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「地域の健康診断」バックナンバー

0032011.12.27UP地域を元気にする=自ら考え行動する

本州最北端の町、青森県大間町の悩み

 皆さんもよくご存じの最高級ブランド「大間のマグロ」を水揚げする大間町が、下北半島の一番先にあることは意外に知られていません。下北半島というと「恐山」や「寒立馬(かんだちめ)」「北限の日本猿」などをテレビで見た方もいると思いますが、その最先端の町が大間町なんです。
 青森県庁から車でおよそ3時間もかかる離島のような町で、生活圏は青森というより津軽海峡をフェリーで1時間40分渡った函館市です。
 ところがこのフェリー路線が、船体の老朽化に加え原油価格高騰や利用客の減少で運航廃止の危機を迎えています。本州最北端の町にとって死活問題です。町はひとまず、公設民営方式による航路存続の道を選びました。しかし東日本大震災による福島第一原発の事故以来、大間で建設中の原発の工事がストップ。フェリーは当面の廃止を回避しているものの、町では原発の固定資産税を当てにしていた事情もあり、先行きが不安な状況となっています。

NHKドラマきっかけに結成、まちおこしゲリラ「あおぞら組」

 町にはこうした事情があるものの、既にあった住民主体の町おこしの動きが、明るい展開をみせています。
 2000年、大間町を舞台にしたNHK連続テレビ小説「私の青空」の放送をきっかけに、地元で何かやりたいと悶々としていた島康子さんが「今やらないでいつやるのか」と気の合う仲間を誘って、まちおこしゲリラ「あおぞら組」を結成しました。
 行政主導のまちづくりでなく“自分たちのアイディアで自分たちの力でやれることをやっていこう”と集まった9名の行動原則は、
 1.おもしろいことは、待っててもこない。
 2.理屈こねる前に、まんず動け。
 3.やりたいやつが、やりたいことをやればいい。
 大間港の埠頭にいきなり現れて大漁旗を振る「旗振りウエルカム活動」のお迎えに始まり、「マグロ一筋」のロゴ入りTてーシャツや鯉のぼりのマグロ版「マグロのぼり」の作成販売、映画「ローマの休日」を模した町巡り「オーマの休日」など、とにかく自分たちが楽しみながら大間を元気にしようと常に新しい画策をしています。この勢いは大間の漁師を始めたくさんの住民を巻き込んでいて、町に行くと「地域まるごとおもてなし」の熱さを実感できます。

  

あおぞら組メンバー
あおぞら組メンバー

オーマの休日ポスター。実は男なのだ
オーマの休日ポスター。実は男なのだ

漁師のじいちゃん「まぐろ一筋」Tシャツ
漁師のじいちゃん「まぐろ一筋」Tシャツ

活動から10年、あおぞら組のDNAを継ぐ高校生

 あおぞら組の結成から10年、「『若者』『バガ者』と呼ばれていたが、このごろは胸張って「若者」とは言いづらい歳になりました」と島さんは笑います。
 そうした中で「あおぞら組」のDNAを受け継ぐ高校生たちが出てきました。
 今春、大間高校を卒業した「アヤちゃん」が昨年、「地域の魅力発信アイデアコンテスト」に応募して入賞【1】した企画が、この夏、後輩の手で実現したのです。
 最大の見せ場は、フェリーが港に入ってくると埠頭に立ち「よぐ来たの?!」と大漁旗を振り、港に着くと出てくる車やお客さんに向かって最後の一人までお迎えし、帰りも「へば、まだの?!(それじゃ、またね?!)」とお見送り。とどめは港から出ていくフェリーに向かって「へば、まだのぉぉぉ!!!」と見えなくなるまで旗を振り続けるというもの。10年の活動が、着実に町の若者の琴線に触れていたことを実感する逸話です。
 平成の大合併により、かつて地域づくりの優良事例と言われた活動が姿を消しました。実はそうした優良事例のほとんどは住民主体ではなく優秀な自治体職員が担っていたのです。つまり住民自らが考え行動する地域づくりを進めてこなかったために活動停止に陥ったわけです。
 あおぞら組には公務員もいますが、業務で活動しているわけではありません。補助金などに頼らず「金がないなら勇気を出せ」を合い言葉に活動した結果、多くの住民に認知され活動への参加も増え、信頼される地域づくり団体になりました。青森県で唯一、大間町の住民が増加する現象が起きていますが、この活動がその要因のひとつではないかと思っています。

大間高校生の旗振りウエルカム大作戦
大間高校生の旗振りウエルカム大作戦

南三陸町の福興市で応援メッセージのまぐろのぼり
南三陸町の福興市で応援メッセージのまぐろのぼり


注釈

【1】地域の魅力発信アイデアコンテスト
 経済産業省東北経済産業局主催のコンテスト。今春、県立大間高校を卒業したアヤちゃんたち「OMA3」が、あおぞら組の「旗振りウエルカム活動」の高校生バージョン「フェリー・グローアップ大作戦」を応募して、「ナイス企画賞」を受賞。今年の3年生が「旗ふりおもてなし大作戦」として、この夏に実現させたのです。島さんが「高校生のゲリラ魂が炸裂」と言う「旗振りおもてなし大作戦」は、この夏1日2セット×3日間行われました。

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このレポートへの感想

逆境でも気持ちが熱い人達は、大好きです
(2013.02.07)

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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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