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「地域の健康診断」バックナンバー

0012011.08.16UP地域を元気にする=観光地化ではない

それは本当に地域の活性化ですか

 世界遺産や世界ジオパークの登録認定をきっかけに、地域をブランド化し観光誘致しようという動きがたくさんあります。現在、世界遺産登録を目指して活動しているのは富士山や鎌倉、そして南アルプスなどがあります。世界ジオパークには、北海道の有珠山や糸魚川、雲仙普賢岳のある島原が認定されています。
 直近では、東洋のガラパゴス「小笠原諸島」の自然遺産と「奥州平泉」の文化遺産登録がありました。これで地域は元気になると地元では大喜びです。
 けれども、前回登録された石見銀山は、認定されると一気に観光客が増加しましたが、その反面で排気ガスや交通の負荷、ゴミ問題など環境悪化のマイナス面も噴出。さらに2年後には観光客が激減して祭りの後の様相となりました。
 過去に認定となった各地でも同様の傾向がみられます。もちろんすべてがそうなるとは限りませんが、保護すべきであるはずのものが資源を切り売りする観光経済に翻弄された結果、さまざまな環境負荷や保護活動に支障をきたす状況にあるのです。

2011年・世界文化遺産登録された平泉(中尊寺)Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by YoAndMi
2011年・世界文化遺産登録された平泉(中尊寺)
Creative Commons,Some Rights Reserved,Photo by YoAndMi

2011年・世界自然遺産登録された小笠原
2011年・世界自然遺産登録された小笠原

地域には受け入れのキャパがある

 日本のチロルと言われる長野県飯田市上村の「下栗の里」。2010年に行われた信州デスティネーション・キャンペーン「信州の未知」で、1位に選ばれた山岳の集落です。
 スタジオジブリ作品「チューずもう」や「千と千尋の神隠し」のイメージにもなっている下栗の里は、南アルプスが目前に拡がる標高1100mにあり、最大斜度38度の傾斜地に60数世帯、150人ほどが自然と共生しています。
 過酷な急傾斜地の中に点在する家々は、谷側に石垣を積み山側にへばりつく構造で奥行きがない横長の建築で、屋根は板葺きに石ころを置き、裏手は泥水を避ける為に"ネコビサシ"と呼ばれる庇(ひさし)を付けています。天に向かって耕す畑では、蕎麦やトウモロコシ、原産地アンデスのDNAを保持した二度芋というメイクイーン系のジャガイモが栽培されています。
 ある時、観光で大型バスが進入してしまい、途中で立ち往生する事態が起きました。写真の通りの場所ですから、常識で考えれば大型バスを乗り付けるなど問題外なのですが、旅行エージェントは現地の確認をせずにツアーを仕立て、住民の交通や生活に迷惑をかけたのです。
 生活環境を脅かす観光振興は、決して地域住民の利益にはなりません。日本人の旅行スタイルは、かつての大型観光地詣でから無名の田舎旅にシフトしていますが、地域には地域の、受入できる限界があります。やみくもに人気観光地にしよう、道路も拡げよう、観光施設を作ろうとすれば、折角の優良資源を破壊しかねません。次世代に良質な日本を継承するために、地域のあり方を地域で再度問い直すことが大切ではないでしょうか。

日本のチロル・長野県飯田市の「下栗の里」 日本のチロル・長野県飯田市の「下栗の里」
日本のチロル・長野県飯田市の「下栗の里」

持続する地域とは

大名行列の時代の名残りを残すお祭り(長野県飯田市)
大名行列の時代の名残りを残すお祭り(長野県飯田市)

 行政や商工会議所が主体で短絡的に考えがちなのが大型の祭りイベント。派手なことをやれば客がいっぱい来てくれるのでは、というわけですね。ところが結果として、住民の暮らし環境を阻害することが多々あるのです。イベントは麻薬と同じで、始めると止めることが恐怖となります。「止めれば客が来なくなる、もうあの地域は駄目だと言われたくない」という妄想が頭によぎるのです。
 たしかに地域を元気にする手段のひとつであり、すべてを否定しませんが、安易な考えが多く持続可能な地域づくりとしての戦略目標が欠如していることが多いのが特徴です。江戸時代に各地で始まった祭りは、移封(国替え)された大名が赴任先の人心を纏(まと)めるために奨励した祭りで、時の為政者には効果絶大でした。現代の客寄せのための祭りイベントは、本当に住民の幸せに繋がっているかを検証しなければいけませんね。
 地域を元気にすることは、住民が健康で楽しく暮らす社会づくりであり、住み続けたい地域、子どもや孫が暮らし続けられる良い環境を整えることだと思います。

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このレポートへの感想

「地域を元気にする=観光地化ではない」
ということで、
小水力発電設備の設置を提唱します。
それが地域no持続可能な開発と
地域の安定した生活と活性化に結び付きます。

水利権問題さえ解消できれば
発電として1番環境負荷の少ない小水力発電、
ほんの短い用水路でも10台位の発電装置を
設置することが出来ます。

電力の地産地消が出来ます。
枯葉等のゴミ詰まり問題も地域で解消します。
(高齢者などの現金収入が期待できます)
水さえ流れていれば24時間発電できる
小水力発電がエコ学習の材料として
子供から大人まで、学習効果があります。

(2011.08.17)

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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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