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「地域の健康診断」バックナンバー

0202015.10.27UP地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営

弥栄の秋
弥栄の秋

 日本の自然や文化そして農業の多様性は、中山間地域として生き残れる素材の宝庫ですが、画一化しグローバル化する社会の中で多様性を最大限に生かす活動ができておらず、宝の持ち腐れとなっています。
 いまさら釈迦に説法ですが、農地と人を資源として農産物を生産・加工・販売することが農業経営であり6次産業です。その6次産業としての農業を強化するには、適地適作で美味しく品質の良いものを生産することを第一義として、地域特性や歴史に学び新商品を誕生させることが必要です。そしてその過程を「もったいない」物語として付加し、環境に配慮した商品として消費者に理解されるような交流事業や食の提供を行うことで、無理なく息の長い商品になります。


弥栄の地域自立と小坂(おさか)の集落営農

小坂農業生産組合の米の小型乾燥機
小坂農業生産組合の米の小型乾燥機

 島根県浜田市弥栄(やさか)町は、市内でも中国山地寄りの中山間地帯にあり、春には新緑、秋には黄金色に輝く田園風景が広がります。ゆったりとした時間が流れているような農村には、鉄道もコンビニもありません。都会的な便利さはなくても、温かな人情と高齢者の知恵や技が継承され、自然の恵みに感謝した豊かな暮らし方ができることもあり、外部のファンも多く移住者もたくさんいます。
 現在、人口116人(44世帯)、高齢化率44%の小坂集落は、22haの農地があります。担い手の高齢化や後継者確保を考えた小坂集落は、1994年に集落営農団体の「小坂農業生産組合」を設立しました。組合員は15名で、共同利用による大型農業機械を導入し、約13haの田起こしや田植え、稲刈りなど基幹作業の受託を行っています。
 この組合の特徴は、田植えから稲刈りまで肥料や農薬投入など栽培状況をつぶさに記録する米のトレーサビリティーシステムを確立していることや、農家ごとに小型乾燥機にかけて乾燥し、各農家の顔が見えるようにしていることです。さらに島根県が推奨する低化学肥料・減農薬のエコ栽培を実施。環境の良い田だけに生息し、「田を守る」というイモリを集落の田んぼでたくさん見つけることができるため、「稲守米(いもりまい)」と命名して、直接販売をしています。
 組合員の7割が他に生業をもつ兼業農家という小坂集落。
 「集落で何らかの技をそれぞれ持ちながら、兼業農家として生きる。これが日本のいちばん正しい農業農村のあり方で、この地で生きていく術。大規模農家では集落を維持できない」
 そう言い切るのは、生産組合の前組合長で大工の小松原峰雄さん。

 一方、集落の遊休化しつつあった農地は、若手の小松原修さん(1982生まれ)が設立した農業生産法人「小松ファーム」に集約しました。家族を主力メンバーに、同じ集落に暮らす高齢の自給農家や弥栄自治区の元農業研修生など13名を雇用し、34棟のハウスで葉物野菜など約10種類を栽培しています。経営が成り立つためには、自給農業や直売農業を営みながら、収穫、袋詰め、出荷などの作業の働き手として活躍してくれる高齢者や若手のIターン就農者の存在が大切と考えた小松原さんは、地元集落に働く場を創り、地域を元気にしたいという思いで有機農業に取り組みながら、地域の農業のけん引役として活躍。さらに消防団や、地域の伝統芸能である石見神楽社中でも活躍しています。


地元学の実践で住民意識が変わる

大学生の稲刈り体験
大学生の稲刈り体験

 2009年より水俣の吉本哲朗氏を招いて始めた「地元学」の取り組みは、過疎高齢化していく弥栄自治区の住民意識を変えるきっかけとなりました。自分たちが暮らす弥栄がどれほど豊かなのかを知り、素晴らしい地区と誇りを持つようになったと言います。弥栄での禁句は、「ここには何にもない」。まさに、住民の意識改革が進んでいるのでしょう。
 小坂集落では2010年より「地元学」の実践に取り組みました。最初は懐疑的な住民もいましたが、様々な切り口から絵地図を作成し、祖先から続く今の暮らしを再認識しました。その中で、集落を潤す大切な水源の山にある稲穂神社が朽ち果てつつあることに気づき、大学生たちの協力を得て自分たちの手で再建したのです。
 「地元学の実践が集落を変えた。本気でやるものが会合を終わっても残っていた。これが地域を再生する人材となった」と小坂集落の小松原峰雄さんは言います。
 交通の便が非常に悪く、観光客など来訪しにくい小坂集落ですが、交流事業を熱心に展開して、盛り上がりをみせています。
 地元学の実践後、Uターン3件、Iターン2件が発生したことからも集落民の地区に対する誇りと温かな受け入れが効果を出しているものと感じました。


イノベーションとは、他と違う地域モデルを創ること

 6次産業の果実は、暮らしている方々が笑顔で幸せを表現できることで、子どもや孫が幸せに暮らしていけることです。今地域で必要なことは、働く場を確保して豊かな生活を維持することに他なりません。今までの農村にないノウハウや人材が集まれば、新たなアイデアが生まれて、高齢化した農業を活性化させます。

 崩壊序曲を奏で始めた日本農業。この差し迫った状況を脱却し、国内自給の体制を確立するために、小坂集落の取り組みは大いに参考となることでしょう。

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  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
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  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
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  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
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