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「地域の健康診断」バックナンバー

0102013.07.02UP休校・廃校を活用する(2)

逆転の発想「ないもの探し」からの活用(森の巣箱)

『森の巣箱』の全景。
『森の巣箱』の全景。

 高知県高岡郡津野町にある『森の巣箱』は、旧葉山村で廃校となった床鍋小学校をリニューアルした、宿泊もできる木造複合交流施設です。
 2005年に東津野村と葉山村が合併した津野町は、高知県の中西部に位置します。四国山地の懐に抱かれた林野率約90%の地で、中央部を東西に国道197号線と新荘川が流れ、その道と川沿いに集落が点在しています。
 旧葉山村は1950年の8,300人強を人口ピークに、合併前には約4500人弱と半減しました。そのため国道沿線にあった村内の小中学校は1960代から統合が繰り返されました。国道から外れた村南部にあった床鍋小学校は、最後まで残りましたが、1983年の統合で廃校となりました。
 この床鍋集落で、以前より過疎高齢化に危機感を抱いていた住民が1996年に立ち上がりました。
 「現状では集落は過疎化、高齢化がすすみ、このままでは消滅のおそれがあるから、活性化の取組みを行いたい」と村に助言を求めつつ、まずは自分たちができる活動からと道路の支障木伐採を開始。
 2000年には高知県のソフト事業『集落再生パイロット事業』の採択を受けて、自ら集落の課題と魅力を掘り起こし、地域の将来像『集落再生プラン』を住民主体で策定しました。このなかで集落に「自分たちが欲しかったもの」「あれば良いもの」が盛り込まれたのです。
 地域づくりでは通常「あるものさがしをしよう」という考え方で進めますが、床鍋集落では「コンビニがないから欲しい」「居酒屋がないから欲しい」、交流事業をしたいから「宿泊施設が欲しい」「風呂が欲しい」という、“ないもの・欲しいもの探し”が、“あるもの探し”といっしょに話し合われたわけです。
 そして2003年4月、集落活動と交流の拠点『森の巣箱』が誕生しました。施設には、日用品や食品、直売所機能を有した「集落コンビニ」や食堂兼居酒屋(夜はまさにイギリスの田舎のパブ)が開設され、2階は宿泊できるよう和室にリノベーションされました。
 このような地域合意の手順を踏んだため、『森の巣箱』は、コンビニは常勤職員、食事と接待は集落の女性、清掃は男性が行うなど集落民全員がオーナーであり従業員としての意識を強く持っています。2007年には、過疎地域自立活性化優良事例として『総務大臣賞』を受賞しました。

『森の巣箱』の食堂・居酒屋。
『森の巣箱』の食堂・居酒屋。

『森の巣箱』のコンビニ。
『森の巣箱』のコンビニ。

学生によるリノベーションで学校が生き返る(月影の郷)

『月影の郷』2階の宿泊棟。
『月影の郷』2階の宿泊棟。

『月影の郷』3階の民具展示。
『月影の郷』3階の民具展示。

『月影の郷』の食堂。
『月影の郷』の食堂。

学生のセルフビルドで設置された校舎壁面の雪囲い。
学生のセルフビルドで設置された校舎壁面の雪囲い。

 新潟県上越市浦川原区横住にある『月影の郷(さと)』は、月影小学校をリノベーションした宿泊体験交流施設です。
 かつて300名もの児童がいた小学校は、過疎高齢化の波に飲まれ、2001年3月に閉校。さらに村そのものも2005年に上越市へ吸収合併され、住民にとっては二重にアイデンティティを失うことになりました。
 当時の村長は、懇意であった法政大学教授に施設を再生活用ができないか相談を持ちかけ、法政大学渡辺研究室、横浜国立大学北山研究室、早稲田大学古谷研究室が大学連携の共同プロジェクトが始動。日本女子大学篠原研究室が加わって女子学生が入ったことで、多少ギクシャクしていた大学連携も円滑になり、リノベーションの計画段階から工事施工過程、施設運営準備と継続的に大量の学生が関わる仲で再生していきました。
 設計や展示に対するアイデアは各所に活かされています。学生のセルフビルドによる手の込んだ雪囲いに、ちょっとユニークな机、ロフト付きの宿泊室に、細長いいろり等々が作られました。「地元の人の高齢者に配慮していない」「もっと簡単な作り方がある」など笑いながらの苦情も、互いに信頼関係を構築しつつの学校リノベーションであったことを伺わせます。特に3階は学生たちの独壇場による農村展示室となりました。ユニークな農機具の展示や表現を駆使し、デザインにもこだわっているため、他地域で見る民具展示より数段面白いと感じました。今も継続して学生が関わり、何かを創造してメンテナンスも行っています。どこか、スペインのサグラダファミリアを想像してしまいました。
 多数のプロジェクトメンバーや複数のチームが創り出した学校は、趣のある小学校名を残すとともに、元教室を改装して「学校に泊まる」という懐かしさと新しさを同居させて、2005年に再生オープンしました。
 2012年度は6,000人が利用するも、収益面ではまだまだの状況。月影の郷運営委員会代表は、「どこの廃校も、今の人たちは愛着を持って携わるが、次世代にはなかなか関心を持たれない。今は活動を支えている人たちが頑張っているが、高齢化してきています。行政に頼らない組織として、自力で健全な経営をするため、未来を切り拓く話し合いをしています」と話します。
 他の地域にも通じた、大きな課題だと思います。

雪の季節が終わって、取り外された雪囲い。
雪の季節が終わって、取り外された雪囲い。


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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