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「暮らしに役立つ食と防災」バックナンバー

0132026.10.06UP小清水町フェーズフリーツアーで見つけたまちの力

 「フェーズフリー」とは、身のまわりにあるモノやサービスを、日常時だけでなく非常時にも役立てようという考え方です。一般社団法人フェーズフリー協会では、この考え方の普及や認証事業などを行っています。
 「フェーズフリー認証」は、商品やサービスが持つ日常時と非常時の価値を審査し、認証する制度です。また、「フェーズフリーアワード」は、フェーズフリーの考え方に基づく優れた事業やアイデアを顕彰するものです。
 今回は、フェーズフリーアワード2026の事業部門でオーディエンス賞を受賞した、北海道東部のオホーツク海に面する小清水町の「フェーズフリーツアー」をご紹介します。

小清水町のフェーズフリーツアーとは

 2026年7月30日から31日までの2日間、私は「小清水町フェーズフリーツアー2026」に参加しました。8月27日から28日にも開催されたこのツアーは、ツアーそのものがフェーズフリー認証を取得しています。コンセプトは「いつもを旅する、もしもに気づく」。施設見学やセミナーに加え、自然、食、農業などを体験しながら、普段の地域の魅力が、もしもの時にどのような力になるのかを考えるツアーです。


役場にカフェやランドリー、フィットネスジムなどを併設した「ワタシノ」。

役場にカフェやランドリー、フィットネスジムなどを併設した「ワタシノ」。
普段は町民が集う場所が、災害時には防災拠点になります。


いつもの居場所がもしもの拠点に

 ツアーの中心となる小清水町防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」は、2018年の北海道胆振東部地震で発生したブラックアウトを経験し、災害に強いまちづくりを目指して整備されました。2023年に開業し、役場に併設された複合機能施設としては全国初のフェーズフリー認証施設で、フェーズフリーアワード2024では事業部門 SILVER賞を受賞しています。
 庁舎には、コミュニティスペース、カフェ、コインランドリー、フィットネスジムなどがあります。私が訪れた時も、小学生が集まって遊び、親子や友人同士がお茶をしながらおしゃべりしていました。
 庁舎というと、住民票を取りに行くなど、何か用事がなければ足を運ばないイメージがあります。しかし、ここではジムでヨガをしたり、親子が屋外の遊具で遊んだり、コインランドリーを利用したりと、普段から人々の集いの場になっています。
 災害時には、コミュニティスペースは一時避難所、カフェは炊き出しの場となり、ランドリーでは衣類を洗濯でき、ジムはシャワーや休息の場として活用されます。なんといっても心強いのが、温泉熱を利用した床暖房です。冬の寒さから避難者を守ってくれます。普段から人が集い、顔を合わせていることも、非常時の助け合いにつながります。


町民が普段から利用するコインランドリー。

町民が普段から利用するコインランドリー。
災害時には非常用水や非常電源を活用し、衣類の洗濯など衛生を保つために役立ちます。


カフェの手作りジンジャーエール。

カフェの手作りジンジャーエール。
普段はくつろぎと交流の場となり、災害時には炊き出しにも活用されます。


学ぶ セミナーとワークショップ

 ツアーではフェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行さんによるセミナーや、参加者によるワークショップも行われました。
 ワークショップでは、提示された課題について参加者同士でアイデアを出し合い、班ごとに発表。初対面の方々と意見を交わすことも楽しく、他の班からは「なるほど」と思う視点が次々と紹介され、とても刺激を受けました。
 フェーズフリーは、必ずしも特別な設備や新たなコストを必要とするものではありません。今あるものや普段の取り組みを見直すことから始められ、業種を問わず応用できること、それぞれの暮らしや地域に合った工夫が生まれることに気づきました。


フェーズフリーの視点からアイデアを出し合うワークショップ。

フェーズフリーの視点からアイデアを出し合うワークショップ。


食べる アウトドアダイニング

 公園で行われたアウトドアダイニングでは、地元の食材を使ったバーベキューをおいしく味わいながら、町長や参加者の皆さんとたくさんお話しすることができました。この日は寒かったのですが、目の前にある火の暖かさにほっとしました。
 普段は食事や交流を楽しむ火が、寒い時には体を温め、人が自然に集まる場所もつくります。日頃から顔を合わせ、言葉を交わして関係を築いておくことは、災害時の声の掛け合いや助け合いにもつながります。


地元の食材を使ったバーベキュー。

地元の食材を使ったバーベキュー。


バーベキューの火を囲み、町長や参加者の皆さんと交流。

バーベキューの火を囲み、町長や参加者の皆さんと交流。


野鳥と植物から環境の変化に気づく

 小清水町は、濤沸湖(とうふつこ)や小清水原生花園など、豊かな自然に恵まれた「野鳥のまち」です。バードウォッチングでは双眼鏡をお借りし、ガイドさんに教えていただきながら、自分の目と耳で野鳥を探しました。鳥を見つけるためには、よく見て、鳴き声に耳を澄まし、風やにおい、空や地形の様子にも意識を向けます。悠々と空を飛ぶ鳥や、木々の間にこっそり隠れている鳥を見つけることができ、感動しました。
 川の中を歩く鹿、その手前の草原には放牧された馬、奥の森には鳥の姿も見えます。小清水町ならではの雄大な光景を眺めながら、幸せな気持ちになりました。
 見る、聞く、においを感じるなど、普段から五感を働かせることは、災害時に「いつもと違う」音やにおい、周囲の変化にいち早く気づく力にもつながります。自然を楽しむバードウォッチングが、異変を察知して行動を判断するための練習にもなると感じました。
 さらに、小清水原生花園で見られる「食べられる植物」を、スマートフォンで調べながら探し、写真に収める体験も行いました。2人1組で協力して探し、その時にペアになった方とは、今も親しく交流させていただいています。ツアーで生まれたご縁にも感謝しています。
 意識しなければ通り過ぎてしまいますが、探しながら歩いてみると、驚くほど多種多様な植物が生えていることに気づきます。身近な自然を知り、自分で調べ、見分けようとする経験も、周囲を観察する力を育みます。ただし、野生植物には有毒なものやよく似た種類もあるため、自己判断で採って食べてはいけません。今回も採取や試食はせず、観察と撮影を楽しみました。


双眼鏡を使い、自分の目と耳で野鳥を探すバードウォッチング。

双眼鏡を使い、自分の目と耳で野鳥を探すバードウォッチング。


水辺を歩く鹿。小清水町の雄大な自然を感じる光景。

水辺を歩く鹿。小清水町の雄大な自然を感じる光景。


小清水原生花園で「食べられる植物」を探す体験。

小清水原生花園で「食べられる植物」を探す体験。


畑は食料を生み出す地域の力

 今井ファームでは、大麦やじゃがいもなどが育つ畑を歩き、じゃがいもの収穫を体験しました。土に触れ、自分の手で収穫することは、農業や食べ物が育つ過程を知る楽しい体験です。収穫したじゃがいもはお土産として持ち帰り、手間と時間をかけて育ててくださった今井さんに感謝しながら、おいしく味わいました。
 地域に農業があり、作物を育てる人がいて、その土地や気候に合った知恵が受け継がれていることは、日々の食を支えるとともに、災害から暮らしを立て直す力にもなります。普段から地域の農業や生産者を知り、食べ物がどこで育つのかに関心を持つことも、地域の備える力につながると感じました。


今井ファームでのじゃがいもの収穫。地域の農業と食を支える力に触れました。

今井ファームでのじゃがいもの収穫。地域の農業と食を支える力に触れました。


町の魅力がもしもの力になる

 小清水町では、人が集う場所、自然、農業、食、地域で働く人たちがつながり、日常の豊かさと地域の備える力を育てています。

 屋外で食事を楽しみ、人と交流すること。野鳥や植物を探し、五感を働かせること。畑を訪ね、地域の農業や生産者を知ること。いずれも普段は楽しく豊かな体験ですが、そこで育まれる人とのつながり、異変に気づく力、食を支える仕組みへの理解は、もしもの時にも役立ちます。
 特別な備えを新たに増やすだけでなく、いつもの暮らしや地域の魅力を見直し、その価値を非常時にも生かす。小清水町のフェーズフリーツアーを通して、その大切さを改めて実感しました。

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