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「地域の健康診断」バックナンバー

0522023.10.03UP廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)

廃校は小中学校から高校まで及んでいる

 全国で小中学校の様々な廃校活用の事例がありますが、最近は都道府県の中では中高一貫教育校やSSH(スーパーサイエンススクール)など、新たな特色を出して生き残る道を探るところがあります。ただ、高校の統合などで、休廃校が高校という大型の教育施設に及ぶ状況になっています。
 高校再編は生徒数の減少が最大要因であり、少子化による統廃合は今後も進捗するでしょう。
 しかし統廃合しても県は大規模な遊休施設を保有する事実は変わらず、地元自治体に払い下げを提案するものの、明確な利活用がない市町村から受け取りを拒否されています。
 民間などに転貸・売却するにも使いづらいことが一番の課題です。さらに小中学校と違い「おらが学校」いう意識は地元にないため、施設を残して利活用しようとの動きも出ません。
 遊休資産を活かして地域に企業や人を呼び込めば、必ずその地域は元気になるとは考えられ、地域再生となり得る貴重な財産です。多様な有効活用を模索することが重要ですが、大型施設案件をこなせるプロデューサーがいないところも多く、県財政を圧迫する負動産となりつつあります。

「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」が描く未来

【図01】創造都市やまがたのビジョン

 こうした大規模遊休校舎の利活用に関して、山形県の事例調査を行いましたので、紹介します。
 山形市の市街地にある第一小学校は老朽化によって2004年4月、隣接地に小学校を新設したことで、国有形文化財である施設が空いてしまいました。
 いわゆる少子化で児童数の減少に困り、統合・閉校したケースではありません。
 第一小学校は昭和2(1927)年、県内初の鉄筋コンクリート造りで、ノスタルジーを感じるアール・デコ調の学校建築で国の有形文化財にも登録されています。
 山形市は30年にわたる国際ドキュメンタリー映画祭をきっかけに「ユネスコ創造都市ネットワーク」への加盟を認められたことで、市では映像文化をはじめとする多様な文化を重要な地域資産と捉え、産業、観光、教育振興に繋げようと「創造都市やまがた」のビジョンを掲げ、地元の企業、大学、団体などとともに展開していました。


 そこで、小学校の保存活用策を検討でも芸工大の教授や関係者と建築設計を行う方々が当初より運営までを睨んで参画しており、「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」の運営母体となる新会社を設立。2010年4月に「旧一小」から愛称Q1(キューイチ)として、「創造都市やまがた」の認知度を高めるための拠点施設として位置付けられ、生まれ変わりました。
 Q1は、山形市と東北芸術工科大学の公民連携で産まれたもので、公民連携プロジェクトのモデルでもあり、同じ山形県村山市の旧県立楯岡高校をリノベーションし、活動するLink MURAYAMAにも影響を与えています。
 公設民営の運営は通常、指定管理制度が多いのですが、Q1はテナントスペースとレンタルスペースを自ら賃借し、テナントへの転貸や利用者に使用させ、1階の一部と地下1階のスペースや共用部分は、管理業務を受託し維持管理費を市に負担してもらう一方で、施設全体からの事業利益はその7割を市に納める利益還元方式を採用しています。安定した経営基盤を創ると共に、できるだけフリーハンドの裁量を利かせられるようにしました。
 地下1階・地上3階建てで、コの字型廊下の片側に教室が並び、地元のショップやアートギャラリーなどクリエイティブ系を中心に幅広く、リコーグループの国内販売会社であるリコージャパンや隣接する天童市に本拠を置くサッカーJ2のモンテディオ山形など、地域に根差す企業も入居していました。
 施設で一番驚いたのが3階です。
 1階は綺麗な白漆喰でリノベーションされていましたが、2階・3階は真逆で、天井や壁は躯体が荒々しく剥き出しとなっており、昭和初期のコンクリートに触れることができます。このギャップがアートとしても面白く、Q1を印象付ける効果を与えています。

【図02】Q1正面玄関より

【図03】白漆喰の1階

【図04】2階・3階への階段はあえてむき出しに


地域の負のスパイラルに歯止めを

【図05】サテライト・オフィス

 5類に分類された新型コロナは日常の中でステルス化したことで、ビデオ会議やテレワークによる在宅勤務などのワークスタイルは終焉し、コロナ禍前の勤務形態に逆戻りしてしまいました。
 「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせたワーケーションを期待し、施設整備を行った地方ですが、企業もワーケーションを拡げる動きは少なく、在宅勤務と会社のハイブリッド・ワークが定着し、世の中を動かすムーブメントとはなりませんでした。
 地方では需要が見込みづらいサテライト・オフィスは、キチンとしたビジョンを持っているところや、企画段階から参画者を巻き込んだり、地域を理解し、人的ネットワークが豊富なコーディネーターを確保できた施設は順調に推移しています。
 廃校やその他遊休施設の活用は、地域に本当に必要なコトは何かを突き詰めながら、負のスパイラルに歯止めをかけるために企業や人材が育つ環境づくりが大切だと感じました。


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
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  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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