「Eco Value Interchange」バックナンバー
三上さんの登壇に合わせて、来場者にプレゼントされる「EVI環境マッチングイベント特選米・海と天地のめぐみ米」(1kgパック)の紹介をする、司会の磯谷祐介さんと米森優子さん。
来場者に配布した、EVI環境マッチングイベント2015特選米。ラベルの左上にEVI及びFun to Shareのロゴマークが表示されている。
前回のエコレポで紹介した通り、去る10月19日(月)に、通算5回目となるEVI環境マッチングイベント2015が開催された。今回のテーマ、『ともに、創ろう!』は、前年のクロージング・セッションでEVI推進協議会の加藤浩一が会場全体に呼び掛けた言葉だ。今回のEVI環境マッチングイベント2015では、この呼びかけをもとに、この1年間でともに創り上げてきた全国各地の環境貢献の取り組みについて、事例報告があった。
そして、今年のクロージング・セッションで加藤が呼びかけた言葉が、『もっと、身近に』だった。2016年は、10月20日(木)に東京国際フォーラムの同じ会場での開催を早々に宣言し、これから1年間かけてこの『もっと、身近に』に向けた取り組みを進めていこうというわけだ。
今年(2015年)のプログラムの全体構成及び各プレゼンターとその発表テーマは、前回記事およびEVI公式サイトのプログラムを参照していただくとして、今回から数回にわたって、事例報告等をしたEVIのパートナーそれぞれの活動の概要や特徴及びEVIを活用した環境貢献等の具体的な展開と成果について、マッチングイベント当日の様子も交えて紹介したい。
初回となる本記事では、鳥取県日南町から遠路はるばるお越しいただいた、農事組合法人エコファームHOSOYAの事例を取り上げる。当日は、海藻有機肥料特別栽培米『海と天地のめぐみ米』のおいしさを感じてほしいと、来場者1人1人に1kg入の米袋をプレゼントする、大盤振る舞い。「EVI」と「Fun to Share」【1】のロゴマークが入ったラベルは、EVI推進協議会事務局を担うカルビー株式会社カルネコ事業部の制作によるものだ。当日の事例報告に登壇したエコファームHOSOYA代表理事の三上惇二さんは、活動の概要とお米づくりにかける思いについて話した後、お試しとして参加者全員に配布するお米の買い上げにもぜひ協力をお願いしたいと力強く話して、発表を締めくくった。
「本日、参加者の皆様にお米を配布しております。注文用紙も添付させていただきましたので、どうかご注文をお願いできればと思います。皆様のお買い物によって、農業・森林(もり)・海・川、そして地域が変わります。どうか今後とも、こういった商品のお買い上げにご協力いただけますよう、よろしくお願いをいたします」
三上さんの発表でも説明のあった、日南町の地域特性やエコファームHOSOYAの米づくりの様子について、以下に紹介したい。
鳥取県は、山陰地方の東に位置し、全国47都道府県の中で7番目に面積が小さく、人口は最も少ない。その南西端にある面積約340km2の森林地帯に立地するのが、日南町だ。中国山脈の千メートル級の山々が連なる中山間地域にあって、岡山県・広島県・島根県の3つの県に接する県境の町でもある。県面積の約10%を占め、うち林野面積は町域の約89%にもなる。人口は約5千人で、高齢化率48%と過疎・高齢化が進む。町の基幹産業でもある農業も、後継者不足による高齢化が深刻化している。
「農業に対する住民の意識は、きつい・儲からない・農業をするだけ損が出るといった状況です。10年前には8億円くらいあった米の販売高も、今や4億円を切っています。管理者がいないため荒れた水田も目立ってきていますから、こうした現状を何とか打破したいということで、農事組合法人エコファームHOSOYAを設立したのです。それまでの自己完結型の農業を、平成18年には集落農営による組織化、さらに24年には法人化と進めていきました」
三上さんは、エコファームHOSOYAの設立の経緯についてそう話す。
同法人は、“21世紀は環境の時代”ということで、環境にやさしい循環型農業に取り組んでいる。日南町は、昼夜の寒暖差が18℃にもなるが、そんな立地を生かしてギュッと旨味を封じ込む(天の恵み)とともに、中海の浄化で採れた海藻有機肥料の活用(海の恵み)や、きれいな水と土づくりへのこだわり(山の恵み)などによって美味しい米づくりをめざそうというわけだ。
島根県との県境にある中海は、発達した砂州が日本海に開いた湾の入り口をふさいだことで形成された潟湖で、渡り鳥の生息として、平成17年11月8日にラムサール条約に登録された。近年は、海藻が繁茂して水質悪化や生態系への悪影響を招いてきたため、流入規制をはじめとする対策が行われている。そうした中、水質浄化を目的に、地元NPOによる海藻の採取・除去活動が行われており、除去した海藻の処分が課題になっていた。そこで、海藻を乾燥して堆肥に加工して、水田に漉き込んで活用する循環型農業の取り組みが、日南町海藻米研究会によって平成19年に始まった。海藻肥料はカリウムなどのミネラル成分が豊富で、米の食味向上にも役立つことがわかってきており、今や町内で65haまで拡大している。このうち、エコファームHOSOYAが耕作する水田は、約20ha。次から次へと、「うちの田んぼもやってほしい」と耕地面積は増えてきていったという。
おいしい米を知ってもらうための取り組みとして、水田オーナーズ制度も実施している。田植えや稲刈りを体験してもらい、それ以外の時期の水田管理や収穫後の乾燥と発送などを三上さんたちが担うとともに、オーナーとして申し込むグループや家族などの交流の場を設けている。
「個人のオーナーさんもいらっしゃいますが、企業さんが社会貢献や環境貢献の一環として循環型米づくりを支援していただく例も少なくありません。できたお米は、社内の組合員に福利厚生の一環として配ったり、お得意様にお中元やお歳暮として配ったりとご活用いただいているようです」
これらの取り組みの主な成果として、地域に活気が戻ったという実感があり、若い農業者の雇用と後継者の確保も進んできたと三上さんは話す。それとともに、各地のコンテストで入賞したことで知名度が向上したことも成果の一つだ。さらに、大口事業者による消費拡大も進んでいる。現在は、大阪のレストランやホテル、デパートなどにも米を卸している。
EVI環境マッチングイベント2015の当日、ブースエリアにまわるとエコファームHOSOYAの出展ブースでは、プレゼントのお米を受け取る人たちの列ができていた。お米を配っているのは、Iターンによってこの春からエコファームHOSOYAの職員になった矢吹健太郎さん。三上さんのプレゼンの中で、“若い農業者の雇用が進んできた”という、まさにその1つの実例だ。
「農業に対する関心はまったくなかったのですが、ボランティア活動をしていたのがきっかけで日南町に来ることになりました。それでこの地域の農業の現状を知ることになったのです。身体を引きずりながら農作業をしている80歳のおじいちゃんの姿を見て、自分もなにかしなきゃいけないと決意を固めたのです。この街に住んで農業に貢献しようと2010年に移住してきました。最初は今もエコファームHOSOYAと協力関係にある別の農業の会社に就職したのですが、この春からエコファームHOSOYAの構成員として働き始めています」
三上さんたちの地道な取り組みが実を結んだといえる。こうした状況について、三上さんは次のように話す。
「地域だけでは後継者が確保できないのです。それぞれ仕事を持っていて、なかなか専業でやっている人はいないんです。日南町は、行政としても、Uターン・Iターンに取り組んでいますので、都会の人が田舎に入ってくる例も増えてきました」
EVIとエコファームHOSOYA出会いのきっかけは、日南町で現在準備中の「道の駅」構想【2】にEVIが協力することになったことに端を発する。道の駅で扱う地域の農産物等を紹介された中の一つに、エコファームHOSOYAの“おいしいお米”があった。初めて三上さんのもとを訪ねたのは、2015年7月5日のことだった。
「エコファームHOSOYAのお米は、オーナーズ制度とレストランやホテルをはじめとする高付加価値販売によってほとんど残らないとおっしゃるのですが、残ったほんのわずかで構わないので、EVIショップ【3】で販売させてほしいとお願いしたのが始まりでした。4県の境界の水源の地にあって寒暖差も激しいから味は抜群ですし、中海を保全する海藻肥料栽培という共感できるストーリーがあるお米ですから、目玉商品の一つとして紹介できますよね。三上さんもEVIの活動を評価してくださって、EVIと連携した取り組みについて前向きに捉えてくださいました」
三上さんとの出会いについて、加藤はそう振り返る。
はじめは手探りの中で試行錯誤していた海藻肥料による米づくりも、結果として大変おいしいお米ができるようになったということで、規模も拡大していった。そんな姿を見ていて仲間に入れてほしいという地域の農家の人たちも増えてきていて、新たな販路の開拓も必要になってきているのだという。そうした中で、オーナーズ制度に近い形で協賛してもらえるような企業等を募っていく仕組みづくりのチャレンジをいっしょにしてもらえないかという相談だった。
そんな縁から始まったEVIとエコファームHOSOYAのコラボレーションは、まだ始まったばかりだが、こうした取り組みが重なっていくことでEVIの質的な変容を実現していくことが期待される。
これまで、カーボンオフセット・クレジットの預託と活用を中心にしたEVIの環境貢献プラットフォームは、環境貢献型商品の開発と販売を通じた地域活性化プラットフォームとして、より大きく世の中の人々に役立つように形を整えてきていると加藤は言う。エコファームHOSOYAと連携して進めるこの事例は、そんなEVIの進化と意欲的な試みを示す好事例といえる。そんな、森を支援する環境貢献型の商品・サービスが世の中へと広がっていくことで、“もっと、身近に!”が実現していくことになる。
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