2021年に熊本市現代美術館で開催された展覧会「こわいな!恐怖の美術館」。この中で熊本在住のイラストレーターであるコーダ・ヨーコさんにより発表されたのが、パネル作品「どうぶつたちもこわかった」です。2016年の熊本地震で被災した熊本市動植物園の復興までの歩みを描いた内容で、海外からの来館者も興味深く鑑賞していたとのこと。このパネル作品が英訳付きの絵本になり販売されました。熊本市動植物園が復旧するまでの軌跡を描いたノンフィクションで、実際に現地での取材を経て完成させた作品です。
筆者も2018年には北海道胆振東部地震を経験し、2011年の東日本大震災では家族が被災しました。どちらの経験でも、長引く余震やライフラインの停止で不安な日々が続いたのを覚えています。そして熊本地震の際は動物園の動物たちも地震に怯え、心的影響を受けたのでした。そんな動物たちのために復旧作業に尽力した、飼育員や獣医師の皆さんの取り組みも学べるようになっています。
筆者がこの絵本と出会ったきっかけは、2023年11月25日から2024年3月30日まで銀座7丁目のMMM(メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド)で開催された、“artscape×MMM
全国の美術館学芸員とセレクトした「会話がはずむ、もらって嬉しいミュージアムグッズ」”というイベント。日本各地のミュージアム5館(モエレ沼公園 / 府中市美術館 / 鳥取県立博物館 / 福岡市美術館 /
熊本市現代美術館)にご協力をいただき、筆者や学芸員が選んだミュージアムグッズを展示、販売しました。その際に、熊本市現代美術館のブースでこの絵本が紹介されていました。
熊本地震は2016年4月の前震と本震で震度7を記録し、園内で地盤沈下や液状化が発生。獣舎も破損しました。シマウマは寝室の壁にぶつかり顔に傷を負い、チンパンジーは10日間も食欲が戻らなかったとのことです。現場は想像を絶する状況だったことでしょう。動物園や水族館関係者にこの絵本をお見せする機会もあるのですが、もれなくみんな涙目になります。9月から園内の復旧工事が始まり、部分開園に至ったのは2017年2月でした。
2024年1月には能登半島地震が発生し、石川県七尾市にあるのとじま水族館が被災しました。いしかわ動物園、富山市ファミリーパーク、新潟市水族館マリンピア日本海、越前松島水族館が動物の緊急避難を受け入れ、公益社団法人日本動物園水族館協会などでは復旧を助けるための見舞金も受け付けていました。
このような災害に対してミュージアムグッズはどんな役割を果たすのでしょう。石川県金沢市の泉鏡花記念館では、限定ミュージアムグッズの売上を日本赤十字社石川県支部を通して、令和6年能登半島地震災害義援金に寄付する取り組みが行われていました。
金銭面での応援だけでなく、災害の記憶を伝える取り組みも重要です。この『どうぶつたちもこわかった』のように、絵本という形に残せば大人から子どもまで読むことができ、生き物の命を支える人たちの想いが伝わります。動物園側にとっては、日頃から動物園を応援してくれる味方を増やすことにつながるのではないでしょうか。
本連載の第1回で私は、ミュージアムグッズには博物館が「大切にしているもの・こと」「守っているもの」へと関心をむける役割があると述べました。動物園にとって何より大事な動物たちの命。この『どうぶつたちもこわかった』も、それらをどう守っているのかが伝わる重要な存在であると言えるでしょう。
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.