これまでの連載では、在宅避難の備えや備蓄の選び方、食べ方などをお伝えしてきました。どれも大切な備えです。けれども、防災は知っているだけでは十分ではありません。「自分だったらどうする?」と考えることが、防災の始まりです。
10回目の今回は、防災を「自分ごと」にするためのステップを整理します。
防災でまず大事なのは「知る」ことです。
ぜひ、内閣府の「一日前プロジェクト」のサイトをご覧ください。「災害の一日前に戻れるとしたら、あなたは何をしますか」と問いかけ、被災された方々の声を紹介しています。
「家族と連絡が取れずとても不安だった」
「タンスがあんなに簡単に倒れてくるなんて思わなかった」
一人ひとりの体験から、災害時に何が起きるのか、どんな備えが必要なのかが見えてきます。体験談は防災を「他人ごと」から「自分ごと」へと近づけてくれます。
可能であれば、全国の災害伝承館にも足を運んでみてください。
私はこれまで各地の災害伝承館を訪ね、語り部の方々のお話を伺ってきました。現地に立つと、その災害の大きさを目の当たりにし、言葉を失います。
たとえば阪神淡路大震災の震源に近い北淡震災記念公園 野島断層保存館では、野島断層がそのまま保存され、地震の凄まじさを実感します。
熊本地震震災ミュージアムKIOKU旧東海大学阿蘇キャンパスや、石巻市震災遺構大川小学校では、被害の痕跡が生々しく残されています。
また、石巻市にある伝承交流施設MEET門脇では、津波の恐ろしさや「津波火災」という現実も学びました。火のついた家や車が津波とともに押し寄せて、高台避難した場所が火災になったらどうするのか・・・深く考えさせられました。9日間閉じ込められながらも生還し、いま語り部として活動されている男性のお話も忘れられません。倒れた冷蔵庫のドアが偶然上向きになっていたため、ヨーグルトなど口にできるものを食べて、部屋の隅で用を足しながら命をつないだといいます。【注1】水分と食べ物があれば、命をつなぐことができる!水と食べ物の備えが必要なのだと、改めて強く感じました。
釜石にあるいのちをつなぐ未来館では、避難路の追体験プログラムにも参加しました。当時中学1年生だった語り部さんの言葉と体験の緊張感が重なり、「自分だったらどうするだろう」「どうやって子どもの命を守れるだろう」と真剣に考えさせられました。
まずは知ること。現地に行けなくても、オンラインで語り部のお話を聞ける施設もあります。【注2】ぜひ“生の声”に触れていただきたいと思います。

阪神淡路大震災を引き起こした野島断層(北淡震災記念公園 野島断層保存館)

東日本大震災で津波火災の被害を受けた旧学校(石巻市震災遺構門脇小学校)
災害伝承館に行くのが難しい場合は、体験型の防災館や防災センターに行くのもおすすめです。消火体験、煙体験、起震車による揺れの体験、風水害体験など、さまざまなプログラムがあります。地域によって内容が異なり、その土地で想定される災害に合わせた学びが得られます。私は旅行先に防災館があると、できるだけ立ち寄るようにしています。
体験に勝る防災はありません。一人でも、ご家族でも、地域や学校、職場でも。ぜひ体験の機会をつくってみてください。

浸水時の水圧を体感するドア水圧体験(東京都墨田区の本所防災館)

火災時の視界の悪さを体感する煙体験(本所防災館)
自分の住んでいる地域のハザードマップを確認し、家庭で起こりうるリスクを知ることも大切です。近年増加する豪雨や猛暑は、気候変動とも無関係ではありません。これまで「想定外」と言われてきた規模の災害が、各地で起きています。自分の地域のリスクを知ることは、自然環境の変化に目を向けることでもあります。
「知る」ことで考えられるようになり、「考える」ことで、いざというときの「行動」が見えてきます。そして最後に必要なのが、「行動する」ことです。
・家具や電化製品の転倒・落下・移動防止はできていますか。
・非常持ち出し袋は、すぐ手に取れる場所にありますか。
行動に移せていないと、あとで「知っていたのに」「やろうと思っていたのに」という後悔につながります。
私は講演で「1分対話」を取り入れています。
「自宅の隣の家から煙が上がっています。火事が延焼しそうです。あなたは何を持って避難しますか?」突然問いかけ、1分間、2〜3人で話し合っていただきます。
多い答えは、スマートフォンや貴重品。中には、ペット、婚約指輪、推し活グッズ、思い出の品と答える方もいます。「1分では短い」と言われることもあります。けれども、火災はスピード勝負。悩んでいる時間はありません。
私は玄関に非常持ち出し袋を置き、基本の備えに加えて貴重品のコピーも入れています。靴を履いて、そのまま持って出られる状態です。「悩まなくていい」準備があることは、想像以上の安心につながります。
この1分対話の後、参加者の皆さんは「自分なら何を優先するだろう」「今のうちに準備しておかなければ」と真剣に考え始め、防災が自分ごとになったと感じます。
2025年8月には、『こどものための防災教室 過去の災害から学ぶ本』(理論社)を出版しました。本書では、子どもたちが「考えて行動できる」よう、多くの練習問題を盛り込みました。
大人の皆さんにも、ぜひ一緒に考えていただきたいと思います。災害時には、手持ちのカード(選択肢)が多いほど、次の行動に移りやすくなります。たとえば避難所が満員だった場合、別の避難所に向かう、親戚の家を頼るなど、次の一手を選ぶことができます。
災害は想定どおりには起こりません。だからこそ、日頃から想像し、考える習慣が必要です。防災を特別なものにするのではなく、日常の中で“自分ごと”にしていく。それが私の願いです。
次回は、日常と非常時を分けない「フェーズフリー」という考え方を、具体例とともにご紹介します。それは防災だけでなく、環境にもやさしい暮らし方のヒントにもつながります。

『こどものための防災教室 過去の災害から学ぶ本』(理論社)2025年8月
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