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「地域の健康診断」バックナンバー

0512023.08.01UP廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)

 近年、教育施設が子どもの減少を理由に閉校を余儀なくされています。
 平成の大合併が始まるまで、学校統合による閉校や廃校は地方自治体における「パンドラの箱」でした。自治体トップが学校を減らすと一言でも漏らしただけで、次の選挙で落選したからです。
 ところが平成の合併が進展したことで、小学校区の地域コミュニティのアイデンティティや社会的つながりが希薄となり、学校統合に対する忌避感が薄まりました。
 地域と学校の関係は「おらが学校」から、教育の問題もあって学習塾のごとく変化していったこともあり、行政トップが閉校宣言しても体制に影響がなくなったのです。
 その結果、文部科学省によれば2002年度から2020年度に発生した廃校の延べ数が8,580校になり、近い将来、1万校に達する見込みです。
 学校に通う子どもがおらず廃校状態でありながら、補助金返還ができないなどの問題から廃校にできずに「休校」としている隠れ廃校も数多く存在しており、統廃合や施設の除却さえ自治体財政を脅かす大きな課題となっているのです。

まずは廃校にしない

 公立学校で特に小学校区の統廃合は、地域社会を立ち直れないほど破壊する可能性があります。
 既に廃校となった地域を回ると、残念ながらコミュニティに活力が見られないと気づきました。
 コミュニティが弱体化したことが先か、それとも廃校になりコミュニティが弱体化したかは不明ですが、少子化による下振れリスクが顕著に出ているのは間違いないところです。
 このリスクを放置することは、学校区の衰退を助長してしまいます。
 ただ子どもが減って、教育的観点や財政効率化から見て統廃合すると考えるのは、少々短絡的です。
 山村では子どもが高校へ通う年代になると街に出て行き、空き屋と遊休農地が増加しています。親も子どもたちが暮らすことには否定的で、未来の地域に対する意欲を失いつつある状況を鑑みたとき、行政は上記の理由だけで閉校を決定してよいものでしょうか。
 各地で移住促進を頑張っても、地域コミュニティに活力がなければ、若者は住めないし、住みたくない地域となってしまいます。
 ここは統廃合を結論とする前に、学校区内の様々な価値やアイデンティティを拾い出し、どのような地域とするのか、住民と共にその目的を確認することが大切です。
 柳田國男翁は「昔の良いことの消失は仕方ない。しかし消失したという意識は必要である。次に、それは消えて良いものか、消えて悪いものなら、その代わりはできているか」と、大石伍一に語りました。
 いま柳田翁に問われれば、答えは「否」です。地域が失われたら元に戻らないし、代わりはありません。
 柳田翁は「昔の良いことの消失は仕方ない」と言いますが、消えて良いことは因習だけです。
 学校は地域の誇りであり、誇りが消失することは地域そのものを失うからです。
 小規模校でも廃校とせずに頑張っている自治体はいくつもあります。
 学校を多機能な拠点として活用したり、地域の子育て世代と高齢者との交流の場にする、またボランティアや企業の協力を得て学校の運営を支えるなど、地域にとって貴重な拠点として存続させるために、地域住民の協力や創意工夫による取り組みが求められます。

地域をリデザインし、再生する足がかりを創る

 廃校となった施設も、放置して廃墟にしてはいけません。いま起こりつつある事態の重大性を理解し、それに対して適切な対策を行えるかどうかが、地域の未来を左右するからです。
 そのためにはバーンアウトした住民に新たな燃料を投入することが大切となります。
 学校区の住民意識を変えるためには、ミーティングやワークショップだけでなく、さまざまなアプローチを組み合わせることが重要となります。
 廃校活用を自分事として考えられる方向に導かないといけません。その際には、特に地域リーダーや地域の有志が、廃校活用に対するリーダーシップを発揮することが重要です。地域住民に対して廃校活用の意義を情熱的に訴え、活動参加を呼びかけることで、住民が自分事として捉えるきっかけを与えることです。
 とは言っても地域リーダー不在も顕著となっており、完全にコントロールすることは難しいと思います。そうした学校区ではぜひ外部アドバイザーの活用を検討してみてください。
 長年、廃校活用の調査・指導から、廃校を有効に活用することの重要性やメリットを啓発する活動を行っている都市農山漁村交流活性化機構に相談すると良いでしょう。
 廃校となった教育施設の再利用は、地域コミュニティにとって貴重な資産です。地域をリデザインし、再生する足がかりを創るローカルな「イノベーションコモンズ(共創拠点)」として廃校活用がいまこそ重要です。


地域の食堂としている廃校

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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
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  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
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  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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