「Eco Value Interchange」バックナンバー
EVI推進協議会は、J-VERクレジットの流通を仲介するためのプラットフォーム「EVI(Eco Value Interchange)」を運営するため、2011年3月に設立された組織だ。環境省マッチング支援事業に採択され、事務局を三菱UFJリース株式会社とカルビー株式会社カルネコ事業部が務めている。
活動の目的は、文字通り、“エコの価値”の交換・流通を進めることで“日本の森と水と空気を守る”ことにある。扱う“エコの価値”は、主に環境省のカーボンオフセット(J-VER)制度で創出された、J-VERクレジット。これまでは主に森林吸収系のJ-VERを扱っており、全国各地の森から預託されたクレジットを中心にラインアップしている(詳しくは、「わが社のエコレポ002」参照)。
EVI推進協議会が大事にしていることの一つに、“現場主義”がある。なるべく取り組みの現場を訪れて、当事者の事業にかける思いや直面する悩みを直接聞いていこうというわけだ。EVIというシステムを、利用者のニーズに合った実際的なものにするための微調整としても、大事なプロセスになる。
今回、EVI推進協議会の事務局が訪れることになったのは、千葉県旭市にある養豚農場。
旭市がある東総地域は九十九里浜の最北端に位置する。黒潮の影響で平均気温が15℃ほどと温暖なため、県内随一の畜産地帯だ。飼養頭数の多い畜産集中地にとって悩みの種になっているのが、日々大量に排出される家畜ふん尿の処理の問題。千葉県で発生する家畜ふん尿の量は年間330万トンに達する(2010年度推計)。これは、同県内のバイオマス発生量約644万トンの、実に半数以上を占めることになる。
視察先の養豚農場では、約9,000頭を飼育し、日に14トンほどの生ふんが発生する。これを縦型の堆肥化処理プラントに投入し、1週間ほど機械的に乾燥・発酵させることで、粉粒状の堆肥ができあがる。
ここで作った豚ぷん堆肥を埼玉県日高市にあるセメント工場で石炭代替燃料として活用する取り組みが、2009年度から千葉県と太平洋セメント株式会社の共同事業として始まっている【1】。取り組みを持続的なものにするため、石炭代替による二酸化炭素の削減効果を評価した削減系J-VERクレジットを創出して、輸送コストに充当しようという構想だ。2011年10月から豚ぷん堆肥の石炭代替燃料への利用を開始【2】し、2012年8月に、それまでの削減量に相当するクレジットとして112トン分のJ-VER発行が認められた。さらに358トン分の追加発行を申請し、2013年3月には承認される見込みという。
今回の視察の目的は、千葉県と太平洋セメントによるこの取り組みで生み出されたJ-VERクレジットをEVIでも取り扱うに当たって、その内容と現場の様子を実地に見学しようというもの。案内役は、この共同事業の推進役を担う、千葉県環境生活部資源循環推進課の渡辺博剛さんと、太平洋セメント株式会社の押木市郎さんだ。
「今回見ていただく東総地域は、畜産集中地のため、堆肥の供給量が需要量を上回っています。土壌還元量が増えれば水質汚染の問題なども生じてきますから、農地還元以外の利用方法ができないかと県でも用途開発の調査研究を進めてきました。堆肥は水分量が多いので、燃やすことは考えもしなかったのですが、調べてみると意外に発熱量が高いそうなんです。家畜の管理方式や堆肥づくりのプロセスなどでいくつか条件を満たせば、石炭代替燃料として十分使えそうだということもわかってきました。メタン発酵による発電利用などと比較してもエネルギー効率にすぐれ、焼却後に残る灰分もセメントの原料の一部として利用することができるなどの利点もあり、一定の成果が見えてきました」
豚ぷん堆肥の燃料化という珍しい取り組みを進めることになった畜産農家の抱える問題とこれまでの経緯について話してくれたのは、千葉県環境生活部資源循環推進課の渡辺博剛さん。
一方、豚ぷん堆肥燃料を受け入れるセメント会社にも事情はある。
日本のセメント生産量は、2012年度現在で国内需要4300万トン。その製造過程でCO2量を発生する。石油から石炭への燃料転換や廃棄物の燃料利用などにもいち早く取り組んできたセメント業界だが、今日の石炭を含む燃料価格の高騰や地球温暖化防止に向けたCO2排出量の削減など、新たな燃料資源の確保と燃料の多様化が求められる。
そんな、畜産農家を指導する立場にある県とセメント会社の双方の思惑が擦り合わさって、今回の共同事業が動き出したわけだ。
豚ぷん堆肥そのものは造粒等の加工をしなくてもそのまま燃料として利用できるから、畜産農家にとっては新たな設備投資などのコストをかけずに提供可能だ。しかしながら石炭に比べ燃料価値が低く、しかも千葉県内にはセメント工場がないため、埼玉県日高市の太平洋セメントのセメント工場まで、片道百十数キロの距離をトラックで輸送している。この輸送コストがかさむことで、石炭利用コストを大きく上回っているのが実情だ。
切り札として期待されているのが、環境省のJ-VER制度を活用した、クレジットの創出。石炭代替燃料としての利用で生み出したJ-VERクレジットを販売し、輸送コスト分の穴埋めに役立てようというわけだ。
千葉県の渡辺さんとEVIとの出会いは、2012年11月に溯る。豚ぷん堆肥燃料の石炭代替利用によるJ-VERを創出したものの、その販路開拓に苦悩していた渡辺さんが新潟県主催のJ-VER研修会に参加した席で、EVIを知ることになる。直後の11月30日に開催された『オフセット・クレジット(J-VER)マッチングイベント』(EVI推進協議会主催)【3】に参加して、EVIの仕組みと可能性に期待を寄せたという。
これまで、EVIが扱ってきたJ-VERクレジットは、主に森林吸収系のもの。全国各地の森から預託されたJ-VERクレジットが並び、クレジットの利用・購入を検討する企業等は、震災復興や故郷の森林など思い入れと共感によって幅広い選択肢の中から支援先の森を選ぶことができるようなシステムとして提供している。
そもそも立ち上げのきっかけは、カーボンフットプリント(CFP)を紹介する環境貢献型プロモーション『あなたが選ぶ! 森が活きる!』キャンペーン【4】の経験だったから、想定した利用方法は、森林支援を通じた企業の社会貢献活動のイメージが強かった。
ところが、EVIの立ち上げから3年目を迎えて参加企業が増えてくるにしたがって、もう一つ別の企業ニーズがあることも見えてくるようになったという。EVI推進協議会の加藤は、そうした企業のニーズについて、次のように話す。
「EVIに参加してクレジットの利用を考えている企業さんたちにも、2通りの調達ニーズがあることがわかってきました。一つは、社会貢献としてのCSR的なニーズ。支援する森を選んで、その森を応援するためにクレジットを購入するということです。これに対して、事業等を通じて排出する二酸化炭素の相殺もしくは削減を目的としたオフセット・ニーズもあります。例えば、EVIに参加していただいているトッパン・フォームズ株式会社さんは、原料の調達から製造、印刷、加工、廃棄の全行程で排出するCO2を全量オフセットしたカーボンオフセット付きビジネスフォーム、つまり封筒やハガキなどを商品として扱っています。顧客企業は株主総会の案内状の送付などにカーボンオフセットされた封筒などを使えるわけです。このオフセットのためのクレジットには、これまで海外のCERクレジット【5】を活用していましたが、比較的ローコストに抑えられる削減系J-VERをEVIが提供できるようになれば、海外に流出していた資金を国内の環境保全事業に還元する仕組みが構築できるのではないかという発想が出てきたのです」
EVI推進協議会では、これまでのCSRとしての利用だけでなく、より事業色を強くしたオフセット利用のためのプラットフォームへとEVIを拡張していく契機になると期待感を高めている。
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