「Eco Value Interchange」バックナンバー
長野県北佐久郡立科町に“女神湖”と呼ばれるリゾート地がある。北八ヶ岳・蓼科山の麓に広がる自然豊かな地域で、昭和41年に赤沼平と呼ばれた湿地帯を農業用水のため池として整備された貯水量26万トンの女神湖を中心に広がるエリアだ。
この女神湖、豊かな森に包まれた静かな雰囲気から、“妖精が棲む湖”としても知られる。清浄な大気と水、静寂に包まれた森──そんな環境にしか、妖精たちは棲むことができない。
2014年1月、環境省の地方発カーボン・オフセット認証取得支援第4次募集事業として採択された『女神湖カーボン・オフセットエコチャレンジ』【1】は、そんな女神湖及び周辺の環境を保全するための取り組みだ。
この事業では、女神湖周辺の街灯や公共施設等で使用される電力消費に伴う二酸化炭素排出量の一部を、地元長野県産J-VERクレジットを用いてカーボン・オフセットする。併せて、景観保全のためのゴミ拾いをしたり、女神湖で実施される自然学習などのイベント等に際してカーボン・オフセットの説明をしたりと、取り組みへの理解と支援を得ていく。
2014年6月某日、EVI推進協議会の加藤孝一は、女神湖周辺のホテル・ペンションや飲食店の経営者等が集まる蓼科白樺高原観光協会の会合に出席するため、女神湖を訪れた。EVIのシステムを用いて、女神湖におけるカーボン・オフセットの取り組みを支援するのが目的だ。
「私どもEVIは、全国の森を訪ねて、各地の森林や環境保全の取り組みを見させてもらっています。そうした中で巡り合ったのが、ご当地・女神湖のカーボン・オフセットの取り組みです。環境省の採択事業として女神湖カーボン・オフセットエコチャレンジが始まって、その活動を広く知っていただくためのパンフレットの制作や街灯に貼り付けて環境負荷軽減の取り組みを説明するシールの制作に協力させていただいたのが最初のご縁。この活動は素晴らしいものですが、一つ気になったことがあって観光協会長さんにお聞きしました。『これは今年度だけの取り組みですか、それとも来年度以降も続けられますか?』と。『もちろん、来年度以降も続けます!』、そう協会長さんは明言してくださいました。そこで、せっかく続けられるのならもう一歩進めた取り組みをされたらどうでしょうとご提案申し上げたのが、『グリーン&クリーン・リゾート構想』です。皆さんは、この地の街灯や公共施設の電力消費から排出するCO2を消し込む覚悟をされたわけですから、もう一歩進めてこのエリア全体としてエコリゾートに取り組んでいることを打ち出されたらどうかというご提案です」
グリーン&クリーン・リゾート構想は、森林の保全を意味する“グリーン”と、CO2削減を意味する“クリーン”の2つの効果を、一つの取り組みの中で両立させようというもの。具体的には、カーボン・オフセットエコチャレンジで始めたリゾート内エネルギー利用にかかるCO2排出量の一部(または全量)をオフセットする取り組みに加えて、各リゾート施設で行われるサービス提供にかかるCO2排出量の一部(または全量)をオフセットすることで、リゾート全体に広げていこうというもの。さらに、オフセットのために購入するJ-VERクレジットが長野県内の森林保全に役立てられることになる。
各リゾート施設で行われるサービス提供を通じてオフセットする取り組みは、例えば、連泊時にリネン交換が不要な場合や、アメニティグッズを持参して備え付けのものを使わない場合などに、宿泊費用との差額の一部をJ-VERクレジット購入に充てるというもの。そうして施設利用者(=お客)に協力を呼びかけていくことで、当地の環境保全の取り組みに無理なく参加してもらおうというわけだ。
グリーン&クリーン・リゾート構想を進めるためのツールの一つに、「一袋に付き1円が森林支援に」と印刷されたシールがある。1枚とって商品に貼り付ければ、その商品の製造や流通等のプロセスで排出するCO2の1円相当分をオフセットすることができる。1トン1万円のクレジットを活用した場合、1円分なら1トンを1万分割した「100g」分のオフセットになるわけだ。1シートには50枚分のシールがまとめて印刷されているから、50円分のクレジットとして利用者に購入してもらう。
通常、カーボン・オフセット・クレジットは1トン単位で取り扱われる。国の管理簿ではクレジット1トン単位で管理しているからだ。法人の事業活動を通じて年間で排出するCO2排出量の一部または全量をオフセットするといった場合には問題はない。ただ、一つの商品に対するオフセット量としては、1トンではかなりの過多になってしまう。そこで、EVIの帳簿上で管理するためのシステムを開発して、手軽に取り扱ってもらえるようにしようというわけだ。
例えば、リゾート内で販売される名産品や土産品に貼り付けると、それだけでカーボン・オフセットの取り組みをアピールできることになる。
加藤から「グリーン&クリーン・リゾート構想」の概要説明があったあと、質疑応答と意見交換の時間が設けられ、出席した会員から活発で前向きな意見が飛び交った。
いくつか紹介してみたい。
協会の監事を務めるホテルオーナーの阿部文秀さんからは、根幹にかかわる問題提起が投げかけられた。
「私自身は、今日初めて、このグリーン&クリーン・リゾート構想のことを知りましたが、この取り組みは協会のわれわれ会員が参加しないと始まらないものだと思います。その辺りのコンセンサスは、協会としてきちんと取れているのでしょうか」
協会長の村上博之さんからは、そのためのキックオフとして位置付けたのが今回の会合で、これから全会員に周知を図り、賛同を得ていきたいとの回答があった。
「会員がみんなで参加することなんだよという形にしないと恥ずかしい話になりますよね。今日ここに出席されている方は関心があって来ているんだと思いますが、協会としてやっているんだというのをきちんと示して進めていかないと、せっかくのチャレンジも失敗になってしまいます。ここには一部の人間しかいないわけですから、協会がきちんと発信して、全員に伝わるようにしてほしい。例えば、臨時総会を招集して、決議することも考えていいと思うんです」
総会になれば、欠席した人からの委任状も得られる。きちんと手続きを踏んで、協会としての取り組みにしていく必要がある、そんな意見だ。
ペンションオーナーの宮本さんからは、女神湖で進めるカーボン・オフセットの取り組みだから、女神湖の森のクレジットを使えるとより効果的だろうとの提案もあった。幸い、この周辺の森は町有林だ。この森を使ってクレジットを生み出し、それをこのグリーン&クリーン・リゾート構想で購入するクレジットとして活用する、そんなことも考えられるとよいのではないかとの提案だ。
クレジットを生み出すためには少なからずの経費もかかるが、数百万単位の経費が掛かるのは膨大な森林面積で数百-数千トン単位のクレジットを創出する場合だ。小規模なクレジット創出の場合、より低コストでできる可能性もある。EVIではJ-VERクレジットの創出に携わることはないが、やっている人たちのことはよく知っているから、紹介することはできる。
リゾートエリアにあるペンションやホテル、飲食店など多くの主体が参加するこの取り組みでは、参加の仕方にはいろんなパターンが考えられる。業種によっても違うだろうし、どこでオフセットするかを自由に選べるような柔軟性のある仕組みが提示できると参加もしやすい。
協会事務局長の吉澤隆一さんは、会員には基本的なコンセプトに賛同してもらったうえで、女神湖エリアの実情に合ったオフセットの取り組みメニューをいくつか提示して、まずはそのなかから選んで参加してもらえるよう準備をしていきたいという。それによって、最初のスタートを迅速にきっていこうというねらいだ。
日本の中心地・長野県から全国へ発信する、日本初!リゾートエリアの森林保護とCO2削減の取り組みモデル『グリーン&クリーン・リゾート構想』。今後の推移が注目される。
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