーボンオフセットを取り巻くここ1年ほどの国内外の流れについて、当日の講演内容から紹介した。今回は、その続編として、より具体的な取り組み事例について、当事者からの報告をもとに紹介したい。
消費行動を通じた手軽な温暖化防止への参加を実現する「寄付型オフセット商品」として今年動き始めた事例が、午後の部に報告されている。本連載の第7回記事)でも紹介した「EVIシール」を活用して、1円単位でクレジット償却を可能にする仕組みによる展開事例だ。
株式会社ウェイストボックス代表取締役社長の鈴木修一郎さんからは、木曽町における「地域特産品×地元産クレジット」の開発・販売の取り組みが紹介された。地域産のクレジット──具体的には、森林保全や水源保全によって産出したクレジットや、地域の木材資源を利用したバイオマス発電や熱源利用によるクレジットなど──を、地元市民の消費行動に活用することで、カーボンオフセットの地産地消をめざしていこうという、中部カーボン・オフセット推進ネットワークの事務局を担う同社ならではの取り組みだ。どうせ買うなら環境貢献型のもの、それもどこか遠くのものよりも(それも意義深いものではあるものの)、馴染みある地元の森の整備・保全に役立てられるものならより強い共感につながる可能性がある。
試行的取り組みを通して、消費者である市民にとっては、わかりやすいマークと実際に手に取って購買できる場所を増やしていくこと、また事業者にとっては手続きやコスト面、効果なども含めた参加しやすい仕組みが求められる、そんな傾向が見えてきたという。
現在同社では、愛知県奥三河設楽町でトマト農園を営む村松農園が提供する様々な色や味のフルーツトマトを1パックに詰めた『まるでスイーツ カラフルトマト』や、長野県木曽郡木曽町の開田高原及び木曽川流域で作る焼き菓子(ゴーフレット)の開発に取り組んでいるほか、ハチミツやクレソン、シジミ、胡蝶蘭、もみじ・かえで、菜の花などの地域特産品に地元産クレジットを活用する商品の開発に向けて準備中という。
村松農園の『カラフルトマト』を例に、地産池消型カーボンオフセット特産品の概要をみていきたい。通常、カーボンオフセットに取り組もうとすれば、煩雑な手続も必要となるし、オフセット量の算出などでそれなりのコストもかかる。今回の取り組みでは、まずサンプルを一つ送ってもらい、それを素材ごとに分けて原単位データに引当てて大まかなCO2排出量を算出した。カラフルトマトは大小(1.5kg入と0.4kg入)2種類の商品があるが、大(1.5kg入)は約1.5kg-CO2(うち包装材が0.29kg-CO2)、小(0.4kg入)が約0.6kg-CO2(うち包装材が0.24kg-CO2)のCO2排出量という算出結果が出た。このうち、包装材に係るCO2排出量のほぼ半量に相当するそれぞれ1円分(0.125kg-CO2相当分)のクレジットでカーボンオフセットした。
商品開発に当たっては、大(1.5kg-CO2)の包装材をプラスチックから紙製のものに変更している。デリケートなトマトを扱うためかなりしっかりした包装材を使っていたため、そのCO2排出はそれなりの割合を占めていたのだ。
もうひとつ、同じEVIシールを用いた事例が、第7回記事でキックオフを報じた女神湖グリーン&クリーン・リゾートの展開だ。一般社団法人蓼科白樺高原観光協会理事で、女神湖畔でペンションを経営している榎本真弓さんが今夏の取り組みの成果について報告した。
2014年8月1日にスタートしたグリーン&クリーン(G&C)・リゾートでは、女神湖周辺の各施設にスターターキットとして、間伐材活用のG&Cプレート、ルーム用説明カード、地域用説明資料とEVIシール(1円シールと10円シールの2種類)などを用意した。
宿泊施設では、フロントにG&Cプレートを掲示し、各部屋にルーム用説明資料を置く。当初はチェックアウト時にG&Cの説明をして、宿泊者にカード型の参加証(シールの貼り付け台紙)を渡して、1泊1名につき10円分のEVIシールを貼り付ける。台紙にはシールが最大5枚まで貼り付けられ、次回につながるようにPRする。
一方、土産物・物品販売施設では、G&Cプレートを掲示し、選択した商品にEVIシールを貼り付けて、カーボンオフセット商品として販売する。シールは1円から設定できるため、値上げのイメージを与えずに購入者へ協力を呼びかけることができる。併せてチラシを配布して、より多くの人が訪れる場所でのPRにつなげていこうというものだ。
実際に展開したところ、チェックアウト時の説明は、時間のない中であわただしくなるため、夕食後や朝食後のくつろぎタイムに説明をするように変更、ゆっくりとした会話ができるようになった。また、トップシーズンよりも落ち着いた時期の方が一人ひとりの宿泊者と丁寧に話すことで会話も広がるし、近年の異常気象の頻発などもあって多くの宿泊者が関心を持って聞いてくれたなど、いくつかの改善点やポイントも見えてきたという。
蓼科白樺高原では、かつて町のシンボルとしてスズランの自生地が知られていたが、近年は鹿害によって観光協会として紹介できる場所がなくなってしまったという。スズランの保護と増殖の取り組みも進めているが、鹿害の根本的な解決には、森林のきちんとした手入れが必要になる。森林保全の取り組みを今後も積極的に進めていきたいと、榎本さんはそんな言葉で今回の事例紹介を締めくくった。
第1回、第2回マッチングイベントで紹介されたEVIを活用する取り組み事例のその後の発展・進化も、回を重ねてきた同イベントの特徴の一つといえる。
前回のマッチングイベント2013で、食事や買い物など日常生活の消費行動を通じて誰でも気軽に参加できる環境貢献の仕組みとして事例報告のあったエコッツェリア協会の「エコ結び」は、東京の中心地である大手町・丸の内・有楽町地区120haにわたるエリアで、買い物等にSUICAやPASMOを使って支払をすると、自動的に環境保全に役立てられる基金が貯まる仕組みとして構築されている。今回、加藤孝一によるまとめのセッションの中で、同協会とEVIのコラボ企画として始まった「1タッチ!森林支援キャンペーン」が8月29日から2015年1月末までの試行的取り組みとしてスタートしたことが報告された。大丸有エリアの加盟店約600店舗が参加するこの仕組みは、1回の支払いで1円が森林保全のための寄付として積み上げられる。しかも、その送り先は参加店舗が全国55の森林の中から自由に選ぶことができるというもの。
過去2回のマッチングイベントともで事例報告のあった『ともに生きる! 防災の日・復興支援キャンペーン』(→EVI003)は、3年目を迎えた今年新たな企画が工夫された。その一つが、この日の会場で行われた「伝える力」コンクールの表彰式だ。キャンペーンの方向性や内容には大きな違いはないが、今回参加の1,816店舗の中から売り場の写真や取組の内容を通じた“伝える力”がもっとも効果的だった店舗を選定するもの。過去2年間、メーカーと流通がタッグを組んで進めてきた同キャンペーンに、各小売店舗にもより主体的な姿勢で参画してもらうきっかけを作っていこうというねらいだ。
初回のコンテストということもあり、最優秀賞は該当なしだったが、「ともいき賞」(優秀賞)として株式会社セブンスター別府店とウェルシア薬局株式会社ウェルシア泉大津寿店の2店が選定・表彰された。
ここでは、新たにEVIを活用した取り組みとして始まった事例報告について、紹介したい。
国土緑化株式会社と石岡市森林カーボンオフセット協議会が共同で進める、森の枝を使った法人向けの室内観葉植物のレンタル事業の開発は、地域活性化伝道師でもあるEVI推進協議会の加藤孝一(カルビー株式会社カルネコ事業部)の仲介で、マッチングイベント2014の開催直前の10月に始まった取り組みだ。
国土緑化は、オフィスや店舗のエントランスや卓上など室内の緑化及び屋外のフラワーレンタルガーデニングなど、“小さな森づくり”を進める緑のレンタル事業を展開している。2週間に一度のメンテナンスを含めて提供するサービスだ。
こうしたレンタル観葉植物の一つに「ポトス」と呼ばれる東南アジアの亜熱帯・熱帯雨林原産のツル性植物がある。ツル性植物だから、鉢に支柱を立てて這わせたり、吊り鉢から垂らしたりする。支柱を立てる場合、同じく東南アジアから輸入される「ヘゴ」という常緑の大型シダ植物からとれる材が使われてきた。多孔質のヘゴ材は、湿度と空気とを適度に保持するためシダ類の栽培に適している。ところが近年、園芸用途に乱獲されたことからワシントン条約の附属書IIに掲載、ヘゴ材の輸入は規制され、代替材の開発が喫急の課題となっていたという。
ヘゴ材の支柱に代えて、国内の森林で間伐により倒され林内で朽ちていく材や整備が不十分で荒廃する森林の材を有効活用しようという取り組みが、今回の事例だ。
支柱材を提供するのは、茨城県石岡市の森林。茨城県中央部にあって筑波の山々に囲まれ、南部には恋瀬川が流れて霞ケ浦の高浜入りへとつながる。かつて農業の堆肥や薪材の供給減となっていた里山は、近年はヤブ化した広葉樹林と手入れの遅れた針葉樹林がともにイノシシの生息場所となり、農業被害をもたらす。平成23年12月に森林整備と地域活性化を目的にカーボンオフセットの取り組みを開始し、翌年9月に石岡市森林カーボンオフセット協議会を設立。現在、123か所の森林61.23haを対象に、1,091トンのオフセットクレジットを創出しているが、販売実績はわずか5%にとどまる。
石岡市の森林から伐り出したヒノキやコナラ、ヤマザクラの枝をポットの支柱に使うことで森の再生をめざす。しかも、そうして日本の森林の未利用資源を活用してできた商品を多くの人の目に触れるオフィスや店舗のエントランスなどに配置する。そんなストーリーが生まれた。枝材だから、一本一本異なる表情やバリエーション豊かなサイズと材質が可能となる。定番化したツタ植物のリデザインにもつながる。
国産材を使ったこの新しい商品は、12月中旬のスタートをめざしている。
マッチングイベント2014の最後の事例報告は、できたてほやほやのEVI読み聞かせ環境絵本の紹介だった。当日は絵本のデザインを手がけた(株)クリエイティブオフィスエジソンの津久井香乃古さんによる絵本の読み聞かせから始まる。
環境絵本シリーズは、間伐材を切り出してデザインした森に棲むいきものたちが順繰りに登場する赤ちゃん用絵本『もりでみーつけた』以下4分冊で構成される。黒板に描いたチョーク絵でデザインされた『ギーコギーコトントン』は父さんクマが森から伐り出した木材を使って家具やおもちゃを作る話。小学生低学年向けの『日本の森がないている』と、大人もこどもも楽しんで読める一冊『STOP!地球温暖化 <ぼくらにできること>』は、日本の森と地球温暖化との関係を小学生にもわかりやすく解説する。絵本には、EVIが訪れてきた森の現場の写真が使われている。
この環境絵本シリーズは、EVIの活動を次の世代につなげていくためのツールとして開発したもの。未来は、今生まれたばかりの子どもたちから幼稚園や小学校の子どもたちの中に森と水と空気への思いをどう伝えていくかが問われる。“未来の大人たち”は、きっと環境を守る、そんな未来にしたい!というEVIのメッセージを込めたものだ。
マッチングイベント当日、参加者にはアンケートへの記入と引き換えに絵本4冊セットがプレゼントされた。
最終セッション『ともに、一歩前へ』でこの日3度目の登壇となった加藤孝一は、次のような言葉で、EVI環境マッチングイベントを締めくくった。
「私たち日本人は日々たくさんの買い物をしていて、その消費の裾野は広い。一人ひとりの気持ちが消費に結びつけば、大きな力になります。そのために、購入するだけで環境貢献ができる商品が今、求められています。はじめは少ない商品しか出せませんが、点を線に、さらに面へと、すべての商品をカーボンオフセット商品に変えていきたい、そんな思いを抱えながら頑張っています。私たちはFun to Share及び日本の森と水と空気を守る活動にできるだけ多くの皆さんにご参加いただくことを願っています。すでに地球温暖化は身近な困りごとを数多く引き起こしています。今この時点から私たちにできることから着手していかなければなりません。ともに、一歩前へ!」
≪…点を線につなげ、線を面に広げる…≫を[点・線・面]の相互作用で数の言葉(自然数)と数学の相互な行き来を絵本で・・・
[もろはのつるぎ」(有田川町ウエブライブラリー)
[点・線・面]の数学思考は、[円]と[ながしかく](『自然比矩形』)において[どんなに大きくしても、どんなに小さくしても]変わらない。
(2020.09.23)
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