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「暮らしに役立つ食と防災」バックナンバー

0112026.05.19UPフェーズフリーな暮らし-エネルギーも日常の延長に-

 「やっておけばよかった」。災害後によく耳にする言葉です。
 防災の仕事を続ける中で、私は“頑張る防災”は続きにくいと実感しています。そして、防災にあまり関心のない方に「防災をしましょう」と伝えるのは、簡単ではありません。
 だから私は、こうお伝えしています。
 「普段の暮らしが便利になる工夫は、もしもの時にも役立ちますよ」
 お得感があるほうが、「やってみよう」と思いやすいものです。特別なことを始めるのではなく、今の暮らしを少し整える。その延長線上に、防災があると考えると、備えはぐっと身近になります。
 そこで大切になるのが、フェーズフリーという考え方です。連載 006「“食べながら備える” フェーズフリーとローリングストックのすすめ」でも触れましたが、今回は食だけでなく、暮らしに欠かせないエネルギーに広げて考えてみたいと思います。

フェーズフリーを正しく理解するために

 フェーズフリーとは、「日常」と「非常時」という二つのフェーズ(局面)を分けないという発想です。普段使っている身の回りの物や食べ物、設備を、非常時にもそのまま活用できるようにしておくこと。日常を整えることが、もしもの時の安心にもつながります。
 この概念は、一般社団法人フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行氏が2014年に提唱しました。私自身もフェーズフリーアクションパートナーとして、またフェーズフリーミート実行委員として、この考え方を正しく、分かりやすく伝えていきたいと思っています。
 最近は、フェーズフリーという言葉を耳にする機会が増えてきました。その一方で、少し誤解されて使われている場面も見かけます。
 たとえば、「フェーズフリーで備える防災」という表現を目にすることがあります。一見、間違っていないように思えるかもしれません。でも、フェーズフリーは「防災のために何かを備える」という考え方とは少し違います。
 非常時のために何かを用意するのではなく、日常で使っているものや仕組みが、非常時にもそのまま役立つようにしておくこと。つまり、「防災のために買う」「防災のためにしまっておく」のではなく、「普段の暮らしを便利に、快適にするものが、もしもの時にも役立つ」という考え方です。
 大切なのは、「いつも」と「もしも」を分けないこと。防災を特別なことにしないことです。


フェーズフリーアクションパートナー

フェーズフリーアクションパートナー:
フェーズフリーの考え方を正しく、分かりやすく
伝える活動にも取り組んでいます。


エネルギーを日常と非常時で分けない

 私たちの暮らしは、電気に大きく支えられています。照明、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、エアコン、スマートフォンの充電。普段は当たり前のように使っていますが、停電すると、その当たり前が一気に止まってしまいます。
 だからといって、特別なものをたくさん増やすと、置き場所や管理の負担になることもあります。だからこそ、非常時だけを想定して備えるのではなく、日常で使っているものを、もしもの時にも役立つ状態にしておくことが大切です。エネルギーも、日常と非常時を分けずに考えると、備え方がぐっと身近になります。
 その分かりやすい例が、電気自動車です。
 電気自動車は、普段は移動手段として使います。買い物や通勤、家族の送迎、旅行など、日常の暮らしを支えるものです。一方で、災害時には「動く蓄電池」として役立つ場合があります。車にためた電気を使って、スマートフォンを充電したり、照明をつけたり、調理家電などに給電できる車種もあります。
 普段の暮らしの中で使っているものが、もしもの時にも助けになる。これが、フェーズフリーなエネルギーの考え方です。
 私も実際に、畑で電気自動車(日産リーフ)から給電しながら調理を体験したことがありますが、思った以上に簡単でした。スマートフォンの充電ができるのも助かります。電気自動車は単なる移動手段ではなく、暮らしを支える電源にもなるのだと実感しました。
 普段使っている車が、災害時には安心を支える存在になる。これは、とても分かりやすいフェーズフリーの例だと思います。


電気自動車の給電口。

電気自動車の給電口。電気自動車は普段は移動手段として使い、
非常時には電源として役立つ場合があります。



電気自動車から給電して屋外で調理を体験

電気自動車から給電して屋外で調理を体験


つくる電気、ためる電気という選択

 太陽光発電と家庭用蓄電池も、日常と非常時を分けないエネルギーの例です。
 太陽光発電は、日中に電気をつくるしくみです。家庭用蓄電池は、その電気をためて、必要なときに使えるようにするものです。普段は電気代の節約や省エネにつながり、停電時には照明、冷蔵庫、スマートフォンの充電などに使える可能性があります。
 蓄電池だけでは、中の電気を使い切れば終わりですが、太陽光発電と組み合わせると、昼間に発電した電気を使ったり、ためたりできるので、停電時の心強さが違ってきます。わが家でも検討したことがありますが、設置できる家、できない家がありますし、初期費用もかかります。自治体によっては補助制度がある場合もありますが、暮らし方や住まいの条件に合わせて考えることが大切です。
 私は以前、家庭用蓄電池のあるお宅を訪問させていただいたことがあります。驚いたのは、音がとても静かだったことです。エアコンの室外機より静かだと聞き、これなら日常生活の中でも気になりにくいと感じました。
 また、停電を想定した切り替えも体験しました。何か特別な操作をしなくても、すぐに電気が戻り、頼もしさを実感しました。非常時に慌てて機器を探したり、難しい操作をしたりするのではなく、日常の延長で使えることは大きな安心につながります。
 さらに、発電量や使用量が見えるようになると、日常の暮らし方も変わります。どの家電がどれくらい電気を使っているのかが分かると、ふだんの節電意識にも目が向くからです。災害時のためだけでなく、日常の電気の使い方を見直すきっかけにもなります。
 実際に使っている方のお話で印象に残っているのは、「停電したとき、自分の家だけ電気がついていたらどうしよう」という不安でした。近所の方が「スマートフォンを充電させてほしい」と来たら、断れるだろうか。私はその話を聞いて、備えがあることで助かる一方で、その先のことまで考える必要があるのだとハッとしました。
 「昼間なら太陽光で発電できるから、充電に協力できるかもしれない」という考え方もあります。備えは、自分や家族を守るものですが、場合によっては周囲の人を支える力にもなります。
 災害時に役立つものは、非常時専用のものだけではありません。普段の暮らしを便利にしているしくみが、もしもの時にも力を発揮することがあります。そう考えると、エネルギーの備えも、特別なことではなく、暮らしの選択のひとつとして考えやすくなります。


家庭用蓄電池

家庭用蓄電池は、電気をためて必要なときに使えるしくみ。
太陽光発電と組み合わせることで、日常の省エネにも、停電時の安心にもつながります。


“意識しなくても役立つ”安心を増やす

 フェーズフリーの良さは、非常時のために頑張るのではなく、普段の暮らしをよくすることが、結果としてもしもの安心につながるところです。
 日常で使っている車が、停電時には電源になる。
 日常の電気を上手に使うための太陽光発電や蓄電池が、停電時にも役立つ。
 電気の使い方を見える化することで、普段の暮らしも整っていく。
 こうした仕組みは、災害時に“意識しなくても役立つ”備えになります。
 もちろん、電気自動車や太陽光発電、家庭用蓄電池だけで、災害時のすべてをまかなえるわけではありません。水、食べ物、トイレ、明かり、熱源、情報を得る手段など、基本の備えは必要です。けれども、日常で使っているものが非常時にも役立つと分かっていれば、備え方の選択肢は広がります。
 「いつも使っているから、もしもの時にも使える」
 「普段の暮らしが整っているから、災害時にも慌てにくい」
 そんな視点で暮らしを見直していくことが、日常の快適さと、もしもの時の安心につながります。
 次回は、限りあるエネルギーをどう使うか、日常にも非常時にも役立つ工夫をお伝えします。

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