「Eco Value Interchange」バックナンバー
長野県長野市松代町は、かつて松代藩の領地として栄えた。江戸時代の1622(元和8)年に上田藩(長野県上田市)から国替えしてきてこの地を統治した初代藩主が、今年の大河ドラマ「真田丸」で注目を集める主人公・真田信繁幸村の、実兄・信幸(信之)。以来、松代藩・真田家は幕末の版籍奉還まで10代続いた松代藩・真田家だ。
その第3代藩主となる幸道が嫁に迎えた伊予宇和島藩主伊達宗利の娘・豊姫は、故郷をしのぶ品としてアンズの種子を嫁入りに際して持ち込んだと伝えられる。これがきっかけとなって、松代藩では咳止め薬として珍重された「杏仁(きょうにん)」の採取を目的にアンズの栽培を奨励、「あんずの里」として知られるようになった。当初はアンズの種(杏仁)を目的に生産された杏だったが、江戸時代後期には実を食べるようになった。
近年でも、初夏には浴衣を着てアンズを収穫するこの地域ならではのユニークな光景が見られ、アンズの花見やアンズ狩りとともに地域の観光資源となってきた。
ただ、“あんずの里”の隆興も昔日、今や他の中山間地と同様に少子高齢化の波が押し寄せて、里山の荒廃は進み、集落機能の維持が危惧される状況になっている。そんな地元の現状に危機感を覚え、立ち上がったのが、NPO法人杏っ子の里ハーモアグリの面々だ。
今回は、信州・松代で真田十万石の歴史を未来につなぐ同会の環境保全の取り組みを紹介しつつ、環境貢献型商品の開発に向けたEVIによるトータルサポートの事例について解説する。
NPO法人杏っ子の里ハーモアグリでは、アンズの木の再生・収穫をはじめとした里山復興の活動を行っている。荒廃農地、遊休農地の解消、里山整備や保全、さらには地域の歴史的文化財の保全も図りながら、それらを次世代に残すことが目標だ。里山の散策道の草刈りから始まり、崩壊した石垣の修復、スギ、カラマツ、竹林の伐採。こうした取り組みの過程で見つけた地区内の文化財の整備・保全とともに、特産のアンズやサクランボ、ナシなどの果樹栽培や、担い手のいない農地等の管理も行っている。
EVI推進協議会の加藤孝一(カルビー株式会社カルネコ事業部事業部長)が松代を初めて訪れたのは、2014年に遡る。ハーモアグリの活動と想いに共感した加藤は、環境貢献型商品開発の提案によって活動をサポート。協働の取り組みが始まった。
「私たちが初めて松代を訪れた当時、きれいに整備されたアンズ畑を案内していただきました。松代の城下町を見下ろす斜面にアンズの木が広がり、散策やトレッキングに使える遊歩道や休憩施設の再生もしながら環境保全に力を入れているとのことです。ところが、同じその場所は、活動が始まる前までは草ぼうぼうの荒れ果てた状態だったのです。当時の写真を見ると、よくぞここまでと頭が下がる思いでした。特産のアンズの木をメンテナンスして、同時に生えっ放しだった草を全部刈って、アンズの木のオーナー制度も始めて、支援の輪を広げようと取り組んだわけです。草を刈って整備している最中に、草ぼうぼうの中からお寺が2つ見つかったそうです。調べてみると、お寺とお寺を結ぶ道が、“♪お猿の駕籠屋だホイサッサ”という唱歌の舞台だったことがわかりました。作詞家が、生まれ故郷・松代の赤い夕焼けを思いながら描いた情景だったと言います。これって、歴史的にも教育的にも大事な場所なんじゃないのというので、さらに整備を進めて、お寺がちゃんと見えるまでにしたというおまけのエピソードまであったのです」
こうして再生したアンズの木に実が成るようになって、6次産業化をめざした取り組みとして始めたのが、環境貢献型の商品開発だった。
「シロップ漬けとジャムに加工したアンズの実を商品化して、これにEVIを通じて購入するカーボン・オフセットのクレジットを付けた環境貢献型商品として設計したのです。形のよい実はシロップ漬けに、選別されたあとに残った形の悪い実も味はよいのでジャムになります。それぞれ大小2品の計4品です。EVIシールを刷り込んだラベルのデザインの提案もしました。オフセットするクレジットには、長野県有林のものを活用します。さらに、シロップ漬けとジャムを製造した後にもあまった果実は、ドライフルーツにしようと、加工設備を導入して、工場もできました。そこまでやりきる人たちですが、実は商品用の容器の調達ができていなかったことがわかったのです」
シロップ漬けとジャム各1千個ずつ製造するため、合計4千個の容器が必要になる。試作品同様、すべてホームセンターから購入する計画だったから、コストが大きく嵩んだ。
「そこで、私たちの方で大小4種類のビン容器を探してきて、提案しました。われわれの手数料を乗せても、ホームセンターの8掛けの値段で提供できるという仕組みです。これだけ頑張っていて、気持ちもあって、設備の導入もできるにもかかわらず、細かいところで整えきれないものがあることで、利益を圧迫してしまう。そうした部分のサポートが意外に必要とされているということが、この事例を通じてわかってきたのです」
EVIのこれまでの活動は、森を支援するためのカーボン・オフセット・クレジットの流通システムの設計と、そのクレジットを細かい単位で扱うことのできるEVIシールやマークの導入による環境貢献型商品の開発を基礎としてきた。今回の松代の事例を通じて、さらに一歩踏み込んだサポートのあり方が見えてきたと加藤は言う。
「地域特産品の商品開発では、必要な資材の調達が1つの課題になっているわけです。私たちがカルビーの名前で問屋さんなどに声をかければ、話も聞いてもらえますし、結構協力もしてもらえます。EVIの説明もして、地域活性化のお手伝いをするパートナーとして協力してもらえないかというと、がんばってくれます。これによって、リーズナブルで利益を残せるような事業設計のサポートにつながります。商品開発の周辺部分での積極的なサポートをすることで、地域の人たちが煩わしさから解放され、商品そのものの開発に専念できるのです」
それとともに、消費者起点の商品開発をしていくことが大事だと加藤は話す。これまで実施してきた環境貢献型商品の開発の講演会等では、かつてカルビーのマーケティング責任者をしていた時にまとめた商品開発の4つのステップについて紹介している。
「地域の特産品を使った商品ができて、地元のデザイナーがパッケージをつくって、それを合せれば商品はできますよね。でも、それが売れるかどうかはまた別の話なんです。なかなか資料だけでは読み切れないところもありますので、いくつかコツをお話しています。例えば、売れる商品を作るためには、食べてもらったり買ってもらったりするお客様の気持ちをきっちりと表現し切ることが大事です。そうでないと、なかなか思わず手に取るという形にはなりません。手に取った後も、においをかいで、食べてみたときに、手に取った時の印象と重なってこないと、裏切られたという印象を与えますから、リピーターにはなってもらえません。パッケージのデザインは、そうしたことをきちんと成し遂げるために必要だし、効果的なツールになるということをいつもお話しています」
地域特産品を環境貢献型商品にするためのEVIの仕組みに加えて、資材の調達や商品開発の勘所、そしてデザイン表現など、トータルにサポートしていくことで、地域活性化プラットフォームとしての形が徐々に整ってきた。
環境保全を進めていくための一つの手段として、環境貢献型商品をもっと身近なものにしていく必要がある。そのためには、より多くの商品ラインアップを作っていかなくてはならないし、そのノウハウが一般的なものになっていかなくてはならない。EVIが、そのためのプラットフォームとして機能し、使われていくことが、今、加藤のめざしているところだ。
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.