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「ミュージアムグッズを入り口に」バックナンバー

0172026.01.20UP【四国水族館】来館者とのつながり「黒板マグネット・Tシャツ」

細かい解説はグッズでも健在!

 四国水族館の飼育スタッフが手描きで制作している、情報量の多い黒板解説が、マグネットやTシャツとして販売されています。SNSで販売開始が告知されるや否や、大きな反響を呼んだミュージアムグッズです。その背景には、「四国水族館といえば飼育員手描きの黒板解説」という評価が定着していることがあります。館内の水槽前には、担当スタッフが来館者に伝えたいことを描いた黒板解説が設置されており、展示の一部として親しまれています。
 黒板マグネットに関して、現時点で販売されているのは6種類。イルカのプログラムでトレーナーが示すサインやホイッスルの役割を紹介した「イルカプレイングタイム」、縄張り意識が強く釣り人や漁師から「主(ぬし)」と呼ばれる魚を紹介した「瀬戸内のヌシの景」、ダイバーから“海中のお花畑”と呼ばれるサンゴが群生する宇和島の海を紹介した「海中のお花畑の景」、釣り人のあこがれで汽水域を好む巨大魚・アカメを紹介した「巨大魚の景」、水深が深い室戸岬東側に生息する深海魚を紹介した「深海底の景」、そして「日本三大地金魚」の一品種であり、高知県の天然記念物に指定されているトサキンを紹介した「土佐錦魚」です。黒板Tシャツは「イルカプレイングタイム」「瀬戸内のヌシの景」「土佐錦魚」の3種類です。
 細かく書き込まれた文字や生き物の絵の表現は、マグネットやTシャツに縮小されても情報量が失われず、実にリアルです。自宅に持ち帰って冷蔵庫に貼ったり、お出かけの際に着てみたりするだけで、水槽の前に立って解説を読み込んだあの時間が、ふとした瞬間によみがえります。


黒板マグネット 各660円(写真提供:四国水族館)

黒板マグネット 各660円
(写真提供:四国水族館)

黒板Tシャツ 各3,650円(写真提供:四国水族館)

黒板Tシャツ 各3,650円
(写真提供:四国水族館)


コロナ禍に生まれたコミュニケーションのかたち

 一般的な魚名板を設置しない展示構成を採っているのが、四国水族館の特徴です。その代わりに、飼育員による手描きの黒板解説が館内の各所に配置されています。一見すると素朴な手描きの掲示にも見えますが、そこに描かれている内容は非常に緻密です。生きものを日常的に観察し、その変化を間近で見続けている飼育員だからこそ、形や動きの細部まで的確に表現することができるのでしょう。解説文にも、生きものの特徴や行動にまつわる豆知識が盛り込まれ、読み物としても楽しめます。こうした黒板解説は、展示空間を構成する視覚的要素として、四国水族館を静かに彩る存在でもあります。
 このような手描きの解説も、ミュージアムにとっては大切な財産のひとつです。特に水族館では、生き物そのものの姿がグッズのモチーフになりやすい傾向がありますが、一方で、飼育員をはじめとするスタッフの中には、絵を描くことや写真を撮ることに長けた人も少なくありません。そうした「飼育員が生み出した表現」を資料の一種として捉え、展示解説に生かすだけでなくグッズ化までしている点こそが、このマグネットの見どころだと言えるでしょう。
 四国水族館の黒板解説は、コロナ禍において来館者と対面でのコミュニケーションが難しくなった時期に、生きものたちの情報を伝える新たな手段として設置されたのが始まりです。
 同館では、各水槽に額縁装飾を施し、水中世界そのものを風景アートとして見せる展示構成を採っています。そのため、一般的な水族館で見られる魚名板は、あえて設置していません。当初は、飼育スタッフが水槽前で来館者と直接言葉を交わしながら、生きものの魅力を伝えることを想定していましたが、COVID-19の感染拡大により、その機会を設けることができなくなりました。
 そこで代替手段として生まれたのが、飼育スタッフによる手描きの黒板解説です。各水槽の担当スタッフが、日々の飼育の中で気づいたことや、特に注目して見てほしいポイントを、それぞれの言葉と絵で表現しています。生きものを日常的に観察しているからこその描写は来館者からの評判も高く、今では四国水族館の魅力を語るうえで欠かせない存在となっています。


確かに手書きのほうがしっかり読みたくなっちゃうかも。(写真提供:四国水族館)

確かに手書きのほうがしっかり読みたくなっちゃうかも。
(写真提供:四国水族館)


黒板マグネットもミュージアムのメディア

 黒板マグネットが興味深いのは、単に解説内容を小さく再現している点にあるのではありません。そこに刻まれているのは、生きものを見つめ、言葉を選び、来館者に伝えようとした飼育スタッフのまなざしそのものです。コロナ禍という制約の中で生まれた黒板解説は、展示を補足するための代替手段であると同時に、来館者との関係をつなぎ直す装置でもありました。その記録がマグネットという形で残され、日常の空間に入り込むことで、ミュージアムでの体験は館外へと静かに延びていきます。このマグネットは、展示の「お土産」であると同時に、ミュージアムと来館者の関係を持ち帰るための、小さなメディアなのです。
 黒板マグネットの価値は、ミュージアム体験や飼育員の仕事を使い捨てにしない試みにあるのではないでしょうか。展示を見て、解説を読み、その場で終わってしまいがちな体験を、マグネットというかたちで日常空間に持ち帰ることで、記憶や理解は何度も呼び起こされます。同時に、黒板解説に込められた飼育員の観察や判断、言葉の選び方は、「その場限りの説明」ではなく、記録として次の場所へと引き継がれていきます。
 この黒板マグネットは、四国水族館と来館者との関係を館外へと延ばし、ミュージアム体験そのものをサステナブルにする、ミュージアムと来館者の関係を静かに媒介するメディアとして機能しているのです。


こんなにみっちり書き込んでいる黒板!そりゃ欲しいですよね。(写真提供:四国水族館)

こんなにみっちり書き込んでいる黒板!そりゃ欲しいですよね。
(写真提供:四国水族館)


参考HP

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