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「地域の健康診断」バックナンバー

0272017.09.12UP若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村-東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-

特定有人国境離島

 日本は国土の12倍に及ぶ領海を持つ海洋国家です。その根拠となる島には、尖閣列島や小笠原諸島など有名な島々の他にも、誰も覚えてくれない島を含めて約500島に及びます。中でも日本国民が居住している有人国境離島は、漁業、海洋における各種調査から領海警備と言った国土防衛まで、極めて重要な役割を担っています。
 しかしこれらの島々では、人口減少が著しく、将来的に無人島になる可能性もあります。
 近隣諸国による海洋進出が活発化している現在、日本の主権が脅かされる事態にもなりかねません。このため政府は「有人国境離島法」を制定し、特定有人国境離島地域の保全を行っています。

吐喝喇(トカラ)列島

太平洋を望む宝島の荒木崎
太平洋を望む宝島の荒木崎

 日本国民で十島村(としまむら)と言ったらどこにあるのか、わかる人は少ないでしょう。十島村は、屋久島と奄美大島の間にある、有人七島と無人島五島からなる南北約160kmの「南北に長い村」です。最後の秘境といわれ、台風銀座と言われる「吐喝喇(トカラ)列島」の全12島により構成されます。
 太平洋戦争前までは、現在の三島村を合わせた有人十島による村として「じゅっとうそん」と呼ばれていましたが、北緯30度以南(屋久島より南側)が米軍占領下に置かれた後、昭和27(1952)年に本土復帰を機に正式分村して、現在の十島村となりました。その頃は、有人7島の合計で3,000人弱の島民が暮らしていましたが、少ない島で約60人、多い島でも約150人足らずの小さいコミュニティーとなっていました。平成29年には694人(386世帯)まで減少し、無人島も増えました。
 これらの島々に行くには、週2回運航している村営フェリー「とから」で、夜の11時に鹿児島港を出港し、最南端の「宝島」に到着するのは次の日の昼頃という約13時間の長大航路です。
 有人島はそれぞれが個性豊かで、例えば悪石島では、盆の終わりに赤土と墨で塗られた異形の面を被り、葉の腰蓑を巻き、手首や足にシュロの皮を付けた「仮面神ボゼ」(国の無形民俗文化財に指定)が、ボセマラ(男根を模した棒)を持って女子どもを追い回す祭りがあります。

若者が移住する十島村

繁殖和牛
繁殖和牛

 島の産業はトビウオやカツオなど豊富な魚種を水揚げする漁業で、船からトビウオが飛ぶ姿も見えました。島内はうっそうと茂った亜熱帯性の植物に取り囲まれ、農地などほとんどないと思われましたが、意外なことに農業も島の大きな産業になっています。中でもブランドの「鹿児島黒牛」となる繁殖が盛んで、放牧畜産が島の基幹産業となっているのです。しかし人口減や高齢化の波は島に容赦なく訪れ、島の暮らしや産業などに影響を与え始めたのです。
 本州では考えられないことですが、役場が鹿児島市内にあり、役場に勤める40歳以下の島出身者がいません。聞くと採用試験を受けに来る島の若者がいないとのことで、いずれ島をふるさととしない職員ばかりになることを肥後村長(宝島出身)は心配していました。

 ところがここ数年、十島村に移住者が現れ、人口増加に転じているのです。
 私も数人のUターン者に会い話を聞きましたが、若い世代の後継者が帰島しつつあるのです。さらに他県から島に魅入られたように若者世代の移住が進んでいるのです。
 暮らすためには、産業があって雇用や起業ができないといけません。若者たちは新たな農業や漁業の創出や島野菜、果樹の栽培、また保育園や福祉施設に勤務するなどして生計を立てています。村でも様々な支援を展開し、農業や漁業の活性化を図っています。
 「一般社団法人宝島」を立ち上げた竹内功さんは、Iターンのリーダー的存在です。5年前に仕事を辞めて宝島に移住し、島ラッキョウの生産や漁業をしています。
 社団法人では魚の漁から加工(トビウオや島カツオ、サワラの冷燻製生ハムほか)、販売まで10人のメンバーで手がけており、今年4月には、島バナナから繊維を取り出し織り上げる「芭蕉布」という昔の伝統工芸品の復活を展開しています。
 和歌山県出身で2011年に移住した高木義浩さんは、海水を薪だけで約1週間かけて炊き上げる伝統的な天然塩づくりと、サトウキビを栽培して砂糖づくりを行っています。
 ふらりとやってきて移住する人たちが現れる不思議な島。圧倒的に交通や流通に不便な宝島と比較したらまだまだ条件が良い本州の過疎山村は、何故なのか探りに行くと良いでしょう。

若者の移住増加で出生率も上がる
若者の移住増加で出生率も上がる

復活を目指す芭蕉布
復活を目指す芭蕉布

一般社団法人「宝島」魚の加工品
一般社団法人「宝島」魚の加工品

ハブと共存して島バナナの栽培
ハブと共存して島バナナの栽培



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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」-東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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