今回紹介するミュージアムは岩手県にある奥州市牛の博物館。その名の通り、牛にまつわる専門のミュージアム。もちろん牛のミュージアムグッズが豊富で興味深いのです。牛の胃袋が描かれたTシャツ、前沢牛肉の霜降りが美味しそうな一筆箋、館内に展示されている牛の標本が載ったマスキングテープ……個性的ですが、ミュージアムでの学びを心にとどめて置けるものばかりです。
SNSで話題になったミュージアムグッズで、「牛品種手ぬぐい」があります。色は赤と紺の2種類があり、絵柄はもちろん牛。国内外の牛の品種11種類がイラストになった、何ともマニアックな手ぬぐいです。「ホルスタインしか知らなかった」「キラリっていう品種がかわいい!」などと、一見した感想は様々かと思います。そして、このミュージアムで牛について学び親しんだ後だと、「品種改良技術ってこんなに発展してるんだな」「気候や環境、牛とのかかわり方が違えば、育まれる品種も違うんだね」などと、より一層欲しくなってしまうこと間違いなしです。
奥州市牛の博物館は「牛にかかわる歴史、芸術、民族、自然科学等及び郷土に関する資料の調査、研究、収集、保管、展示を行い、市民の皆さんの教育、学術及び文化の発展に寄与する」ことをミッションとして、日々調査研究や教育普及活動に取り組んでいます。
牛にまつわる専門のミュージアムがあること自体にも驚きますし、展示を見ると牛専門でありながらそのテーマの幅広さにも驚きます。展示室は「ウシの生物学」「牛と人とのかかわり」「牛の里前沢」という3つに分かれています。
「ウシの生物学」では、ウシという生き物がどのような進化を遂げてきたのか、世界的にどのような種類がいるのかなどが、骨格標本や人工授精技術の紹介も交えながら展示されています。「牛と人とのかかわり」では、労働力としての牛と人との関係性や、信仰の対象としての牛を紹介しています。郷土玩具や工芸品も展示されています。「牛の里前沢」では、奥州市の特産品である前沢牛の発展の歴史や、地域の歴史が展示されています。
企画展も興味深い内容ばかりで、毎回駆け付けたいくらいです。特に気になっていたのは、2018年に開催された「牛の博物館第26回企画展 牛飼いたちの仕事─飼養管理の昭和史─」。道具の変化を通じて畜産業の発展を探る、その専門性が魅力的です。
「もしも人類がウシを家畜として伴侶に持たなかったなら、人類文化の発展は確実に500年以上は遅れたであろう」というミュージアムのメッセージにもあるように、私たちの暮らしは牛がいなければ成り立ちません。その割に私たちは牛のことを、牛と私たちの関わりのことをあまり知らないのではないでしょうか。
筆者の、すごく個人的な話をさせてください。私の父は畜産に関係する仕事をしています。畜産業の方々と共に働き、どうすれば牛が健康に生きられるのか、どうすれば経営が安定するのかを考え続けています。畜産に限らない話だと思うのですが、生き物と共に生活をし、仕事として発展させるのは並大抵のことではありません。本当に大変な仕事だと思います。展示室「牛と人とのかかわり」では、牛の安全を願い神様として祀る様子も紹介されています。父や畜産業の皆さんの働く姿を踏まえこの展示室と向き合うと、信仰の対象にすることも頷けます。
畜産に従事している方にお会いする機会が少ない方も、ぜひこの博物館でその歴史や関わり方を学んでみてほしいです。そして、スーパーに並んでいる牛乳や牛肉、乳製品などを手に取るその一瞬、博物館での体験を思い出してみてほしい。牛に支えられている自分の暮らしを想うきっかけになればと思います。
牛品種てぬぐい・・・モウ、欲しくなりました。
(2022.06.02)
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