「Eco Value Interchange」バックナンバー
まだ記憶に新しい今夏の猛暑。連日、厳しい真夏日が続き、国内観測史上の最高気温も更新された。各地で相次いだ豪雨や竜巻による被害、季節外れの台風襲来など、まさに近年の異常気象を実感する今日この頃。原因として指摘される地球温暖化の防止対策としては、CO2を中心にした温室効果ガスの排出削減とともに、森林などによる吸収・固定の促進が効果的となる。
EVI(Eco Value Interchange)【1】の取り組みは、こうした地球温暖化防止対策につなげるため、日本各地の森林を支援しようというものだ。具体的な手法としては、主にカーボンオフセット・クレジットの購入を通じた資金的環流の仕組みをつくること。2012年12月現在、累計で約34万トンが認証されたJ-VERクレジットは、わずか4万トンあまり(12.5%)しか無効化されていない。そのクレジットの流通を進めていくことで、森林整備のための資金を森にまわしていこうというわけだ。EVIでは、これを“クレジットの出口”と呼んで、クレジット保有者である森林関係者と、クレジットを購入して森林支援型プロモーションを実現したい企業、そして森の支援に協力したい消費者の3者を結びつけるためのプラットフォームの提供をめざしている。
一方で、全国各地の森の現場を訪れていると、もう一つの深刻な問題に直面する。それが、未利用木の問題だ。昭和30年代に9割以上あった日本の木材自給率は、現在は7割以上を海外からの輸入に依存している。それだけ国産木材の利用量が激減していて、適齢伐期になった成木でもコストが合わずに伐り出せないまま放置されることが多くなっているのに加えて、育林整備で伐られる間伐材も搬出費用が出ないから林内に放置されて朽ちるままになっていることが多い。間伐材売却による収入が途絶えることで、森林経営はますます採算が悪化する。
こうした未利用木材の需要開発を進めることで、成木や間伐材を伐り出して、売ってお金に換えていくという循環を作り出し、山に入る資金を確保しようというのが、EVIのめざす“木の出口”構想だ。
「山の木は植えられた後、育つ過程でCO2を吸収して、自らの体の中に固定してくれます。この時、育った木と木の間が詰まりすぎないように間引いていくことで、より多くのCO2を吸収するようになります。こうして間引かれた間伐材や、成木を山から運び出し、加工して製品として活用するという連鎖が正しく機能していれば、森は健全に維持されるのですが、残念ながら日本の森の現状はそうはなっていません。伐った木を運び出す費用よりも販売価格の方が安いと言われる今、日本の森には、伐期を迎えても伐り出せない木や、伐ったまま放置されている間伐材がたくさんあります。何十年もかかって育った“森のめぐみ”をそのまま放置はできません。何らかの形で製品化し、命を吹き込んでいって森に資金を環流することができれば、より豊かな森が育っていきます。つまり、今日本の森に必要なのは、“木の出口”なんです」
EVI推進協議会の加藤孝一は、“木の出口”になることをめざして立ち上げた国産木材製品購入サイト『森のめぐみのおとりよせ』について、そう説明する。
木の出口となる『森のめぐみのおとりよせ』のサイトは、キッチン用品、文具、雑貨、子ども用品、ファッションなどのカテゴリー別にさまざまな国産木材製品を紹介・販売するサイトだ。現在はまだサイトでは紹介されていないものの、加工品だけでなく、テーブル用の天板などに使えるような大きいサイズの無垢の板材などを扱う「素材屋」も同サイトを通じて取り扱っていく予定だ。
「EVIの『森のめぐみのおとりよせ』を通じて実現したいのは、私たちが身のまわりで使っているあらゆるものをご提供することです。今はまだ、限られた製品しかご提供できていませんが、将来的にはあらゆるものを扱っていきたいのです。環境を変えるには、一番裾野が広く、人数の多い、消費のところにアプローチするのが最も効果的です。われわれ国民一人一人が、自分の身のまわりのものを、プラスチック製や輸入木材製のものから、国産木材製のものに置き換えていければ、国産木材の需要は劇的に変わります。そんなことのお役に立ちたいというのが最大の目的です。このために、木材加工場のネットワークを全国の津々浦々に張り巡らせていこうという構想です。日本の森の多くは山の奥深くに立地しています。物を売るには時間的にも距離的にも非常に不利な条件にあるわけです。何とかして、その不利を補っていく仕組みを作っていかないと、国産木材はなかなか使われません。まさに、今の時代はそういう状態なんですね。この先、需要の開発が進んで供給サイドとそれなりのバランスがとれるようになったときに、必要なものを連鎖的にお届けすることができるような全国的なネットワークを構築できれば、それほど物流費をかけずに物をお届けする仕組みができるんじゃないかと思うのです」
そんな大風呂敷のような構想も、本業のカルネコ事業部【2】でPOP受注生産を立ち上げて大幅なムダとコストの削減を実現した経験を持つ加藤だけに、満更、絵空事だけでは終わらない予感がしないでもない。
『森のめぐみのおとりよせ』のカタログで紹介している国産木材製品の一例。木製家具(左図)や台所用品などの実用品から、子ども用品(中央図)やペット用品などさまざまな国産木材製品をラインナップ。無垢の板などを扱う“素材屋”(右図)など、取り扱う範囲や種数も今後順次拡大していく予定だ。
今はまだできあいのものを販売するネットショップでしかないが、より多くの木材加工場が集まるようになっていけば、いろんなことができるようになると期待を寄せる。
「ある人が、こんなコップを作りたいと絵に描いて『森のめぐみのおとりよせ』に寄せてくれたとしたときに、国産木材を使って製作してくれるような加工場さんとつながって、ちゃんと木で彫った世界に一つだけのオリジナルのコップができる、そんなことを構想しています。すべての加工の方法がこのネットワークの中に入ってくれば、ほしいと思ったものがちゃんと手に入る仕組みを提供することができますよね。それを知った人たちが、『1つくらい買ってもいいね』と思ってくれたとします。しかも、子どもや孫が小学校にあがるときには机を注文してくれたりと、いろんなタイミングで家具や日用品、贈答品を注文してくれたりすれば、1つの注文が2つ、10、100…と増えていく可能性は大いにあります。それとともに、全国の木材加工場に参加してもらって、自分の生まれた場所の木材で自分の気に入った加工をしてもらうという自然な流れを、ぜひとも実現していきたいと考えています。ともかく、まずはわれわれのできるところから始めて、それに共感してくれる人たちが集まってきて、今ようやくここまで漕ぎつけています。やったらできるかも知れないなっていう人が、できそうだという人と出会っていったら、本当にできることがある。それが、この2年半のできごとです」
国産木材製品の販売とともに今回のサイトで力を入れたのが、全国各地の森に対して、支援の気持ちを送る機能を実装すること。ちょうどお店のレジ脇に置かれた募金箱のように、買い物に合わせて日本の森を守るための寄付が気軽にできる仕組みをつくろうというわけだ。 各商品の詳細画面を開くと、『みんなで日本の森を守ろう』という鮮やかな緑色のバナーが表示される。このバナーをクリックすると、日本地図上に支援対象の森がプロットされた支援先一覧のページが別画面で立ち上がるようになっている。地図上の木のアイコンにマウスを乗せると、その森の詳細情報が表示され、森の特徴や取り組みの概要を確認することができる。
バナーをクリックすると表示される、森の支援先一覧のページ(左図)。日本地図は拡大・縮小やドラッグで移動して、詳しい位置情報を確認することができる。地図上の木のアイコンの上にマウスを乗せると、左側エリアに各地の森の詳細情報が表示される(右図)。
支援金額は、1口10円から選べるから、買い物ついでにお釣りを寄付する感覚で、故郷の森や思い入れの持てる森を選んで支援することができる仕組みになっている。森は複数選んでそれぞれに任意の口数の寄付を送ることができるし、買い物をするごとに別の森を選択することもできる。
「木が困ってきた、山が困ってきたというのは、ここ何十年もかかって困ってきていることです。それを解決するためには、この先何十年も支援をしていかないと、多分元には戻らないんです」
そんな覚悟を持ちつつ、森の支援に取り組んでいきたいと話す加藤だ。
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.