ミュージアムグッズは博物館のエンドロールだ、と、私は拙著『ミュージアムグッズのチカラ』で述べました。展示を見た後でミュージアムショップで買い物をし、博物館で得た感動を持ち帰ることができます。
ですが、新型コロナウイルスの影響下にある昨今、私は「博物館の入り口としてのミュージアムグッズ」という役割に注目しています。
2020年より前も、ミュージアムグッズは展示の広報的な役割を担い、首都圏の大型企画展などではSNSを中心に集客のために活用されてきました。しかし現在は展示会場の混雑を防ぐため、時間予約や事前予約による展示室への入場が中心になっています。さらに、博物館自体の休館、展覧会期中での途中閉幕なども見受けられます。今や集客だけを目的としたミュージアムグッズの役割は、影を潜めざるを得ない状況にあると言えるでしょう。
私の考える「入り口」とは、博物館が「大切にしているもの・こと」「守っているもの」へと関心をむけることを指しており、ミュージアムグッズにはそのポテンシャルがあると考えています。
では博物館は何を大切にし、何を守っているのでしょうか。
まずは博物館の定義を見てみましょう。ICOM(国際博物館会議)規約第3条第1項によると、「博物館とは、社会とその発展に貢献するため、有形、無形の人類の遺産とその環境を、教育、研究、楽しみを目的として収集、保存、調査研究、普及、展示する、公衆に開かれた非営利の常設機関である。」となっています。栗原(2021)も「博物館の専門家ではない人たちが、一般的に博物館といって思い浮かべるのは、展覧会などの「展示」機能だ。しかし、それだけでなく、背後には収集、保管、調査研究機能がある。」と述べています。そもそも博物館は調査研究のための施設でもあり、その成果を私達は展示を通じて見ることができるのです。
そして博物館には使命があり、どの博物館も自身の館の社会的な役割や目標を掲げています。一例として、大阪市立自然史博物館のミッション(使命)の一部を抜粋して見てみましょう。
大阪市立自然史博物館は、展示や観察会などの教育普及活動を行なって市民のみなさんに自然を知り学んでもらうためのきっかけを提供し、自然と人間の調和した未来をともに追求していくための施設です。そして学芸員はこのために絶えず自然について調べ、資料を集め、保管し、その成果を展示・教育普及活動を通じて市民に還元しています。
このように、それぞれの博物館には使命があり、社会において果たすべき役割や、調査対象があります。これらは博物館のホームページなどで公開されています。お出かけの前にチェックすると、博物館が「守っているもの」「大切にしているもの」がわかるのでおススメです。
そんな大阪市立自然史博物館では、オリジナルのミュージアムグッズの多くを認定NPO法人大阪自然史センターが制作しています。調査研究の成果が反映されたグッズが数多く展開されているので、博物館と連携したもの作りをされていることが分かります。例えば、第51回特別展「大阪アンダーグラウンド」のミュージアムグッズでは、「アンダーグラウンドTシャツ」が販売されました。クジラ、ナウマンゾウ、マチカネワニ、メタセコイアや貝の化石のイラストが描かれ、どれも大阪の地下から実際に発見されています。デザイン的な美しさと学術的な正しさが両立したTシャツで、まさに大阪市立自然史博物館の使命にある通り、「自然を知り学んでもらうためのきっかけ」となるグッズです。
「大澤さんの考える良いミュージアムグッズとは何ですか?」「これからのミュージアムグッズの役割は何ですか?」と、取材等を通じて問われることも多いです。その質問には、博物館の使命を体現したミュージアムグッズに着目していると答え、「博物館の入り口としてのミュージアムグッズ」という役割の重要性を説いています。博物館が日頃どのような活動をしているのか、ミュージアムグッズを手に取れば伝わってくるのが理想です。
本連載でも上記の内容を踏まえ、ミュージアムグッズを入り口としながら博物館活動を紹介していきます。美術館、自然史系博物館、人文系博物館、動物園、水族館…など、様々なジャンルの博物館の取り組みを、楽しみながら手に取れるミュージアムグッズと共に紹介します。どうぞご期待ください。
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