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「地域の健康診断」バックナンバー

0542024.03.12UP新たな福祉コミュニティ

富裕層に人気のシニアレジデンス

 最近耳にするようになった「シニアレジデンス」をご存じだろうか。
 いわゆるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、バリアフリーであったり、安否確認・生活相談などのサービスを高齢者に提供し、安心して暮らせる施設で、要介護度の高い高齢者が多い有料老人ホームに比べると生活の自由度が高い点が特徴です。
 そこに富裕層向けの「シニア向け分譲マンション」が登場してきました。
 シニア向け分譲マンションは「シニアレジデンス」と呼ばれる、アクティブシニアに向けたバリアフリーマンションです。自立して生活を送ることができる高齢者の方が入居対象で、要介護認定者や要医療ケアの高齢者を入居対象としている老人ホームとは異なります。そのため介護サービスが付いていない施設が中心となります。
 設備はバリアフリーな設計が標準装備で、高齢者が生活しやすい上に、プールやレストラン、温泉、カラオケルームなどの娯楽施設が非常に充実しています。さらに食事の提供や見守り、来客対応などの生活支援サービスを行う、コンシェルジュも常駐しており、家事代行をはじめ、外部サービスの紹介などを行ってくれます。
 課題は通常の分譲マンションと同様に、購入費用が数千万円~数億円と高額であることや、既存コミュニティとの確執が発生しないかの懸念です。


100年コミュニティで暮らす

 サ高住もシニアレジデンスも、介護サービスや認知症に関するケアが十分に備わっていない施設もあることが課題でした。その課題を突き抜ける拠点として、那須町に誕生したのが「那須まちづくりひろば」です。
 那須まちづくりひろばを開設・運営している那須まちづくり株式会社は、多世代多文化共生型コミュニティの創生と普及、実現に向けた「100年コミュニティ」をつくる活動を進めるため、2018年1月に設立されました。代表の近山恵子さんは、1990年から高齢者住宅のプロデュースに携わり、全国展開してきました。1999年には、1995年に起こった阪神淡路大震災の被災者支援を目的に在宅医療に取り組んできた医療チームが中心となり設立した一般社団法人コミュニティ・ネットワーク協会を設立し、副会長に就任しています。子どもから高齢者まで、多様な価値観を持つ人たちが共に支え合う地域社会をめざす「100年コミュニティ」は、同協会が掲げる理念でもあり、高齢化が著しい地域や過疎、不便な地域であっても地域や個人の歴史とその背景に耳を傾け、価値転換を図ることでコミュニティ再生が可能と考えます。
 近山さんはその後、東京都近郊にある多摩ニュータウンで「団地再生型機能」を持つコミュニティ創生をスタートさせ、また東京都豊島区で実践が進む「都市再生型機能」にも携わっています。さらに、こうした活動を進む仲間たちと「終の住処は那須だ」と決めたほど豊かな可能性を感じている那須町で始めた「地方再生型機能」という3つの異なる地域での運営実績により、全国各地域の課題解決に対応していきたいとしています。
 那須町では、廃校となった朝日小学校の活用コンペで、少子高齢社会の先駆的モデルを創りたいとプレゼンした内容が町の共感を得て、まちづくりの拠点として再生・運営することになりました。
 校舎にカフェやマルシェをオープンして、お皿洗いからごはん作り、自然食品の仕入れ・販売まで年中無休のボランティアで、暮らしは年金で賄う無給の運営をしつつ、「那須まちづくり広場」の事業計画を練っていきました。

廃校を活用した那須まちづくりの外観

廃校を活用した那須まちづくりの外観


福祉型コミュニティ「那須まちづくり広場」

 オープン後、着実に事業成果を出してきた那須まちづくり広場では、2022年12月に多世代交流+介護+福祉のコミュニティ(那須まちづくり広場)としてグランドオープンしました。
 1階には高齢者デイサービスや放課後デイサービス、障がい者就労支援のほか、大小のホールやアートのギャラリー、カフェ、日常品も買えるマルシェ、2階には簡易宿泊施設、多世代住宅「ひろばの家・那須2」ほかテナント事務所が入っています。
 そして元校庭には、49戸の高齢者サービス付き住宅(サ高住)「ひろばの家・那須1」や室内プールを改装した介護中心のシェアハウス「ひろばの家・那須2」、さらに隣接したところには24時間看護師と暮らすシェアハウス「みとりえ那須」があり、元気な高齢入居者はこれらの場所でできる仕事につくことができます。
 入居者の様々なニーズに応えて、入浴は機械浴でなく檜や陶器の風呂を設置、毎日町に買い物や役場、銀行などを廻る巡回バスの「ひろばへGO!」を運行しています。
 株式会社IHIを経て、那須まちづくり株式会社役員に就任した鏑木孝昭さんが、施設以上に強調したのが、学び続ける環境づくりです。図書館や毎月の様々な講座の開催、趣味や習い事の講座の開催など、日々豊かな生活ができ、高齢者にとっては桃源郷のような暮らしが実現できます。
 とかく閉鎖的な環境になりやすい福祉施設と違い、入居者同士はもとより、外部の人たちとの交流も日常的できるなど、町の文化交流拠点にもなっている那須まちづくりひろばは、自由に自分らしく、人生の最後まで生き生きと暮らせるコミュニティとなっています。


ひろばの家

ひろばの家は、毎月開催された「人生100年・まちづくりの会」で検討を重ねて計画が立てられました。計画の一環として、東日本大震災で仮設住宅として使用されたログハウスを再利用してはどうかという提案をもとに取り入れた9戸を核に整備。


みとりえ那須

みとりえ那須は、看護師の佐久間洋子さんと介護スタッフが運営を担っています。総合病院を複数経験し、老人保健施設で看護介護課課長に就任した佐久間さんは、集中治療室の中で息を引き取った姉や父親の死をきっかけに、「病気を抱えた方でも、最後の最後まで自然体で暮らせる場所を作りたい」と、2013年にみとりえ那須の前身となる「さくまの家」を東京都三鷹市に開設しました。


廊下は図書室

廊下は図書室

充実した売店

充実した売店

全体図

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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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