2024年夏に「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたことをきっかけに、防災について改めて考え始めた方も多いのではないでしょうか。地震だけでなく、豪雨による水害や噴火など、私たちの身の回りにはさまざまな災害のおそれがあります。「知っていたのに備えていなかった」「聞いたことはあったけど準備していなかった」と災害時に後悔しないために、今こそ、自分自身の備えを考えて欲しいと思います。
前回は、大規模災害後に災害関連死を防ぎ、心身の健康を維持するための備えについてお話ししました。今回は「在宅避難 防災食の備え3か条」の「その2:食べ物」についてお伝えします。
在宅避難のために必要な「防災食の備え3か条」についてはこちらをご覧ください。特に「その2:食べ物」は、実は一番難しい備えだと私は考えています。
「おすすめの非常食は何ですか?」「何を買っておけば安心ですか?」と聞かれることがよくあります。しかし、これに“正解”はありません。
なぜなら、どんなに保存性に優れた食品でも、味が好みに合わなかったり、うまく調理できなかったりすると、そのご家庭にとって最適な備蓄とは言えないからです。
ご飯の硬さの好みひとつとっても、やわらかめが好きな人もいれば、かためが好きな人もいます。カレーも甘口派、辛口派、スパイス重視派と好みはさまざま。私自身、子どもたちと好みが違います。食の好みは十人十色。だからこそ「自分の備えは自分で考える」ことが大切なのです。
非常時には、普段の食事がストレスを和らげる手助けになります。災害後の生活は、電気や水道が止まったり、慣れない環境での生活が続くなど、心身に大きなストレスがかかります。そんな時、“いつもの味”が心を落ち着かせてくれるのです。防災食には、身体の栄養とともに心の栄養を意識して選ぶことが大切です。
そこで重要になるのが、「フェーズフリー」と「ローリングストック」という考え方です。
●フェーズフリーとは?
「フェーズフリー」とは、「平常時」と「災害時(非常時)」という“フェーズ”(局面)を分けずに、どちらの場面でも役立つもの・ことを日常に取り入れていこうという考え方です。この言葉と概念は、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行さんが2014年に提唱されました。災害の多い日本において、今後ますます求められる考え方だと思います。
たとえば、キャンプ用品やモバイルバッテリー、防寒シートなどは、普段のレジャーでも使えますし、停電時や避難所生活でも役立ちます。食品でもこの考え方は活かせます。特別な非常食でなく、「ふだん食べておいしい」「子どもも喜ぶ」「いざという時も食べられる」ものを、日常の中で備えておくのが理想です。
私が監修した「まゆまゆHokkori玄米ご飯」(宮島醤油)は、玄米を使用した味付きごはんのレトルト食品で、1年半の賞味期限があり、以下のように3通りの食べ方が可能です。
①箱のまま電子レンジで加熱
②パウチのまま湯せんで加熱
③そのまま開けて食べられる
「ガパオライス」「五目カレーごはん」「とりごはん」の3種類があり、どれも常温で保存でき、アウトドアや旅行にも活用できます。この商品はフェーズフリー認証を取得しました。普段も災害時も役立つ商品だと認められました。いつものご飯が“もしものご飯”になる、心強い存在です。
「備蓄=非常時のためだけの準備」という考え方では、気づけば賞味期限が切れていた、ということも少なくありません。そこでおすすめなのが、「ローリングストック」です。
これは、普段から少し多めに食品をストックしておき、使った分を買い足すことで、常に一定の備蓄量を保つ方法です。農林水産省では「ローリングストック」、経済産業省では「ながら備蓄」とも呼ばれています。ポイントは、常温保存可能なパックご飯、餅、パスタ、レトルト食品、缶詰、乾燥野菜、野菜ジュース、ドライフルーツなど、普段から食べ慣れている食品を選ぶこと。買って終わりではなく、食べて補充することが重要です。
ローリングストックでは、“備える”ことに目が行きがちですが、“上手に食べる”ことがとても大事です。食べること、消費することを意識してください。そのためにはしまい込まず、取り出しやすくしておくことも重要です。
このサイクルが自然と習慣になれば、いつでも新しい備蓄がそろっている状態を保てます。ローリングストックであれば、食材を無駄にしないで普段の食卓に並べることができ、食品のフードロスを防ぐことができます。
ローリングストックを無理なく続けるためには、「見える化」がカギです。次の3つを意識してください。
①「家族に見える化」(備蓄場所の見える化)
備えるもの、場所などは家族と共有することが大切です。せっかく備蓄していても、自分だけが把握しているだけでは、家族を守ることができません。
一人暮らしの方も、どこに何をしまったのか、自分で分かるように“見える化”しておきましょう。
②「賞味期限の見える化」
賞味期限を大きく記入し、「賞味期限ごとにカゴを分ける」「期限の近いものを手前に置く」「近いものから左に並べて使う」など、使いやすいルールを決めておくと安心です。収納の際は、近いものから取り出しやすいように工夫しましょう。賞味期限が切れたからといってすぐに食べられなくなるわけではありませんが、賞味期限を意識するように心掛けてください。
③「食べ方の見える化」
備蓄食材を活かすには、調理方法をあらかじめ知っておくことが大切です。普段から食べ慣れているものを備えておくことに加え、初めての食材は一度実際に調理してみましょう。そうすることで、必要な道具や材料がわかり、備えに漏れがないか確認することができます。
防災は「特別なこと」ではなく、日常の延長線上にあります。フェーズフリーとローリングストックという考え方を取り入れることで、毎日の暮らしの中で自然に防災ができます。防災は、難しいことでも面倒なことでもありません。毎日の食事から始められるものです。次回は、具体的な備蓄食品の選び方や、おいしく食べる工夫をご紹介します。次回もよろしくお願いいたします。
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