メインコンテンツ ここから

「Eco Value Interchange」バックナンバー

0202016.11.04UP“もっと身近に”をさらに一歩進めるために、“私たちにできること”をめざして-EVI環境マッチングイベント2016実施報告(1)-

EVIが預かる森林クレジットの全国カバー率。全国各地の90の森林は都道府県別にカウントすると81.8%のカバー率になる。
EVIが預かる森林クレジットの全国カバー率。全国各地の90の森林は都道府県別にカウントすると81.8%のカバー率になる。

 去る10月20日(木)、2012年から数えて第5回となるEVI環境マッチングイベント2016が開催された。主催は、この8月にカルビー株式会社カルネコ事業部から独立したカルネコ株式会社。今回は、その概要について紹介していきたい。
 EVI(Eco Value Interchange)とは、2011年3月に当時のカルビー株式会社カルネコ事業部が立ち上げた森林クレジットの流通プラットフォーム。開始当初には8か所の森が生み出した森林クレジットからスタートし、現在は日本全国90の森林クレジットを預かるまでに広がりを見せている。全国カバー率では都道府県単位で81.8%にもなる。
 これだけの幅広い森林クレジットが集まることで、森の支援をしたい人たち自身が、故郷の森や思い入れの深い森など支援対象の森を選んで支援することができる仕組みを実現したことが、EVIの大きな特徴のひとつだ。
 毎年恒例となったEVI環境マッチングイベントでは、そうした森林クレジットの流通促進をめざした取り組みを通じて出会った多くの実践者による先駆事例について、当事者自身の言葉でその成果とそこに至るまでの苦労や工夫について紹介・報告いただくものだ。
 前年に引き続いて、東京・丸の内の東京国際フォーラムB7ホールを会場にし、フリーアナウンサーの磯谷祐介氏と米森優子氏の軽妙な掛け合いによる司会で進行。これまで企業や自治体の関係者で占められていた来場者も、今年は一般参加者が60名を数えたと発表された(一昨年度2名、昨年度10名)。
 会場の盛り上がりの一端でもお伝えできると幸いだ。

EVI環境マッチングイベント2016の開催挨拶に立つカルネコ株式会社代表取締役社長の加藤孝一。2016年8月1日にカルビー株式会社からカルネコ事業部を独立させた新会社として新たなスタートを切った。
EVI環境マッチングイベント2016の開催挨拶に立つカルネコ株式会社代表取締役社長の加藤孝一。2016年8月1日にカルビー株式会社からカルネコ事業部を独立させた新会社として新たなスタートを切った。

司会を務めたのは、前年に引き続いて、磯谷祐介氏と米森優子氏のお二人。軽妙な掛け合いの司会進行で場を盛り上げた。
司会を務めたのは、前年に引き続いて、磯谷祐介氏と米森優子氏のお二人。軽妙な掛け合いの司会進行で場を盛り上げた。


待ったなしの温暖化対策!

 今年のEVI環境マッチングイベントのテーマは、前年の最終セッションで提示された「もっと身近に」。今回のプログラムは、下表のようにバラエティに富む。森林クレジットを活用した環境貢献の取り組みをもっと身近にするための先駆事例としてここ1年間で取り組まれてきた新たな事例を紹介するとともに、前段の基調講演等では、東京大学名誉教授で日本UNEP協会代表理事の鈴木基之さんやUNEP-FI特別顧問・国際金融アナリストの末吉竹二郎さんらが、国際的な動向も踏まえて今まさに求められる地球温暖化防止対策に向けた意識の転換について話をした。

日本UNEP協会代表理事の鈴木基之さんによる基調講演『地球有限時代のパラダイムシフト』。
日本UNEP協会代表理事の鈴木基之さんによる基調講演『地球有限時代のパラダイムシフト』。

 鈴木基之さんの基調講演では、『地球有限時代へのパラダイムシフト 発想の転換』と題して、地球の有限性と人間活動の影響について解説。いろいろなところで限界が見えてきていることをはっきりと自覚する必要があること、有限の中で肩を寄せ合ってみんなで取り組んでいくことためには、地球的な視野に立った取り組みが求められること、環境問題だけでなくさまざまな分野でパラダイムシフトが求められると話し、そうした状況についての詳細なデータ等を用いて、その意味と重要性について解説した。

 一方、末吉さんからは、ポストパリ協定の読み方について、金融界の動向を中心にした話があった。パリ協定の締結を推進したのはローラン・ファビウスCOP21議長の手腕だけでなく、温暖化の進行によってビジネスの基盤が成り立たなくなっていくと危惧する金融界の切実かつ積極的な働きかけが大きかったと力説する。
 金融業界では、これまで投資対象になっていた石油関連企業からの投資引き揚げ(divestment)がすでに始まっているという。その意味するところは、現在金融資産価値があるとみなされているものも一瞬にして価値を失うリスクがあるということ。排出が前提の“低炭素(low-carbonizaztion)”から、そもそも出さない“脱炭素(de-carbonizaztion)”へ価値観の転換が実際に動き始めているのが今の世界の現状であると、具体事例を紹介しながら紐解いていった。
 講演の最後には、「5/7300」という数値を示して日本政府の温暖化対策への姿勢を表現。臨時国会における安倍首相演説の全7300文字のうち、その他の施策として取りまとめられた中で「温暖化問題」のわずか5文字が言及されたに過ぎなかったと指摘する。石炭採掘の役割を終えて荒廃する軍艦島の姿を、日本の未来像を暗示するものとして紹介しつつ、話を締めくくった。

UNEP FI特別顧問で国際金融アナリストの末吉竹二郎さんは、ポストパリ協定の読み方について、金融界の動向を中心に解説。

 これらの講演の間には、NPO法人気象キャスターネットワーク理事長の藤森涼子さんによる『異常気象と地球温暖化 ──気象キャスターが取り組む地球温暖化防止活動』もあった。全国285人のキャスターが局の垣根を越えてつながり活動する同ネットワークの賛助会員の1社としてカルネコ株式会社が参画している縁で実現したセッションだ。
 気象キャスターは難しい話をわかりやすく伝えるプロとして、気象・環境・防災に関する専門家と市民との橋渡しを担うのがその役割だと藤森さんはいう。そうして日々、気象の予報や解説について伝えることを通じて、異常気象の多発を実感したのが、現在の活動を始めるきっかけになったという。
 平成16年の設立以来、12年間で延べ4200校以上での出前授業を始め、親子向けイベントや講演会・企業研修などを積み重ねてきた。
 今回のプレゼンでは、実際に授業で見せている『2100年未来の天気予報』の映像をもとに、藤森さんが臨場感あふれる実況をした。シミュレーションデータをもとに、2100年某日の最高気温や真夏日の日数、台風情報などの気象予報を実際のニュース番組さながらに伝える趣向だ。
 現実の気象データでも、昨今は国内の高温記録がどんどん塗り替えてきて、異常高温が出やすくなっていることも示された。多くの人が実感する通り、雨の降り方も変わってきている。降水量自体は自然な変動にあって急激に増えているわけではないが、局地化・集中化・激甚化と、極端化していることがデータからもうかがえる。雨の降り方は地球温暖化の影響によって新たなステージに突入している。
 今年度、気象キャスターネットワークでは、全国30校の小学5・6年生を対象にした無料出前授業を実施する『減災プロジェクト2016』を展開している。今まさに迫りくる温暖化の影響をより現実の出来事として多くの人たちに実感してもらうのがねらいだ。

NPO法人気象キャスターネットワーク理事長の藤森涼子さんは、『2100年未来の天気予報』の実況とともに、NPO法人気象キャスターネットワークの活動を紹介。局の垣根を越えて、全国各地から気象キャスターや気象予報士など285人が参画。気象、環境、防災に関しての知識普及啓発活動を行っている。
NPO法人気象キャスターネットワーク理事長の藤森涼子さんは、『2100年未来の天気予報』の実況とともに、NPO法人気象キャスターネットワークの活動を紹介。局の垣根を越えて、全国各地から気象キャスターや気象予報士など285人が参画。気象、環境、防災に関しての知識普及啓発活動を行っている。

EVI環境マッチングイベント2016のプログラム概要
EVI環境マッチングイベント2016のプログラム概要


ソフトバンクのエネルギー事業、道の駅「にちなん日野川の郷」、Poco'ceのeco部

ソフトバンク株式会社エナジー事業推進本部執行役員本部長・SBパワー株式会社代表取締役社長の馬場一さん。
ソフトバンク株式会社エナジー事業推進本部執行役員本部長・SBパワー株式会社代表取締役社長の馬場一さん。

 2011年11月に電力事業に参入したソフトバンク株式会社では、“情報革命で人々を幸せに”を掲げている。通信会社である同社が電力事業に取り組むようになったのは、電力がなければ通信事業が成り立たないことを突き付けられた東日本大震災がきっかけとなった。需要状況に適切に対応できる電力源の確保をめざしたのが最初のスタートで、電力自由化を機に電力供給を行うSBパワーも設立、2016年4月の電力小売完全自由化で一般消費者向けにも販売を開始している。
 今回の事例発表は、主に同社の電力事業の経緯と現状の紹介にとどまったが、再生可能エネルギー比率を高くした同社の電力供給サービスの中に、EVIシステムを通じた森への資金還元の仕組みを組み込むことができれば、さらなる環境意識の向上につながることも期待できる。そんな枠組みの実現に向けて協議が続いているという。

 本連載の第18回「日本初!CO2排出ゼロをめざす道の駅『にちなん日野川の郷(ひのがわのさと)』(鳥取県日南町)がオープン!」でも紹介した、日本初カーボン・オフセット道の駅『にちなん日野川の郷』について、鳥取県日南町役場農林課林政室の島山圭介さんから事例報告された。
 豊かな自然とのかかわりの中で、“多くの人に自然の恵みを届けたい”という思いの詰まった道の駅として環境にとことんこだわって整備されることになった道の駅「にちなん日野川の郷」。構想から実現までにおけるEVIのかかわりについては、第18回の記事をご参照いただきたい。
 4月に稼働を開始して早くも半年、8月の1か月間の森林支援協力金の合計額は46,478円、日南町J-VERクレジットによるオフセット量は約5.8t-CO2分になる。4月からの累計では、172,242円、21.5t-CO2になる。一方、道の駅の運営では、照明器具すべてにLED照明を導入するほか巡回バスに電気自動車を取り入れるなど削減努力を図り、その上で発生する年間排出量の約150t-CO2を全量オフセットする。

商品ラベルやレシートに表示されたカーボン・オフセット協力金と森への支援。
商品ラベルやレシートに表示されたカーボン・オフセット協力金と森への支援。

店内に表示している森林支援協力金の報告。
店内に表示している森林支援協力金の報告。

 この道の駅をはじめとする日南町での1泊2日のエコツアーを実施したのが、都内地下鉄駅で毎月12万部を発行する女性向けのフリーマガジン『Poco'ce』によるeco部の取り組みだ。2016年4月から読者参加型の企画としてはじまったeco部では、気軽に参加してもらえるイベントやSNSでの交流を通した読者参加型のエコ活動を毎号見開き2ページの特集ページと連動して実施している。コンセプトは「楽しみながら環境貢献 森と水と空気を守る活動」。改めて環境を守ることの大切さ、そしてそこに関わる人たちの思いや努力を、取材を通じて実感しているというeco部部長の橘由夏さんが、ツアー当日の様子を映像にまとめたビデオクリップとともに、eco部の活動について紹介した。
 2016年7月8日-9日にかけて実施したこの日南町エコツアーでは、初日にヘーゼルナッツの苗100本の植栽体験。差し入れの日南町ミネラルウォーターで喉を潤ながらの作業で汗を流した。第14回で紹介したエコファームHOSOYAの田んぼの一角を借りて5月から始めていたeco部の米づくりの生育状況も見学。その後、秋を迎えて収穫されたお米については11月号で特集している。
 夜は豊かな自然を持つ日南町の食材に舌鼓をうち、ゲンジボタルとヒメボタルが同時に見られるホタル観賞会。
 2日目は、古民家での野菜の収穫と昼食づくりを体験した後、最後に旅の醍醐味、ご当地ショッピングを楽しむために向かったのが、カーボン・オフセット道の駅「にちなん日野川の郷」。EVIの環境貢献型商品を手に取って・見て、買い物を通じた環境貢献に初めて向き合ったという参加者からの声も聞かれたという。

eco部の活動を紹介する『Poco'ce』のブース。


(次回に続く)


このレポートは役に立ちましたか?→

役に立った

役に立った:0

Eco Value Interchange

「Eco Value Interchange」トップページ

エコレポ「Eco Value Interchange」へリンクの際はぜひこちらのバナーをご利用ください。

リンクURL:
http://econavi.eic.or.jp/ecorepo/together/series/35

バックナンバー

  1. 001「豚ふん堆肥燃料でカーボンオフセット? ー削減系クレジットで日本の第一次産業を支える」
  2. 002「さらなるCO2削減につながる事業にJ-VERを活かして」 -南アルプス市のカーボンオフセット付き農産物と市民参加のわくわくエコチャレンジ-
  3. 003「わが身の安全と、被災地支援とをつなげる試み」 -『ともに生きる!』ひろげよう防災の輪!復興支援キャンペーン-
  4. 004「身のまわりで使うあらゆるものを国産木材のものに置き換える」 -木の出口のための“森のめぐみのおとりよせ”のラインアップ-
  5. 005「カーボンオフセットでつながる企業と人 ―森を支える仕組みづくりを育む『EVI環境マッチングイベント2013』」
  6. 006「カーボン・オフセットを付けて、未利用食材や特産品の商品価値を向上」
  7. 007「妖精が棲む湖のリゾート地から、森林保護とCO2削減の取り組みモデルを全国に発信!」 -女神湖グリーン&クリーン・リゾート構想-
  8. 008「小さな一歩を集積して、大きな力をともにつくりあげるための新たな仕組みづくりをめざして」 -環境マッチングイベント2014報告記・その1-
  9. 009「点を線につなげ、線を面に広げる取り組みをめざして」 -環境マッチングイベント2014報告記・その2-
  10. 010「日本の森と水と空気を守りに、EVIは今日も東へ西へ…」
  11. 011「“未来の大人たちは、環境を守る”に向けて、今なすべきこと」 -EVI読み聞かせ絵本シリーズのめざす、環境教育の形-
  12. 012「環境貢献型商品を開発するだけでなく、売りにつなげるための場と仕組みをつくる」
  13. 013「EVI環境マッチングイベント2015へのいざない」
  14. 014「EVIを活用した、水田農業による地域活性化の取り組みと環境貢献」 -エコファームHOSOYAの取り組みより-
  15. 015「地域密着の食材屋だからできる、“地域の台所”としての役割」 -「第5回カーボン・オフセット大賞」の特別賞を受賞したEVIがサポートする環境貢献の事例-
  16. 016「未利用木材を活用した立体パズルの開発で、森林管理&地域活性化をめざす」 -株式会社トライウッド&株式会社アキ工作社と取り組んだ3社共同の事例-
  17. 017「環境貢献型商品の開発に向けて、ラベルデザインや資材調達などトータルにサポート」 -信州・松代、真田十万石の歴史を生かすNPO法人杏っ子の里ハーモアグリとの協働事例-
  18. 018「日本初!CO2排出ゼロをめざす道の駅『にちなん日野川の郷(ひのがわのさと)』(鳥取県日南町)がオープン!」
  19. 019「プロモーション活動を通じた環境貢献の取り組みをサポート」 -POP・外装材の製作時CO2排出量を全量カーボン・オフセットするカルネコの “CO2排出ゼロ宣言”-
  20. 020「“もっと身近に”をさらに一歩進めるために、“私たちにできること”をめざして」-EVI環境マッチングイベント2016実施報告(1)-
  21. 021「これまでのマッチングイベントと一味違う、環境パフォーマンス&環境落語の披露」 -EVI環境マッチングイベント2016実施報告(2)-
  22. 022「高校生たちによるカーボン・オフセットの取り組み(1)」 -愛知県立南陽高等学校 Nanyo Company部の事例-
  23. 023「高校生たちによるカーボン・オフセットの取り組み(2)」 -東京都立つばさ総合高校「ISO委員会」の事例-
  24. 024「いよいよビッグネームがカーボン・オフセットにも参入」 -EVIのコラボで森林支援を組み込んだソフトバンクの『自然でんき』-
  25. 025「EVI環境マッチングイベント2017、開催へ」 -「私たちにできること。」に向けたさまざまなヒントを提示-

前のページへ戻る