「Eco Value Interchange」バックナンバー
去る2015年12月17日、九州の大分県国東市で段ボール・クラフト「d-torso(ディー・トルソー)」の製造・販売を行っている株式会社アキ工作社は、株式会社トライ・ウッド(大分県日田市上津江町の総合林業会社)およびカルビー株式会社カルネコ事業部(事業部長加藤孝一)との3社共同で開発した環境貢献型商品『森の木組みシリーズ』の販売についてプレスリリースを行った。
第1段となった、「もりのたか(鷹)」「きのこのおやこ」「もりのきんぎょ(金魚)」の3作品は、それぞれ、空・地・水を象徴する作品で、“日本の森と水と空気を守る”EVIの活動に合わせたラインナップになっている。しかも、EVIのシステムを使ったカーボンオフセット商品として、商品価格の1%が、森林保全のために活用される。
「d-torsoシリーズは、もともとデザインを担当するアキ工作社が段ボールの板をレーザーカッターで部品に切り抜いて、組み立てる立体クラフトとして開発したシステムです。そのデザインを生かしつつ、素材を段ボールから、木製の板材に替えて作ろうというのが、d-torso『森の組み木シリーズ』のコンセプトです。つまり、これまで紙などの素材でなければできないとされていた製品を木製素材に替えて商品化するというテーゼなのです。それによって、少しでも国産木材のアピールや利用促進につなげようというわけです」
EVI推進協議会の加藤孝一は、d-torso『森の組み木シリーズ』の開発のねらいについてそう話す。
今回は、構想3年・商品化実現までさらに7か月を経てようやく本格販売に漕ぎつけた、この『森の組み木シリーズ』について紹介したい。
カリフォルニア州マウンテンビューにあるGoogle本社のエントランスには、高さ3mのクマと体長2.5mのヘラジカの実物大模型が飾られている。2012年春に設置されたこれらの作品は、株式会社アキ工作社が設計・試作したデータをもとに、ニューヨークにある木工房で加工したものを陸送し、現地で組み立てたものだという。
1998年に東京で創業したアキ工作社は、現在は社長の松岡勇樹さんの出身地である大分県国東市の廃校となった小学校を拠点に活動している。主力商品となっているのが、段ボール立体パズル「d-torso」シリーズだ。立体イメージをCTスキャンのように輪切状に切断・分解して、それらを再構築する。細密レーザー加工によって切り出した部品は、接着剤を使わなくても簡単に立体クラフトへと組み立てることができる。国内外の美術館やデザインセレクトショップなどで販売している。
これまで、市場リクエストに応えながら、ディスプレイやインテリア、特殊パッケージ、キャラクター雑貨、照明器具、ロボットなどへとデザインの領域を広げながら商品を開発してきた。100%植物由来の生分解性プラスチック(バイオプラスチック)を射出成形して作った「d-torso green(ディー・トルソー・グリーン)」や、国東半島の希少野生動物をデザインし売上の一部を国東半島の自然環境保護のため寄付する『国東シリーズ』など、環境保全を意識したシリーズもリリースしてきた。d-torso『森の組み木シリーズ』も、同社のこうした姿勢に合致する新シリーズの一つといえる。
d-torsoの木質化による『森の木組みシリーズ』の製品開発を担当したのが、同じ北部九州の大分県日田市上津江町にある株式会社トライ・ウッド。有明海に注ぐ一級河川・筑後川の源流域にある山林地帯に立地する林業総合会社だ。主な事業内容は、山の仕事を行う林産事業、山から伐採・搬出した木材を住宅用建材などに加工する木材加工事業、林業機械の販売・メンテナンスなど。これらの事業に加えて、製材端材や未利用間伐材など建材には利用できない端材・未利用材を使った小物やノベルティグッズなどの商品開発を行うエコ事業部がある。経営破綻した地元の会社から経営譲渡を受けて事業継承したこの事業部が、d-torso『森の組み木シリーズ』の製品化を担当した。
「最初にこのd-torsoという商品を木で製造できないかという話を伺ったときは、“これならすぐにできるだろう”と高を括っていたのですが、結果として数百体もの試作品を作るはめになってしまいました。木に携わったことのある人なら当たり前の話なんですけど、木には、割れる・曲がる・反る・収縮する・節があるといった特性があり、このため立体パズルの生命線となる木組みの接合部分を加工するのが非常に難しかったのです」
株式会社トライ・ウッドの総務企画部部長の渡邊雄一郎さんは、そんなふうに開発の苦労について話す。
いっときは、合板やMDFなどより寸法安定性の高い素材を使うことも考えたというが、消費者に木目や肌触り、木の香りなど本来の木が持っている素材としてのよさを伝えていきたいと、なるべく無垢材に近い形で商品化することをめざした。
結局、最初に話があってから3年、製品化までにはさらに7か月以上をかけて、ようやく完成したd-torso『森の木組みシリーズ』だった。
木材製品の持続可能な製造・販売を実現するためには、素材となる木材の産出にまで遡って、購入者の手元にまで届けられるまでのプロセスについて理解することが重要となる。建設用木材はもちろん、国産未利用スギ「d-torso」の材料も同じような構図にあると渡邊さんは言う。
「だいぶ端折って説明しますが、まず最初に、木を植えるところから始まります。植林後は、造林作業といって、木をまっすぐに生長させるための下草刈りをします。その後に除伐、つまり切り捨て間伐を行って植林本数を適正な密度に減らしていきます。簡単に話していますが、ここまでで15年以上の年月がかかっているのです。最終的に木を切って搬出するまでには40年から50年がかかる作業ですから、ここまでの作業はわれわれの前の世代の人たちがやってきた仕事です」
木の伐倒からが、現世代の仕事になる。まずは、バーベスターと呼ばれる高性能林業機械で3メートルから4メートルの丸太材に切っていき、これをフォワーダーという別の機械で山土場まで運んでいく。
こうして適切な間伐を行った森は、地面まで光が注ぐようになって植生が豊かになる。生物多様性が担保された“環境にやさしい林業”の成果だ。
「山土場に運搬した丸太材を、製材所に搬入して、製材を行うわけですが、このとき商品として使えるのは大体半分くらいで、残りの半分は端材品として、多くの場合は燃やすか廃棄されているのが現状です。うちの会社の場合、これらの端材を集めて接着剤で大きなブロックにして、それをスライサーという機械で0.20-0.4mmの薄さにスライスしていきます。木は1枚だけだと剛性があってすぐにバリっと割れてしまいますが、このスライス材5枚を貼り合わせることで弾力性を持たせ、長持ちする材料に加工しています」
貼り合わせただけの段階では、まだ1/100mm単位で凹凸があるため、均一にするためサンダーという機械で平らに磨いていく。このサンダーがけで厚みを均一化する作業に一番苦労したと渡邊さんは言う。
均一化した板をレーザー加工機で型抜きをして、ピースを切り抜いていく。できた部材が梱包され、顧客のもとに届けられる。
こうしてできたd-torso『森の組み木シリーズ』を使ってもらうことで、山に資金が還元され、次のサイクルの山づくりが始められるようになるわけだ。
自宅やオフィスに飾って森に思いをはせたり、大事な人へのプレゼントにしたりと、お一ついかがだろうか。
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