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「『ブラサカ(R)』の持つ力を社会に!」バックナンバー

0082021.08.30UPブラインドサッカー日本代表の活躍に期待!

※本稿は、5人制サッカー予選開始前の8月28日に執筆しています。

困難を経て開催が決まったパラリンピック

2020年に葛飾区で行われた日本代表合宿の様子

2020年に葛飾区で行われた日本代表合宿の様子

 オリンピックと同様、無観客での開催が決まり、開幕したパラリンピック(学校単位等、一部動員はありますが)。個人的には、これまで血のにじむような努力をしてきたパラアスリートの皆さんの一つの集大成の場所が確保されたことに、安堵にも近い喜びの気持ちが湧いています。
 パラリンピックは、1964年に行われた東京大会でも実施されています(1964年大会は第二回パラリンピックに位置付けられています)が、当時は参加国・地域数28、参加人数は375名でした。それが今大会は参加国・地域数161、参加人数はおよそ4,400名となっています。関係者の努力により、障がいスポーツ人口が増え、今では障がいのあるなしに関係なく生きやすい社会づくりが求められ、共生社会、ダイバーシティ、インクルーシブなどという言葉が謳われるようになってきました。
 私自身、ブラインドサッカー協会で7年間ほどブラインドサッカーと社会の接点を創り出すことに取り組んできましたので、周囲の目や考え方が少しずつ変わっていっていることを目の当たりにしてきました。今大会が、さらなる共生社会へのエンジンになることを願ってやみません。現地には行けませんが、テレビの前で力の限り応援したいと思います。


パラリンピックにおけるブラインドサッカーの歴史

 ブラインドサッカーがパラリンピックの正式競技となったのは、2004年のアテネ大会からです。今では花形スポーツの一つとも言えるくらいの認知を得ていますが、日本国内でその認知が高まってきたのは、2014年くらいからでしょうか。そう考えるとまだまだ歴史が浅い競技といえるかもしれません。
 現在の世界ランキングでは50か国もの国が名を連ねており、日本代表は現在12位。世界ランキング1位は、今パラリンピックにも出場するアルゼンチンとなっています。
 しかしながら、2004年のアテネ大会、2008年の北京大会、2012年のロンドン大会、2016年のリオデジャネイロ大会を振り返ってみると、全ての大会で、サッカー王国のブラジルが優勝しており、実質世界一はブラジルといえるかと思います。パラリンピック4連覇、これは本当に凄まじいことだと思います。今大会でももちろん優勝を目指し、前人未到の5連覇を狙っているはずです。
 ブラジル代表の特徴を説明すると、とにかく圧倒的な『個』の力による攻撃力、これに尽きると思います。『個』の力、と言うと、一見それぞれが独立したプレーをするというような印象を持つと思うのですが、その『個』の力に基づいた連係プレー、見えているかのような正確なパス。ゴロのパスを通したかと思えば、浮き球のパスを送り、相手守備陣を混乱させるなど、ドリブルあり、パスを含めた連係プレーありと、相手守備陣は的を絞ることができません。選手層も非常に暑く、だれが出てきても質が落ちないのです。
 その中で特に注目すべきは、エースのナンバー10・リカルド選手。長きにわたり王国のエースとして君臨しており、名実ともに世界ナンバー1プレーヤーといえます。間違いなく注目選手の1人になると思いますので、覚えておいていただければと思います。
 ブラジルだけでなく、同じく南米で世界ランキング1位のアルゼンチン、実力実績とともにアジアナンバー1の中国チームも要注目です。中国は平均年齢も若く、非常にアグレッシブなサッカーを展開します。ドリブルで駆け上がる際のスピード感やエネルギーは見ごたえ満載ですし、予選グループで対戦する日本代表としては、警戒しながら組織でしっかり守りたいところです。各国代表のプレーなどは検索いただければ、動画としてすぐに出てくると思いますので、ぜひパラリンピックに合わせ、一度ご覧になってください!

パラリンピック 5人制サッカー(ブラインドサッカー)の競技スケジュール

パラリンピック 5人制サッカー(ブラインドサッカー)の競技スケジュール


高い壁に阻まれ続けてきた日本代表の今

ワールドグランプリ2019で国歌独唱いただいた小柳ゆきさんを囲んで。向かって左端はブラインドサッカー日本代表監督の高田敏志さん、右端は代表チームマネージャーの神山明子さん。

ワールドグランプリ2019で国歌独唱いただいた小柳ゆきさんを囲んで。向かって左端はブラインドサッカー日本代表監督の高田敏志さん、右端は代表チームマネージャーの神山明子さん。

 パラリンピック初出場となる日本代表に視点を移してまいりましょう。日本代表は、長らくアジアの高い壁に阻まれ続けてきました。あと一歩のところで出場権を逃した2012年ロンドン大会予選。中国、イランの壁を破れず、選手スタッフ、会場全体で涙に包まれた2016年リオデジャネイロ大会予選。パラリンピックの出場を夢見て努力を重ねる中、その夢がかなう瞬間はこれまでありませんでした。私自身、2015年のリオデジャネイロ大会の予選は、大会運営スタッフとして現場で活動していたので、今でもその当時の光景を鮮明に覚えています。原宿の代々木公園で開催され、有料イベントとして本当にたくさんの方に来場いただき、期待を一身に背負って戦った日本代表が敗れた瞬間は、選手スタッフのみならず、多くの方が涙を流しました。
 競技スポーツは選手ファーストという部分が顕著にありますが、それはもちろんそうなのですが、ブラインドサッカーをはじめとした障がい者スポーツは、一般の競技スポーツよりも“共生”“共創”の要素が顕著です。この時の大会も、競技者以外に本当に多くの方々が関わりました。会場設営にあたりバリアフリー設計にするため多くの方の知見を結集し、視覚障がい者の方に楽しんでいただくため、会場ラジオ実況を導入したり(この導入ひとつとっても、実況をする方だけでなく、会場で配信環境を設計するスタッフ含め多くの方が関わっています)、一からこの空間を創るために、日夜奮闘した方々がたくさんいたのです。その方々は、いわゆるサポートでなく、当事者としての関わるのです。私自身、ずっと言い続けていたことは、関わる全ての方が主役ということ。だからこそ、リオデジャネイロ大会に出場ができないとわかったときは深い悲しみに包まれたのです。
 その後、リオデジャネイロ大会の予選敗北を経て、代表チームの強化に向けて、日本ブラインドサッカー協会は大きく舵を切りました。監督に、現日本代表監督の高田敏志氏が就任し、それまでにない、サッカーやフットサル業界からスタッフを獲得。メディカル、メンタル等様々なスペシャリストを招聘し、強化に乗り出したのです。細部までこだわる、という面で言うと、ブラインドサッカーはコミュニケーションが大切、言わば声が生命線になるわけですが、ボイストレーナーというポジションのスタッフを置きました。選手に、試合時に生かせるボイストレーニングを実施するなど、それまでの常識にとらわれない手法で強化を進めてきました。個人的に高田監督とは親交があり、定期的に強化に対する考え方や具体的に行っていることを聞かせていただいているのですが、ブラインドサッカー日本代表の強化は本当に緻密です。例えば、食事の面で言うと米粒一つレベルまでこだわっているなど、できることはすべて取り組んでいるといえるかと思います。話をしていると、途中からはもうついていけないレベルまで考えられていて、毎回驚かされるとともに、確実に強化が積み重なっているのだろうなと感じていました。なかなかその努力が結果として現れない時間も長くありましたが、ここ数年は、強豪国と互角以上に渡り合い、5月末に行われたワールドグランプリでは、初めて決勝に進出し準優勝を獲得(優勝はアルゼンチン)するなど、確実に実を結んできています。


今大会の日本代表への期待

 今大会の日本代表の目標は、メダルの獲得です。初出場ではありますが、それを狙えるだけのチームになっていることは間違いなく、期待感も非常に高まってきています。心拍数や血中酸素などの細かなデータを取るだけでなく、それらを連携させ、選手のベストなパフォーマンスが出せる状態をすべて把握しているので、あとはそれをベースに長く日本の特徴としてきた組織的守備と、エース川村、黒田を中心とした鋭いショートカウンター、相手を分析しつくした中での戦略的な攻撃をミスなく遂行できるかにかかってくるかと思います。おそらく一瞬でも隙を見せたら失点に直結するはずなので、高い集中力が必要とされます。この点に関しては、こういう表現が良いかどうか迷うところもありますが、基本的に無観客ということで、指示や互いの声が聞こえやすい分、緻密なサッカーをする日本代表には有利に働くかもしれません。初戦(29日フランス代表選)から、強みをいかんなく発揮して、ぜひメダル獲得に突き進んでほしいと思います。
 この文面が皆様のところに届く頃には、おそらく予選リーグの結果が決まっていて、日本代表チームが準決勝に進んでいるか、はたまた5位決定戦や7位決定戦に進んでいるのかが明確になっている頃かと思います。もちろん、私自身は、準決勝に進み、メダル争いをしていることを明確にイメージしながらこの文章を書いています。
 ただし、こう書いておきながら、メダルを獲得することは最大目標であるものの、その大きな意味というのは、まさに共生社会への大きな一歩になりえるのではないか、ということです。ブラインドサッカー協会には『視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること』というビジョンがあります。メダルへの過程で多くの方の目に触れ、選手の勇猛果敢な姿に心打たれ、結果を手にしていく姿に感情移入をし、このビジョンを体感してもらいたい。そう思います。
 最後になりますが、今大会をきっかけに選手やチーム関係者が注目され、より発信力が高まる中で、共生社会への大きな歩みを進めることが願いであります。
 ひとつのスポーツとして一人のアスリートとして、多くの人の目に触れ、感動を日本中に、世界中に届けてくれることを願い、パラリンピックの5人制サッカーを、全力応援したいと思います


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(2021.10.01)

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(2021.10.01)

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