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「地域の健康診断」バックナンバー

0022011.10.17UP地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない

特産品を開発して販売すれば良い?

 「この農産物が我が町の特産品だから、何とか加工して付加価値をつけて売りたい」
 1980年に大分県から始まった「一村一品運動」は、国の補助金のあと押しもあり全国各地に拡がりました。しかしせっかく大金をつぎ込んだ農産加工所で作ったものが、必ずしも売れるとは限りません。かくて「一村一品」は「一損一貧」と化し、「赤字雪だるま」を作る原料となったところも少なからずありました。でも補助事業で建設した加工所をストップさせれば、国から補助金の返還を求められるので、閉鎖したくてもできないのです。そこでこれ以上税金投入できないと判断した行政は、根本の原因がわからないままで、経営能力が乏しい地元の農家組合や自治会などに「指定管理者」をまかせ施設を投げ出します。地元では、施設を要望した経緯もあり、仕方なく管理者を受けますが赤字体質は変わりません。
 さて加工所・農家組合・行政はどうなるか、読者の皆さんなら先行きは読めますね。

鮭川村の苦悩と希望

米集落展望台からの眺望
米集落展望台からの眺望

トトロの木
トトロの木

  

 山形県最上郡鮭川村は、その名のとおり鮭が遡上する川があり、山形新幹線の終着駅がある新庄市に隣接しています。
 日本の国土の65%を占める中山間地域【*】のひとつで、村には大きな産業や観光地がなく、少子高齢化や地域経済の低迷など地域課題も山積。財政も豊かとはいえません。しかし裏返しでみれば、農業・自然環境・歴史文化など、これからの地域社会に重要なアイテムがそろっているのです。
 特に絶滅危惧種の「ギフチョウ」「ヒメギフチョウ」が生息する山の神地区と、全国でも稀な「アオザゼンソウ」が群生する米(ヨネ)地区の「米湿原」は、極めて希少性の高い“生物多様性”を維持しています。その国家的な資源とも言える自然環境は住民も認識していて、地区を総動員して環境の保全に努めながら、古くから環境保全型農業にも取り組んできました。
 その一方、都市住民との十分な交流がないために、安心で安全な農産物の販路もなく特産品や加工品開発の取り組みもありませんでした。

未来への挑戦

山際シェフ
山際シェフ

  

 消費者が本当に必要とする品質と価格に見合った農産物を提供できていない、充分な評価を得ていないという結論に至った村は、キャンプや体験施設を備えた「鮭川村エコパーク」や「羽根沢温泉」を観光・交流の拠点に、地域の伝統や農産物を活用した観光メニューや体験プログラムの開発に取り組み始めました。有機栽培のブランド米「山の神」「里の神」の販売のほか、福島県猪苗代のホテル『ヴィラ・イナワシロ』の元総料理長で山際食彩工房の山際博美シェフの力を借り、エノキ・椎茸・なめこなどのキノコや食用ほうずき、イチゴを新たな特産品として販売できるよう試作を重ねています。
 鮭の卵は保護が目的なのでイクラとして売るわけにはいきませんし、卵採取後の鮭は60km離れた海から遡上するので脂が抜け体は傷だらけで流通に乗る代物ではありませんが、加工品にすればなんとかなるかもしれません。
 山際シェフには、試作加工した特産品や鮭を使用した24品の地産地消料理を提案してもらいました。
 この秋には東京での試験販売やPRを重ね、買ってくれる消費者の意見や視点、いわゆる消費者ニーズを収集して商品のブラッシュアップをする予定です。

  

 平成の大合併を経て、全国3000以上あった市町村は1,800弱となりましたが、ニュース報道などで「えっ、どこなの?」と思うようなわかりづらい市町村が増えたと思いませんか。
 小さくても自立の道を選択した鮭川村には、未開発の資源と人材が豊富に存在しています。この資源を、きちんとマーケティングの視点を持って天下一品の商品として売り出せば一周遅れのトップランナーとなれるでしょう。

鮭のポワレほうずきのドライソース
鮭のポワレほうずきのドライソース

青イチゴのピクルス魚介マリネ
青イチゴのピクルス魚介マリネ


用語解説

【*】中山間地域
中山間地域とは(農林水産省)

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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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